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帰りたい(130回目)  VS王国騎士カペラⅠ


 なんとか商店街から離れた私たち、向かうは宮殿のあるエクレア中央の山。


 幸いにもそびえ立つ都市のシンボルは、私たちを見下ろすことはあっても私たちが見失うことはない。

 あとは真っ直ぐ、雲のかかるあの山に向かうだけだ。


「セルマ、ホントに大丈夫か……?」

「大丈夫さ、姉さんも流石に、僕の知り合いの一般人を殺したりはしないだろうさ。多分」

「多分じゃ困るんだよ!!」


 確かに、私も逃げていただけとはいえ、あの人の力を目の当たりにした身だ。

 アダラさんが半端な力ではないことも、敵への手加減というものが苦手そうなタイプだというのも、薄々感じていた。


「でも、姉さんだって腐っても王国騎士プロフェッショナルさ。

 騎士のこだわりは、人一倍強い人だし、大丈夫大丈夫」


 何が大丈夫なのかは分からなかったが、こうなってしまったらリゲル君の言うことを聞くしかない。

 まったく、なんだかとても彼のペースで事が運びすぎているような気がする。


「そうだ、ひとついいかい?」

「こ、今度はなんだよ……」

「僕あいにくこの後やらなきゃいけないことがあってね。

 少しここからは別行動にさせて貰いたい」

「はぁっ!?」


 別行動を申し出るリゲル君、目的地は決まっていても彼のサポート無しで王宮まで辿り着くのは、いささか不安だった。


「リゲル君、もう少しだけ一緒に────」


 しかし、以外にも真っ先に了承したのはスピカちゃんだった。


「ううん……リゲル兄、ここまでありがと……

 スピカは、心配ない、よ……?」


 と、性一杯の笑顔でリゲル君を見送ろうとしてる。


「い、いいんですか?」

「道なら、スピカも知ってる。カペラ兄の事とも、よく分かってる……

 だから、スピカを心配しないで、行って……ね、リゲル兄……」


 まぁ今回は、スピカちゃんの事で私たちは奔走しているのだ。

 協力してくれるリゲル君がダメと言って、スピカちゃんがいいと言えば、私たちに止める権利などない。


「ごめんね、どうしてもいかなきゃならないんだ。

 スピカ、僕がいなくてもできるかい?」

「うん──大丈夫……」


 スピカちゃんは少し照れくさそうに、俯いた。


「そうか、よかった。じゃ、これで」


 そのまま彼は屋根の上を跳んで、街のどこかへと消えていってしまった。


「まったく、妹の将来より大事な物なんかあんのかよ……」

「ううん、リゲル兄も大変なのに手伝ってくれて──スピカは嬉しいよ……」


 どうやら、こういう彼のつかみ所の無いところは、妹の知るところでもあったようで、こういうことには慣れっこらしい。


「それより、目指すところが決まりましたね」

「うん、スピカのお家……」

「あー、そうですよね。スピカのご実家」


 秋のビッグシャケ釣り大会で、スピカちゃんが「ぱぱのくるーずで海に魚を釣りに言ったことがある」と呟いていたのを思い出す。

 そういえば、王女様なんだからそれくらい、当たり前なんだよなぁ。


「公費────」

「こう、ひ……?」

「何でもないです。それより、もう一人の王国騎士──カペラさんでしたっけ?

 彼には接触しないように気をつけませんと」

「ううん、エリアルさん……それは多分、無理かも……」



   ※   ※   ※   ※   ※



 王宮のある山の麓、そこには頂上にある王宮直行のエレベーターがある。

 逆に、この直行エレベーター以外は頂上へと続く道はないはず。


 故に、いつもは鎧をガシャガシャ言わせた王国騎士の何人かが交代で見張りをして、いつも通る人々を睨みつけているのだけれど、今日そこにいるのは一人だけだった。


「あ、やっぱりいた……」

「おっ、やっと来たね、スピカ」


 エレベーターの前で待ち構えていたのは、カペラさんだった。

 どうやら私たちが王宮に行くのを見越して、先回りしていたらしい。


「やっぱり、ここで待っていれば来ると思っていたよ。

 というか、どうせここへ来なければお父さんの元へは行けないしね」


 一本道を背中で塞いで、確実に私たちの行く手を阻む。


 流石守りのプロ、王国騎士────と言うより、私でもそうする。

 考えてみれば当然か。


 むしろここでアダラさんがいなかった分、以外な策だったと言うべきだ。


「さぁ、スピカ? 諦めてオレと父さんの所へ!」

「い、いや……!」


 先ほどと同じように手を伸ばすカペラさん、しかしまたもその手を、スピカちゃんは振り払う。


「どうしてそう頑なになるんだい、君だって王国騎士が素晴らしい職業なのは知ってるだろう?

 もしかして反抗期ってヤツか?」

「違う、カペラ兄は何にも、分かってない……」


 あくまでもスピカちゃんは彼の要求に応じようとはしなかった。

 ならば──とでも言いたげに、しぶしぶと、ゆっくりと、カペラさんが臨戦態勢に入るのが見える。


「やるしかない、ですか────」

「いや、エリアル!! スピカァ!! コイツの相手はアタシがさせてもらうぞっ!!?」

「ひっ! く、クレアさん……??」


 突然、いつにも増して好戦的な様子のクレアが、前へと進み出た。


 いや、ここを通らなければ宮殿にたどり着けないのだけれど、この人はそれを理解しているのだろうか。

 先ほどのセルマように、またクレアだけ置いて先に────はまかり通らないのである。


「クレア、ここは3人で協力してエレベーターを突破するのが得策かと……」

「エリアル!! お前はバカか!!」

「え? えー……」


 バカにバカと言われた。


 いや、クレアをバカにするわけじゃないけれど、少なくともこの子にそんなことを言われる筋合いはないはずだ。


「考えてみろ、3人で突破するつったって相手は【王国最後の砦】、国王騎士だぞ!!

 苦戦してる間に、前のあの女が追いついてきたらどうする!!」

「クレア────」


 クレアのいうことはもっともだ、しかしそれは同時に、セルマの敗北も意味する。

 彼女には珍しい、後ろ向きな案だった。


「わあってる、わあってらぁそんなこたぁ!!

 でもセルマは────アイツは確かに死ぬ気であの女に向かってったんだ!!

 それを無駄にして今捕まるくれぇなら、エリアル!! おめぇが知恵振り絞って山登る方法の一つや二つくらい考えやがれ!!」

「クレアさん……」

「無茶は分かってんだよ!! ただそれがまかり通らなきゃ、この上にはいけない!! そうだろスピカ!!」


 スピカちゃんは答えなかった。


 しかしその沈黙は、この瞬間だけは肯定を意味するものだと、少なくともわたしは思った。


「じゃ、じゃあ、ここはお願いして……いいの……?」

「まかせろぁい!」

「カペラ兄、すごくすごく、強いよ……?」

「ナンボのもんじゃイッ!!」

「クレア、ところで本音は?」

「セルマにだけおいしいとこ持ってかれてたまるかぁいっ!!」


 イライラしたように怒鳴る。

 あ、本音が出たな。


「つーことで、頼むぜスピカのあんちゃん!!

 王子だかなんだかしらねぇが、油断してたらあの世イキだからな!!」

「────────っ、まったく、驚いたよ」


 ずっとこちらの話を聞いていたカペラさんは、頭をボリボリと掻きながら面倒くさそうにいう。


「僕が王子だと知ってるくせに、それでやる気になるのかよ……

 君よく、悪い意味で怖いもの知らずだって言われないかい?」

「あん? いわれねぇよ!!」


 いや、いわれてないだけでみんな思ってる。


「まぁいいさ、僕の役目はここを通さないことなんだ。

 スピカをここから先に行かせなければいいんだし、少しくらい遊んであげるよ。

 お手柔らかに頼むぜ、新人ちゃん」


 そう言うと、彼は手で挑発のポーズをとってみせた。


「あぁん!?」


 クレアは大声を上げてその挑発に乗ってしまう。

 この子はあからさまに挑発されるのが一番嫌いなのだ。


「テメェ舐めて調子のってると■■■■を■■■して■■■■■■■■■■■するぞ!!」

「ごめん、何言ってんのか全然分からない」


 案の定怒った彼女は、今にも飛び出しそうな勢いで拳を固めた。


「クレア? くれぐれも慎重に行ってくださいね?」

「わあってるよ!! 早く行け!!」

「ご、ごめんクレアさん……!」


 私はスピカちゃんの手を繋いで門から逸れるように走る。

 とりあえず敵である2人は足止めをしてくれているので先ほどまでのように逃げ隠れする必要はないが────



 しかしどうしよう、王宮まで行く唯一の手段が塞がれてしまった。

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