2対数十人、しかしその数が相手でも、2人は私に忠告をしに来るほど余裕があった。
「エリアル嬢も、一応自分の周りは気にしろよな?
リーダーの方に骨が集中しているおかげで周りに減ってはいるが、何があるか分からねぇんだからよ」
「あ、すみません。やることなくて……」
「ハハッ、まぁ無事ならいいんだけどな!」
一方、たまに視界に映る【スカルコード】とライルさんの闘いは壮絶だ。
初手こそ専制的に優位にたっていたライルさんだったが、骨を操る能力を使う【スカルコード】は、骸骨を武器に、盾に、移動手段にと利用し、彼の猛攻を防ぎ反撃を繰り返す。
「骸骨────キリないな」
「オレの命令で動く部下だぁ! 生身で喰らって生きてたヤツはいねぇぞぉっ!」
宙に浮いた鋭い骨が、無数に散らばりライルさんに襲い掛かる。
「フンッ────他愛ない!」
しかし塵のように細かい骨たちも、彼は近くにあったサーベルを拾い、難なくいなしきって再び攻撃に転じる。
「ちっ、化け物かよ!!」
「よく────言われるっ!!」
お互いの拳が、お互いの剣がぶつかり合い高い音、鈍い音が交互に船に木霊してゆく。
「すごい────」
「あーあー、リーダー頑張ってるなぁ」
2人の闘いを見ていると、仮面の男の一人────ではなくジョノワさんが、面倒くさそうにそうにこちらに歩いてきた。
仮面を付けていていたので一瞬構えてしまってが、どうやら途中で敵の物を奪ってガスを防いでいたらしい。
「まったく、おめぇは少しは手伝えよ!」
「ごめんごめん、僕はこのチームの参謀担当だからね」
さして疲れた様子もなく、エッソさんもこちらへと戻ってきた。
「それはお前が勝手に言ってるだけだろ、ったく……眠い……」
そういう彼も、2人の闘いをしばらく見てから心底暇そうにあくびをする。
「え、エッソさん敵は────」
「あぁ、もう片付いた。ほら」
彼の指差す方向を見ると、船上にいた海賊と仮面たち────全員がロープで動けないように縛り上げられていた。
それぞれが気絶させられているのか、時折誰かのうめき声が上がる以外は、皆が静かになっていた。
「は、はや────」
「さすが速効解決のプロ、って誉めてくれてもいいんだぜ?」
「まぁ、1人だけチンタラやってる男がいるけどね」
そういう彼らの視線の先には、ライルさんがいた。
【スカルコード】との闘いは激しさを増していたが、お互いに決め手にかけるのか、一進一退の攻防は見ていてハラハラする。
「加勢とかしなくていいんですかね?」
「いいんじゃない? あの人もう半分遊びになってるし」
「え?」
確かに、敵はかなりイライラしている様子だった。
比べて、ライルさんは最初の時よりも落ち着きをました表情で、静かに敵を見据えている。
「くそ!! なぜ当たらねぇ!!」
「貴様の技に────心がないからだ」
「心だぁ!?」
しかし熱い闘いを彼らが演じている一方で、仲間の反応は厳しい物だった。
「リーダー、そういうのいいから早く終わらせてくれよ」
「まだ他にもやることあるでしょう、海賊ばっかに時間とれないんだよ」
「ムッ────────ダメか?」
「だーめ!」
闘いに茶々を入れられたのが気に入らないのか、ライルさんは横目で部下2人を睨みつける。
「はっ、お仲間に見捨てられたか!?」
「早く終わらせろと────言われた」
少し寂しそうなライルさんは、甲板で括り付けられた敵たちを見て、敵を見て、手元の懐中時計を見て────諦めたように短くため息をついた。
「分かった────すぐ終わらす」
「あーあー、別に嫌がらせのつもりじゃねぇんだリーダー。大のおっさんがそんな顔するなよ……」
「いや、いいんだ────来いっ“シャドウ・ピューマ”!!」
ライルさんが声を張り上げると、短く彼の影が揺らぐ。
幻覚かと一瞬目を疑ったが、確かに光変わらぬ太陽の下、彼の影だけが揺らいでいた。
陽炎のように映ったその影は、私たちの目の前で徐々にその姿を変えてゆく。
「精霊か────」
ライルさんの後ろにいつの間にか立っていたのは、黒いピューマ型の精霊だった。
見た目普通の猫科だが、全身が紫煙のように揺らいでいる。
目を離せばいつの間にか消えてしまいそうな実態は、しかし確かに精霊としてそこに存在した。
「ガチモノの化け物じゃねぇか……」
「よく言われると言ったろう────いくぞミー! “精霊天衣”!!」
ミーと呼ばれたピューマは、ライルさんに影として巻き付き、彼を守る鎧の実態となる。
「“デュアル・ホーンデッド”!!」
「遅いっ────“黒牙”!!」
「がっ!」
両側から貫く骨の猛攻も、黒い鎧にはまったく効果がないようだった。
崩れた骨をモノともせず、迫った一撃で“スカルコード”に強烈な正拳突きが炸裂する。
「ミーはな、アイツが軍の新人の頃から契約している精霊で、昔は毎日そいつの自慢ばかりしてやがったもんさ。
おかげで同期のヤツがオレら以外誰も寄りつかなくなって窓際族と呼ばれるようになっちまった」
「でも最近お酒飲みすぎて、そのミーにも愛想尽かされそうになってるんだよ。
むしろ奥さんの方に懐いて、仕事終わってからも居場所がないんだってさ」
私が珍しく真面目に闘いを見つめていたのに、横で嫌がらせのように世知辛い情報をおじさんは羅列してゆく。
「や、やめたげてくださいよ────」
「ハハッ、わりぃわりぃ」
「でも、もう終わったみたいだよ」
「は?」
言われて振り返ると、そこに立っていたのはライルさんだった。
骨は飛び散り、全て打ち落とされ、その中心には【絶海のスカルコード】が倒れていた。
「終わらせたぞ────満足か?」
「おそい!!」
勝ったのに冷たい仲間たちだった。