目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
帰りたい(121回目)  君をスカウト!


 全てが終わった海は、とても静かだった。

 もう海から骨が襲ってきたり、海賊たちの怒声が聞こえたりすることもない。


 今までカツラに変身していたきーさんは、猫の姿に戻ってひなたぼっこしている。



「すみませんでした、私のせいで」

「いいのいいの、嬢ちゃんは気にしないでよ」


 平気だ、とジョノワさんは舵輪から手を離し、軽く手を振ってみせる。

 彼が今操っているのは、先ほど押収した海賊船────


 岸まで戻るのに、これなら都合がいいからと、敵を乗せたまま【怪傑の三銃士】が操舵を始めたのだ。



 海賊たちを倒した【怪傑の三銃士】は、その後すぐに私の報告受けて彼らの元アジトに向かってくれた。

 ロマンを求めて海賊の元で働いていた少女サナラ──彼女を狭いクローゼットの中に閉じ込めたままこの海を離れてしまうわけにはいかないと3人とも分かってくれたのだ。


 しかし、海賊の元アジトに戻って例のクローゼットを覗いてみたが、そこは既にもぬけの殻。

 船に乗り遅れた他の海賊は何人か見つけて捕縛できたが、彼女だけはその周辺を探しても見つかることはなかった。


「こんなことになるとは思わなくて────」

「いやいや、嬢ちゃんだって人質の中よく逃げ出した。あとは報告だけでいいと思うぜ?

 これだけの犯罪組織集団を捕らえたんだ、1,2匹の取り逃がしは仕方ねぇだろ」


 さすが、始末書を書き慣れた先輩は違う。

 そういうメンタルは、私も素直に見習いたいところだ。


「そういえば、よくここが分かりましたね」

「あぁ、あのアジトの場所はセルマ嬢ちゃんたちから聞いた情報で予想できた。

 ハハッ、まぁ既に出港しているのは予想外だったから少しだけ焦ったぜ」


 そう言いつつも、海を越えて私を助けに来てくれた彼ら────


 今回、この人たちとの仕事でなければ、私はとっくに海の藻屑になっていただろう。


「あ、そういえばこの船はマグロ村に向かっているんですよね?」

「あぁ、君の隊の他のお嬢さんたちは、戻って村人の安全を確保して貰っているよ。

 あぁ、そうだ────エリアル嬢を村に置いたら、僕たちはこっからこの船を使って、ミューズまで行くんだけど、後のことは任せていいかな?」

「え、村に寄らないんですか? あぁ、まぁ確かにそうか────」


 今この船に捕まっている40人────この大人数を運ぶなら、このままその海賊船でミューズまで行き、そこで軍に引き渡すのが一番早い。


 犯罪者とその船を、ずっと村の港に停泊させる訳にもいかないだろう。


「いやぁ、それだけじゃないんだけど……まぁいいや」

「なぁそれよりエリアル嬢よ。悪いが君を村まで送るから、とりあえず海は漁が出来る状態と言うこと、今後解決したらしっかりあんたらにも説明するということを、村人にも伝えといてくれねぇか?」


 サラサラと紙にメモしながら、エッソさんはこの後やらなければいけないことを差し出してきてくれた。


「分かりました────ていうか、本当に骸骨はもう出ないんですよね?」

「あぁ、見てみろよ」


 そういってエッソさんが指差す先────


 そこではライルさんが、釣りをしていた。


「なんで────オレが……」

「のんびりしてるからに決まってるだろ全く!!

 今晩のメシ分は釣って貰うからな!!」


 寂しそうにタバコをふかしながら、一人ポツンと釣りをしているおっさん────


 相棒のミーはそのニオイを嫌がって彼に近付こうとしていないし、なんだか哀愁漂うその背中はたくましくもあり悲しくもあった。


「ライルさん、釣れてるんですか?」

「さっぱり釣れないらしいよ。でも漁をしても、骸骨の襲撃はなくなったね」


 【絶海のスカルコード】の固有能力は、一度倒されてしてしまえば、すべて無効となるらしい。


 おかげで、今私たちの周りには霧も骸骨も一切見当たらない────見えるのはただただ広い水平線だけだ。


「平和だな、ニールが気絶しただけなのになぁ」

「ニール?」

「あいつ────この船の船長の本名だよ。ニール・トーマス。

 【絶海のスカルコード】なんて豪勢な通り名を付けられていても、所詮は人の子というわけ」

「案外普通の名前だったんですね」


 そう考えると海賊といえどただのおっさん────今回の私は、彼らに捕まったり殺されかけたり散々だったのも、なんだかショボく思えてきた。



 まぁほぼ全て不可抗力みたいな物だったけれど、こう何度もトラブルに巻き込まれていては、段々アデク隊長のトラブルメーカーも笑える立場でもなくなってきている気がする。


「そんなことないぞ────君は立派だ」

「ありがとうございます、ライルさん」


 ライルさんに誉められて、少しだけ嬉しくなる。


 この人たちに評価されるのは少しおこがましい気持ちもあるけれど、素直に私はその言葉を受け取ることにした。


「いやリーダー、言葉数少なくねぇか?

 もっと前から君には注目してたんだぜ、って言ってやらねぇと分からねえよ」

「そうか────分かった」

「え、どういうことですか?」

「ほら、前々から中々ランクが上がらない、図書館司書に異様に人気のある女の子がいるってのは聞いていたんだけどね?」

「図書館司書に人気って────」


 そういえば、私のことは大図書館の妖精さんとして都市伝説にまでなっていたのを思い出す。


 その噂って、てっきり狭い界隈だけで呟かれている物だと思っていたけれど────

 なんか私の知らないところで、世間に疎そうなおっさんたちにまで認知されていたらしい。


「まぁ、それで半年ちょっと前アデクがエクレアの街に帰ってきたとき、その嬢ちゃんが一役買ってたって聞いてきょーみ持ってたわけよ」

「は、はぁ……ありましたねそんなことも……」


 その一役は、あの森で彼のことをよく知ることが出来たから私でも出来たことなのだろう。


 しかし、そんなこというなら、【怪傑の三銃士】のみなさんだって、本来の役割だったバルザム隊長だって、役目を果たせていたのではないだろうか?


「それは分からねぇけど、オレらは元々アイツらとの付き合いがあるしな?

 ただ、オレたちだってあのへそ曲がりを説得できたか分からねぇのによ、それを1人で達成しちまったんだ」

「他の隊員が消えた中────よく頑張ったな」


 な、なんだろう誉められるのは嬉しいしそれはそれで悪い気はしないのだけれど────


 この人たち何企んでるんだ?


「け、結局どういうことですか?」

「うんエリアル嬢、実は僕たち後継者を探していてね」

「後継者、ですか?」

「あぁ、オレたちも結構いいおっさんだし、そろそろ【怪傑の三銃士】の能力を受け継ぐ次世代の育成をしなきゃならねぇ」


 確かに、この人たちは普段の素行はともかく、闘いの技能や推理力は軍の中でもトップクラス────それを今の代で途絶えさせてしまうのは、とてももったない話だというのは分かる。


 でも、そんなこと私に話してどうするんだろう?


「またまた、分かってるんだろ?

 仲間が行方不明という中、1人でアデクに遭遇して街に連れ帰れる悪運が君にはある」

「は、はぁ……」

「今までの任務の資料も見せてもらったけど、わりかしトラブルに巻き込まれているのに、ほとんど解決には君が関わっているそうじゃないか。

 推理力もあるんだね、きっと」

「アデクを説得した手段────それも我々は評価している」


 そこまで言って、何となく言いたいことを理解できた。


 いやな予感がするけれど、それってまさか────


「テイラー嬢、オレたちの後継者、窓際族────どうだ?」

「い、イヤです────」



 光栄な話なんだろうけどなぁ。


 陸までの帰り道、おっさんたちの笑い声が響いた。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?