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帰りたい(126回目)  衝撃の円卓談話

「重くないですか、リゲル君」

「全然、この子はもう少し体重付けた方がいいね。

 それよりエリーは周りに警戒の目を向けてくれよ。

 もしかしたら、また彼らが襲ってくるかも知れない」


 私たちは今、エクレアの繁華街から、何本か逸れた裏路地を歩いていた。

 右へ左へと続く狭い道々は、最早私だけでは迷子になってしまうほど深くまで歩いてきている。


 先ほど王国騎士に襲われてからリゲル君に案内されるままに歩いてきたが、本人が目的地を言わなかったため一向にゴールが見えない。



 スピカちゃんは先ほどの疲れからか、スピカちゃんは眠ってしまい、今は彼におぶさっている。


 リゲル君は私とはそれほど仲は悪くないはずだけれど、こうして2人きり気まずい状況と言うことも今までなかったので、言葉につまる。


「えっと、リゲル君、あの────」

「無理に話題作らなくていいよ。それに、もう着いたから」

「えっ?」



 そこは、とあるお屋敷の裏口だった。


 お屋敷の表には大通りが見える、いつの間にか相当歩いてきてしまったようだ。



「ここは?」

「入って」


 リゲル君はスピカちゃんを背負い直すと、門扉を開けて、私を中に促す。

 そこから広い裏庭を抜けると、今度は屋敷の裏から鍵を使って開けて、中に入って行った。


「お、お邪魔しまーす」

「ただいまー」


 慣れた感じで屋敷を歩くリゲル君、促されるままに私も後ろへと続くと、屋敷の一角にある部屋の前で彼は止まった。


「ちょっと、そこの扉開けてくれるかな?」

「あぁ、はい」


 手の塞がっている彼の代わりに恐る恐る扉を開けると、中には既に先客がいるようだった。


「お帰りなさ────えぇ!? エリーちゃん!?」

「うぉ、エリー!! どうしたんだその傷!!」


 そこにいたのは、誰であろうセルマとクレアだった。

 そもそもリゲル君とは知り合いではなかったはずだ、予想だにしない2人の登場に私もと驚かされる。


「な、なんで2人がここに?」

「僕が連れてきたんだ、2人の力も必要になるかと思ってね」


 そういうと、彼は部屋にあるベッドにそっとスピカちゃんを寝かせた。


「えぇ、スピカちゃん!? どうしたの!?」

「おいアンタ!! スピカに何しやがった!!」

「待って、待ってください」


 掴みかかろうとするクレアを、私は慌てて止める。


「誤解ですから、さっき、王国騎士たちに襲われたところを、逃がしてくれたんです、彼は私たちの味方のはず・・ですから」

「え、王国騎士!? 一体何があったんだよ!?」

「今から説明するよ、まずは落ち着いてから話そう」

「わ、分かった……」


 自分も冷静でないと言うことに気づいたのか、クレアはバツが悪そうに呟くと、おずおずと下がってゆく。


「それにしても、はは、酷いなぁ。味方の『はず』って、常に僕は君の味方じゃないか?」

「そうなんですけど、ねぇ?」


 どうにもこの男は油断ならないというか、何か底知れないものを隠し持っている気がしてならない。


 今回も、クレアやセルマがここに既にいるということは、私たちが王国騎士に襲撃されるというのを最初から予想していたのではないだろうか────


「まぁ、いいや。それより、みんな今の状況がどうなっているかを示し合わせた方がいいんじゃないかな?

 お互いの情報の交換会ってヤツだ、座りなよ」

「はぁ……」


 促されて、2人の囲んでいた円卓に私も失礼させていただく。


 それにしてもここは、何というか落ち着かない部屋だ。

 勝手知らざる他人の屋敷────というヤツだろうか、周りに置かれた鏡や化粧台、もちろんスピカちゃんが寝ているベッドも合わせて、高級そうなものの雰囲気が滲み出ている。


 部屋も私の家の何倍はあるか、という広さだし、やはり背中の付かない部屋というのはどうにも落ち着かなかった。


「この部屋が気になるかい?」

「えぇ────まぁ。もしかしてここって……」

「ふふっ、ご想像にお任せするよ」


 意味深な笑みを浮かべるリゲル君、別に隠さなくてもいいだろうに、やはり彼はつかみ所のない性格を貫きたいらしい。


「おい、リゲル様──そんなことより、そもそもなんでスピカが王国騎士に襲われたんだ。

 第五王子、アンタなら知ってんだろ」

「クレアちゃん失礼よ──でも、そうね……

 スピカちゃんのピンチだって声をかけられたから付いてきてしまったけれど、正直王国騎士だの、王子様だの、自分達もついていけないわ。

 リゲル様、よければ説明していただけませんか?」


 本来なら王子にこんな態度、あるまじき行為なのだけれど、彼は特に気にした様子もなく肩をすくめる。


「分かってるよ。エリー、僕から説明する」


 リゲル君はそう言うと、私たちと同じように、円卓を囲んで腰を据えた。


 セルマとクレアの緊張した視線が、彼に集まる。


「まずは──とりあえず僕の身分を明らかにしておこうか。

 改めて、僕はリゲル・ベスト、エクレア軍a-3級の軍人で、この国の第五王子だ。よろしくね」

「よ、よろしくお願いします……」


 2人はおずおずと頭を下げて挨拶をする。


 流石のクレアも、相手の「王子」という身分にはお得意の反骨精神も、あまり長くは持たないようだ。


「エリーちゃんから話は聞いたことあります、でもなぜ王子であらせられるリゲル様がスピカちゃんを助けてくださったんですか?」

「あぁ──まずはそこから話さないとね。

 それは、僕がスピカの兄だから、だよ」

「あーそうなんですか……………………え?」



 当然のように知らされた事実に、一瞬タイミングを遅らせて、反芻するセルマ。



 クレアもその言葉の意味を理解できずに考え続けている。



「え? え? え? そ、それってどういうこと??」

「どういうこともないよ、言っていることはそのまま、何の捻りもない事実さ」



 国の第五王子──の、妹であるスピカちゃん。



 つまり────



「つまり、スピカちゃんは国王の娘にして、れっきとしたプリンセス。

 それがあの子の本当の身分なんです」

「「────────っ、えええええ!!!?」」


 私の補足説明に、ようやく頭が追いついた2人が驚きの声を上げる。


「お、いい反応だね」


 楽しそうに笑うリゲル君だったが、私は少しだけ驚かされた2人が可哀想だった。


「ええええぇ!? じゃ、じゃあスピカって!!」

「この国の王女様なの!?」



 この国のお金の単位にもなっている国王の姓────ベスト。


 その名前を持つ、この国の第三王女、スピカ・ベスト。


 それが彼女の本名である。

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