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帰りたい(118回目)  【絶海のスカルコード】


 男装がバレ、海賊に囲まれる────


 そして気がつくと私は、身体をグルグルと縄で縛られ、私は悪そうな大人に囲まれていた。


「海賊ナメやがって。命知らずは嫌いじゃねぇが、オレに逆らったなら未来がねぇのは当たり前だよなぁ?」


 【絶海のスカルコード】────船長と呼ばれた男は、機嫌悪そうに近くの樽を蹴飛ばすと、手に持ったサーベルをこちらに突きつけてきた。


「おい、いねぇ。サナラは────飯炊きの女はどうした」

「お、置き去りかと────」

「ちっ、しゃあねぇか」


 少しだけ思うところがある様子の顔をした【スカルコード】だったが、すぐに私に向き直る。


「この刃で首を跳ねられる、海に落ちる、選ばせてやる」

「────ご、ご勘弁を……」


 ヤバいマジな目だ、人質であるはずの私を、この男はマジで殺そうとしている────


「おい待て待て!! せっかく人質がここにいたんだ、その女を殺すな!! あとその置き去りにされたヤツも連れてこい!!」


 しかし、幸にも船内に味方がいたようだ。

 仮面の中の1人が、船長を止めに入る。


「なぜそんなことをせにゃならん?」

「分かってるのか!? 我々の人質だろう!? 置き去りにしたヤツから情報が漏れたらどうする!?」


 激高した仮面の男が、【スカルコード】に詰め寄る。


 すると、周りの船員たちが彼をゾロゾロと囲み、その行く手を遮った。


「なっ────お前達、その軍人を殺すってのがどういうことか分かってるのか!?」

「分かってるさ、【怪傑の三銃士】つーヤツらが、オレらを殺しに来るかも知れねぇって話だろ?」


 敵に、そこまで情報が漏れていたのか────


 一体どこから今朝の今で、そんな話が伝わってしまったのだろう。


「だったら────」

「だが、分かってねぇのはオメェらの方だ都会のクズが。

 海賊は、舐められちゃならねぇ、それは絶対の掟だ。

 脱獄されて、仲間になりすまされて、これ以上船に置いておくのは『自由』じゃねぇ!」


 その言葉に、周りの海賊たちはそうだ、そうだと灰色の怒号を飛ばした。


 流石の仮面の男も、その勢いに数歩後ずさりをする。


「来るか来ねぇかも分からねぇ敵にビビって、人質にも弄ばれたなんて、海に示しがつかねぇだろうよ。

 この女だって腐っても軍人さんだ、海賊を敵に回した時点で、死の覚悟くらい出来てるはずだよなぁ?」

「いや、なるべく死にたくはないんですけど────」

「だから、テメェに選ばせてやるつってんだよっ!!」


 私の要求を聞いてもなお、【スカルコード】は強引に話を進める。


「くそ、エクレア全てを敵に回すってのか!!

 イカれてやがる!!」

「そろそろうるせぇぞ、お前らそいつから海に落とせ」

「は!?」


 彼を囲んだ海賊たちが、ゾロゾロと掴んでかかり、船からそのくらい濁った海へ突き落とそうと、力を込める。


「わー!! わーわーわー!! 悪かった!! オレが間違ってた!! 許せ!! 許してくれ!!」


 その声に【スカルコード】が軽く手を上げると、海賊たちは彼を解放した。


 捕まっていた仮面はそれですっかり勢いを失い、陸に上がった魚のようにしおらしくなってしまった。


 もっと私のために頑張って欲しかった────


「最期まで闘う意思もないくせに、粋がってんじゃねぇよ」


 【スカルコード】はそう吐き捨てると、手に待ったサーベルを再び私の首元に突きつける。


 僅かに触れた切っ先────私の首元から垂れた生暖かい液体が、甲板にシミを作る。


「や、ヤメてください……」

「テメェは反抗するのか、しねぇのか、さっさと決めろ。

 2つに1つだと言ったはずだ」


 首を絶たれるか、海に落とされるか────


 普通なら海を選ぶのだろうけれど、彼の目に映る暗い影────私が生き残れるような甘い選択肢でないことは、容易に想像できた。



 多分、これは実質の死刑宣告なのだろう────



「う、『海に落ちる』を選んだら、どうなるんですか────?」

「こい」


 【スカルコード】は乱暴に首根っこを掴むと、そのまま船の端へと私を引っ張ってゆく。


「ぐぇっ────」

「見ろ」


 無理矢理首をもたげさせられ、船が浮かぶ淡い波間が視界に飛び込んでくる。


 青────青────青────骨────?



「う、うわっ」


 波間から、1体の骸骨が船へと這い出てきた。


 その数は2体3体と増えてゆき、前回骸骨に襲われたときの再現のような光景が目に飛び込んでくる。



 正直、もう二度と見たくないと思っていたのだけれど、こんな所で再びお目にかかってしまうとは────


 でも、漁もしていなければ霧も出ていないこの船に、なぜが遺骨が────


「オレの固有能力だ」


 私の心の疑問を読んだかのように、【スカルコード】はそう言い放った。


「オレの周囲にあるに骨を、意のままに操る能力だ────【スカルコード骨への信号】とはよく言ったもんだろ?

 海岸では多く骨がとれた。漁に出たヤツらを襲っているのは、マグロ村の人間だった連中の骨だ」


 そうか、マグロ村で散骨された骨は、海流の集まるタコ岬の向こう海岸に収束する────


 彼らがどうしてあの海岸にいたのか分からなかったけれど、能力の備蓄を伸ばすため、流れ着いた骨をかき集めていたのか────


「む、むごい────────死人の骨を集めて、子孫の邪魔をさせてたんですか────」

「そうだ、村のヤツらだけじゃねぇ。

 今まで集めた骨、骨、骨────一度命令すれば骨はオレがそばにいずとも、朽ちるまでその命令に従う。

 どういうわけだか、オレがいなければ霧が骨を動かすらしい。

 『漁をする人間を邪魔しろ』、その命令を今まで集めた骨にさせた」


 今、ようやく骸骨事件の謎が私の中でつながった。


 やはり予想したとおり、あの骸骨たちは死霊の類いではなかった────



 この男────【絶海のスカルコード】が、本物の骨を能力で操っていた物だったと言うことか。


「なんで、こんなことをするんですか」

「詳しくは言わねぇ約束だがなぁ?

 この能力ちからを使い、村人を押さえ、富を手にするためだ────お嬢ちゃんには分からねぇかも知れねぇが宝、金、名誉に、オレら海賊は目が無くてなぁ?

 頭のない海賊にしちゃよく考えたシナリオだろ?」


 得意げに、満足げに、彼は言う。


 でも、私はその内容がどうしても納得できる物ではなかった。


「なにがシナリオですか────舞台に上がらない主役がいるはずないでしょう」


 彼は、自分の能力にかまけて骸骨を操り、人々を苦しめていた張本人だ。


 効率的に考えれば、たった一人の人間がここまでのことを成せるのはとてもすごいことなのかも知れない。



 でも、人々を苦しめて、それをいい気になって語る人間を、私は好きにはなれない────



「舞台に上がっていないだと?

 バカめ────現に今、この海はオレ様の独擅場だ」


 私の返答に、【スカルコード】は機嫌悪そうに鼻を鳴らす。


「この海に、主役なんていません。

 いるとしたら、村の営みそのもの────少なくとも海賊の貴方ではたり得ません」

「────っ!! あぁ、そうかよ────っ!」


 反論と同時に、首を掴む指の力が強くなるのを感じた。


「がっ────」


 後ろから捕まれた首が、血管を締め付けられ言葉にならない悲鳴を上げる。


「だったら────脇役のお前がここで死んでも、別に構わねぇよなぁ!?」

「ぐ────え、あ、いや……そういう意味じゃ……」


 明らかに激高した【スカルコード】が、私を海へと押し出す。


「いや────ヤメてくださっ────」

「『海に落ちる』を選んだらどうなるか教えてやるっ!!

 コイツら死人に引きずり込まれて、暗い海の底で仲間入りだ!!」


 うわ、めちゃくちゃいやだ。


 しかし、海賊船船長の争えない強い力────必死の抵抗も虚しく、私の身体は徐々に海面に乗り出してゆく。


「グッ────────」

「死ねぇぇぇ!!」


 後ろからの力、抗う腕────しかし、それも限界だ。


「止め────────きーさん!!」

「っ!!?」



 頭のカツラに変身していたきーさんが、敵の隙を突いてその爪を迫らせる。


 一歩飛び退いた【スカルコード】は、頬を軽く触り、滲み出てきた血を舐めた。

 黒く濁るような赤が、鋭い舌の上に広がってゆくのが見える。


「容赦しねぇつった意味、理解できなかったらしいな」

「────────フグッ……し、死ぬ間際までやっといて、容赦も何もないでしょう……」

「死んでた方がマシだったつってんだよっ!!」



 他の海賊たちが、私の逃げ道を囲ってゆく。


 唯一海賊がいない後方からは骨が這い上がってきているし、逃げ場などここにはなかった。



「き、きーさん。

 こんなことになるなら、もうちょっと槍の練習しとけば良かったですね……」

「バカめ、今さら後悔しても遅い────」

「おい、止めておけ」



 私がつい全てを諦めて声を漏らしたその時、どこからからふとした声が響く。


 船のどこからから小さく、しかし確かな力強い声。

 頭に血が上っているはずの【スカルコード】にも、死の覚悟をしていた私にも、不思議とその声は耳に届いた。


「あん────? どこだ?」

「海賊────それ以上その子に手は出すな」


 私から目を逸らし、【スカルコード】は辺りを見渡す。



「だれだテメェら────オレの船にどうやって這入りやがった」

「空がガラ空きだったよ」



 マストの上に、男の影が3つ────


 逆光を浴びる彼らのシルエットには、絶対の信頼感と自信が滲み出ていた。



「はぁ、なるほど────テメェらが【怪傑の三銃士】か」

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