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帰りたい(115回目)  猫連れて洞窟探索


 洞窟に無理矢理作られた部屋────元々牢屋として作られたわけではないこの部屋から脱出するのは、あまり難しいことではなかった。

 きーさんが変身したナイフで縄を切り、きーさんが変身した鍵で格子から鍵を開け、きーさんを頭に乗せてこの洞窟からの脱出ルートを探す。



 扉の鍵は、敵がわざわざ見せびらかしていってくれたので、きーさんが簡単に手元に同じものを作成できた。



“まったく危ないことするよね、見てるこっちがヒヤヒヤしたよ”


「あー、ごめんなさい、怖かったんですね」



 敵に催眠ガスで眠らされたときはどうなることかと思ったけれど、意識を失うギリギリのところできーさんが包帯に変身して私に巻き付いてくれた。

 おかげで敵にバレることもなく、きーさんをここまで連れてこれたのだ。


 まさに、“キメラ・キャット”様々である。



“そうじゃなくてさ────さっきの男たちに触られそうになったとき、抵抗できたのにしなかったでしょ”


「ええ、まぁ」


“仮面の男たちが近付いてこなかったら、あれ危なかったよ。嫌がるフリして敵の情報聞き出すのも分かってたけどさ”



 うわぁ、猫が私に説教してる。



“文句あんの?”


「いや、その通りだと思います」



 まぁ、恐怖や動揺もあったけれど、まずはここがどこで敵が何者かを知らないと────と演技をしていたのは事実だ。


 内心、狭い中勝てるかどうかも分からない敵だったしここは流れに身を任せようと思っていたが、どうやら相棒はそれが不満だったようだ。



“次からこういうことがあったら、なるべく抵抗しようね。痛いこともイヤなことも、されてからじゃ遅いんだから”


「えーあ、はい。なるべく気をつけます」


“目の前でそう言うこと、止めてよね”


「はぁ、ごめんなさい……」



 まぁ、さっきのことは確かに、きーさんに大きな不安を与えてしまったのは事実だ。


 心が共鳴しているから分かるけれど、あの時流れ込んできた感情は、かなり動揺したものだった。



“まぁいいや、それよりこれからどうするの”


「うーん、色々考えたんですけど……

 海賊の一人を襲って、身ぐるみ剥がして、変装して脱出とかが一番早いですかねぇ」


“物騒な……まぁここから出るにはそれしか無いか”



 服装をきーさんに変身してもらうには、少々パーツが多いので、ここから安全に逃げ出すにはそれしか無いだろう。


 私に合うサイズがあればいいんだけれど。



「それにしても、変な洞窟ですね」


“このにおい────潮? 海に面した洞窟に、この隠れ家を作ったのかな?”



 私が捕まった洞窟────部屋から脱出してみると色々なことが分かったけれど、どうやらここは海辺に自然にできたものを海賊たちが施設として利用しているらしい。

 そこいらの部屋には増築されたような跡もちらほらあるので、そこは海賊たちが自分達で掘り進めたのだろうか。


 所々に置かれたランプに火が灯されているが、それを差し引いても暗い洞窟の中は、移動するだけで一苦労だった。



“そういえばさっきの仮面の男たち、海賊とは違うような気がしなかった?”


「えぇ、私を攫った人たちですね。なんか、私を運んでいた海賊とは毛色が違う気がしましたし……」



 海賊と仮面はお互いのことを「よそ者」、「カタギ」────そして「無法者」、「海賊共」と呼び合っていた。


 少なくとも、私を攫った仮面の集団は海賊ではないのだろう。



「とりあえず、『海賊』と『仮面』────

 少なくとも2つの団体がこの洞窟にはいて、それぞれが同じ目的でここを利用している────

 でも彼らは一枚岩ではなく、私を攫ったのは『仮面』の方って感じですかね?」


“僕もそう思った。で、その『仮面』の団体って?”


「うーん────────」



 それが、さっきから考えているが分からない。


 闘ってみた感じ、統率はとれていて実力も高い、そして催眠ガスなどを使用して計画性や多少の財力もある団体────



「あまり心当たりないんですよねぇ。

 私たちを襲った人たちは多分、海賊の船を覗いている私たちに気付いたんでしょうけど」


“それに、君を攫った理由もわからないよ。わざわざ催眠ガスなんて使ってさ、殺せばいいのに”


「いやぁ、それは困りますけど────まぁ、それもその通りですね。

 彼らは私を殺さずに人質にとる必要があった────私に何かあったら困るとも言ってましたし」


“まるで海賊のお姫様だね。このままここで暮らすのも悪くないんじゃない?”


「かーえーりーまーすぅー」



 全く、不謹慎なことを言う相棒だ。


 実際そうなったら魚は食べ放題だからきーさんはいいかも知れないけれど、不安定な足場で一日中荒くれ者にこき使われて、おまけに命を賭けて生きなければいけない生活なんて、私はいやだ。



“それ、今の生活とどう違うのさ”


「………………」



 違うのは足場────と言いたいところだが、よくよく考えたら今の足場は船の上より安定してなかった。


 主に立場的な意味で。



“ねぇ、だからいっそ海賊に! 楽しくて嬉しいお魚ライフを!!”


「あーはいはい、一回落ち着きましょうか」



 まぁ、でも転職かぁ────


 きーさんの話は冗談としても、まだ当分するわけにはいかないかなぁ。


 もしするなら、カレン店長辺りに雇ってもらえないだろうか。



“まぁ、ここから脱出してから考えようよ。みんな心配してるよ”


「ですね」



 多分、私が捕まっている間に得た情報はここの解決に役に立つだろう。


 【怪傑の三銃士】に相談すれば、解決のきっかけになるかも知れない。



“どうする? 中々人が見つからないね”


「あぁはい、広いからあまり遭遇しないだけかも知れませんが、おかげで道も分かりません」



 さっきから移動は続けているが、結構当てずっぽうに右左と曲がってしまっていて、中々自分がどこにいるか把握するのは大変だった。


 なんとなくランプの明かりが灯っているので、まだ人が入らないほど奥に来たわけではないことは分かる。

 けれど、それは敵がどこにいるかも分からないわけで────



“あ、ちょっと待って足音────”


「だれか来ましたね」



 曲がり角の向こうから、何人かの足音がバタバタと聞こえてきた。

 少し来た道を戻って、近くにあった空き部屋が誰もいないことを確認してから忍び込む。


 耳を傾けていると、何人かの男たちが大声で笑いながら歩いてきた。


 どうやら会話の雰囲気的に仮面の集団より、海賊たちの集団のようだ。



「おい、食堂はどこだっけ?」

「ここにはねぇよそんな物。オレらのエサ作ってるガキなら厨房にいるだろ?」

「そうだそうだ。じゃあっちか」


 どうやら私を運んできた2人のようだ。


 私を蹴ったこと、許してないですよ────


「おいそれよりあの飯炊きのガキどう思うよ」

「あん? あんなの手だして見ろ、船長が許さねぇだろ」

「ちげーよ、待遇の話だ。なぜあのガキだけあの広い与えられている?」


 そっと扉を出て、2人を追う。


 どうやら彼らに私の脱出には、まだ気付かれていないらしい。


「あぁ、それだって同じ話だろ?

 アイツは前の船長の娘なんだ知らなかったのか?

 世話になってた手前船長もあの女には甘いんだ」

「ちっ────軍人のくせに頭に花咲いたようなガキもいるし、どうなんってやがるんだ、今の若い女は」


 あ、私のことだ。


 頭に花咲いてて悪かったですね。


「というか、あの女の部屋は厨房だろ。別に、飯喰えるからいいじゃねぇか」

「フン、それが気にいらねぇつってんだ。

 アイツがここに来るまで、船にもそんなものはなかったし、それでもオレらはやってきてた。

 厨房がなきゃ料理を作れねぇって方がオレには分からねぇよ」

「お前馬鹿じゃねぇの────」

「なんだと!?」


 そこから、男2人は怒鳴り合いを始めた。


 なんか今までの飯は不味かったからいいだの、そんなこと知らねぇよだの話しているけれど、音が反響してもう少し離れたところからでは聞き取れなかった。



 もう少し近付いてききたいところだけれど、それをしたら見つかるかも知れないし────



「あ、あの……!!」


 その時、男2人の間に女性の声が響いた。


 慌てて身を隠して覗き込むと、その女性は私ではなく、どうやら怒鳴り合っている男たちに話しかけた様子だった。


「んだよ、ガキが!」

「ちゅ、厨房の前で喧嘩してたから……

 え、えっとご飯欲しいのかと思って……」


 その人は女性、というよりは若い女の子だった。


 年齢は私と同じくらい────体型は多少細身だけれど共通している部分は多い。



 悪いが、犠牲者決定だ。




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