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帰りたい(119回目)  おっさんたちの闘い

 マストの上に、男の影が3つ────


「はぁ、なるほど────テメェら、【怪傑の三銃士】か」

「正解────だっ!!」


 逆光の中、叫びと伴に真ん中のシルエットがマストから駆け下りた。


 シルエットは甲板に降り立つと、その力をそのままに周りの海賊を踏みつけこちらに迫る。


「ライルさんっ」

「おぉっ────だっ!」


 瞬く間に距離を詰めて放たれる強烈な一撃────


 上からの勢いをバネに放たれた踵落としは、私を押さえつけていた【スカルコード】を掠めた。


「ぐっ!!」


 しかし反射的に避けた彼は、そのまま弾き出された右肘の第2擊、左腕の第3擊をかわしきれない。


 強烈な連打はその後も止むことはなく、数歩分後ろに後退させられた彼は、反撃も出来ず両腕でガードしてなんとか防ぐのみだった。


「がっ! いでぇじゃネェかよ……」

「そういう様に────殴ったからな」


 涼しい顔で、再び拳を構えるライルさん。


 その目には、冷徹さに燃える炎が浮かび上がっている。


「こちにゃ数いるのを忘れてねぇか────いけ、野郎ども!!」


 腕の一降りで、ライルさんの目の前に数人の海賊が立ちはだかった。


 船長の盾となる彼らには、この状況においてもなお闘志がみなぎっている。


「5人────6人か?」

「おいリーダー、ひっさしぶりの仕事なんだ一人占めはなしにしようぜ」


 いいながら、マストから飛び降りてきたのはエッソさんだった。


 あの巨体からは信じられないほど身軽に、甲板に着地をする。


「なら任せるぞ────エッソ」

「あいよ、まとめて40人てとこか?」


 ジロリと横目で海賊と仮面の集団を彼が睨むと、一瞬その圧に押されたように彼らがたじろぐ。


「やんねぇのか? ならこっちかーらっ!」


 甲板を力強く殴りつける。

 すると木製の床は破壊されず、代わりに船全体に衝撃波が広がり地震のように当たりが揺れた。


「うぉぉっ、うちの船に何しやがる!!」


 揺れた船の際で立っていることの出来なくなった者達は海へ落ちてゆく。

 その場で膝をついただけの者達も、彼の圧倒的な力の前に怯んだ様子だった。


「船は押収するつもりだからな、破壊しなかっただけありがたいと思いな犯罪者」

「バカめ戯言を!!」


 しかし、エッソさんの放った衝撃波は少なからず私にも及んだ。

 揺れた床に耐えきれず、私は身体を拘束されたままバランスを崩して倒れ込みそうになる。


「おわっ……とと」

「大丈夫かいエリアル嬢」


 危うく船に頭をぶつけるところだった私を支えたのは、ジョノワさんだった。


 一体いつの間にマストの上から移動したのか────そう認識できないほどの速さで、彼はそこに立っていた。


「あ、ありがとうございますジョノワさん」

「あー、動かないで動かないで」


 軽く彼が爪を引っかけると、それだけで私を縛っていた縄はホロホロとほどけていった。


 もちろん縄が緩かったということはない、それなのに彼の前では、太いロープも濡れた紙のように無力だった。


「ど、どうやったんですか……」

「今度教えてあげようか? っと────危ない危ない」


 私を引っ張ったジョノワさん、見ると【スカルコード】の骸骨がすぐ手前まで登ってきて、私を掴もうとしてきていた。


「敵は、あくまでも数で勝負したいみたいだね。

 やれやれ、十把一絡げで僕らに勝てると思っているのか────そうだ、エッソぉ、助けは必要かーい?」

「半分頼む!!」

「ひーふーみー……ふぇ────多いな」


 海賊と仮面を合わせて数えていたジョノワさんだが、押し寄せる骸骨の群れを見て数えるのを止めたらしい。


 もうこの船の周りには、先日の漁村で見た数とは比べものにならないほどの骸骨が集まっている。


「エリアル嬢、ちょっと手伝ってくれないかな?」

「え、何をですか?」

「君、風魔法使えるよね?

 これ降りるとき敵からスッてきたんだけど、使っていいかな」


 彼はそう言うと、手から丸い球体のような物を取り出した。


「これは────」


 テラテラと光るそれは、見ただけで何に使う物なのか容易に想像が出来た。


「催眠ガスの元だよ。あの仮面の男から盗ってきた」

「なにっ!?」


 指を指された男は、慌てて懐を確認する。


「え、でも私の風魔法をどうすれば……」

「ほら、あっちの方にガスが向くようにしてくれればいいんだ。それっ!」

「え? えぇ?? えっと────“朱色領域ヴァーミリオンリージョン”!!」


 指示通りの方向に風を起こして、ガスを追いやる。


 すると船に当たる風をも合わせて、甲板全体が催眠効果のあるガスに埋め尽くされていった。


「ライルー、エッソー、避けてくれー」

「無茶言うな!! クソッ!!」

「バカめ────足引っぱるな」


 そう言いつつも、2人はうまく充満するガスを避けて闘っている。


 しかし逃げ切れなかった海賊たちは催眠ガスに煽られて、その場に力尽きていった。

 吸う量が少なかった団員たちも動きが鈍くなっているのが分かる。


「よしよし、大体人間は半分くらいが今ので眠っちゃったんじゃないかな? ノルマ達成だ」

「でも、仮面の集団はまだ誰も倒れてませんね」


 そういえばあの仮面にはマスクの効果もあるのだった。

 私たちを襲ったとき得意げに見せびらかしてきたのを思い出す。


「仕方ないなぁ、僕も闘おうか」


 面倒くさそうに頭を掻きながら、ジョノワさんは一歩前に出た。


 腰からサーベルを取り出すと、ギラつく刃が光を異様に乱反射して、目を覆いたくなる。


「ま、まぶしい……」

「う、うんありがとう……

 奥さんに逃げられてから、こいつの手入れぐらいしかやることなくて────」


 悲しそうに呟くジョノワさん。

 剣を見ながら目元を潤ませている。


 目元の涙が光を異様に乱反射して、目を覆いたくなる────


「な、なんだか思い出したら腹が立ってきたぞ。

 君たち僕の八つ当たりに付き合ってもらおうか!!」

「きゅ、急になんだ!!」


 サーベルを構え、近くにいた仮面に襲い掛かるジョノワさん。

 お互いの剣が2回3回と火花を散らす。


「ふんっ! エリアル軍【怪傑の三銃士】ジョノワ────

 噂に違わぬ剣術の達人だ、是非手合わせしたいと思っていたのだよ」

「あー、僕のこと知ってるの? それは残念」


 そう彼が言い終わった頃には、敵の男はその場に膝をついて倒れ込んだ。


 あまりに突然のことに、本人でさえその事実に気付くのに一瞬遅れた様子だ。


「な、なんだ……!?」

「か、め、ん、外されたらマズいんだろう?」


 そう言うジョノワさんのサーベルの先には、いつの間にか敵から剥がされた仮面がぶら下がっていた。


「ぷはぁっ、苦しかった!!」

「うぅ────ぐぅぅ……」


 仮面をそのまま自分に付けるジョノワさん、そして催眠ガスを吸って動かなくなる敵────



 その後もジョノワさんとエッソさんの甲板での快進撃は続き、瞬く間に敵の数は減っていった。


「すごい……」

「エリアル嬢も、一応自分の周りは気にしろよな?

 リーダーの方に骨が集中しているおかげで周りに減ってはいるが、何があるか分からねぇんだからよ」


 ボーッとしていると闘いの合間を縫ってエッソさんが私を諭してきた。


 2対40ちょっと、しかしその数が相手でも、2人は私に忠告をしに来るほど余裕があるようだ。

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