太陽の光────
見上げると青空に写るその大きな光球のせいで、くしゃみが出た。
『眩し────』
時期はすっかり秋になり寒い風がぴうぴうと頬を撫でる。
ホントはこんな日、外にも出たくないのだけれど、あいにくここ最近で今日が一番気温の高い日だ。
「おーい何してんだエリアル。
リーダーがサボってたんじゃ、示しが付かねぇだろ」
「はいはい、ごめんなさい」
注意され、しゃがんでいた腰をゆっくり上げてクレアの方に近付く。
今日は、アデク隊第1小隊────つまり私たちの小隊がd級になって、初めての訓練日である。
それと今日の目的は訓練ではなく、新しく入ったスピカちゃんを合わせての、技のお披露目会。
それぞれの技術や技を見せつつ知ることで、私たちがスピカちゃんと交流を図り、戦闘になってもコンビネーションを円滑に進められたらいいな、と私が企画した。
「それよりエリアル、すげーよ!! ほんとに浮いてるぞ!!」
「えぇ、分かってますよ」
私たちが見上げる先、地上から少し上のその位置には────スピカちゃんが空に浮いていた。
「無理しないでね!!」
「う────ん────」
杖に乗って少し上から声をかけるセルマに、スピカちゃんは何とか答える。
『飛行手段かぁ……』
先日別れる際、フェリシアさんから言われたことを思い出す。
「そういえば、スピカ・セネットがそっちの隊に行くそうだな!
根性はあるが、私の指導体制にはどうも合わなかったようだ。
私とリーエル隊長では奴の長所を最大限引き出すことは出来なかった!
恐らく貴様らの隊の雰囲気の方が奴には合ってるだろう。
あんな感じだが、いざとなったら頼れる人材だ、私が保証する!!」
そう豪語していた。
確かに飛行できる人は貴重だし、空から狙撃できるというのはとても戦力になることだろう。
まぁ、でもいくらスピカちゃんがすごいと言っても、ただ何もなく浮いているわけではない。
浮遊の原理は、今のスピカちゃんは
魔力で動く2つのエンジンには、中にそれぞれプロペラが搭載されていて、彼女の力加減と方向転換によって、前後左右に進んでゆく。
音も静かで結構速いスピードが出るらしいので、夜中なら気付くことは難しいだろう。
「すげぇすげぇ!! それで戦えるのか!?」
「────────────────う、ん……? うわっ……」
でも、バランスを取りつつその推進力で宙へ浮いている姿を見ると、まだこの得物に慣れていないようだ。
生まれたての子鹿のように見てて超危なっかしい。
「スピカちゃん、無理せず危なかったら降りてきてくださいねー」
「…………………………」
あ、ダメだ聞こえてない。
いや、まぁまだ不慣れな移動手段だけれど、自由に乗りこなせられれば誰かを抱えて空を飛ぶことも出来るのだろうか?
この移動手段、聞くところによると、一般の兵士が両腕で空を飛ぶために開発されたが、あまりの魔力緩急とバランスの難しさから、研究者が実用に向かないと匙を投げて投棄されたらしい。
それをゴミ捨て場からリーエルさんが拾ってきたから自分の手元にあるのだ────とスピカちゃんが言っていた。
それは流石に嘘ですよね────
まぁ確かに彼女の髪を使えば腕よりもリーチが長くバランスがとりやすいし、魔力の緩急もスナイパーの彼女ならかなりアドバンテージだろう。
でも、実質今現在スピカちゃんしか使えない物だから実用に至ってないと言うことだけれど、スピカちゃん本人だって今使えているとは言えないので、この道具が日の眼を見るのはまだ先になりそうだ。
「スピカちゃんありがとうございました、戻ってきてくださーい」
「おおぉっ────────やっぱ怖ぃぃ……」
地上に降りると、スピカちゃんはうずくまり始めた。
「え、え~……」
あんだけ焚きつけたクレアが、げんなりとした顔をする。
まぁ、いつ落ちるか分からない足場で、建物2階分くらいまで舞い上がっていたのだ、そりゃ怖いだろう。
「あー、よしよしよしよしよし、スピカちゃんありがとうねぇ-」
「せ、セルマさん……いたい、くるちい、あ、ちょっと……子ども扱いは……あっ……」
なんか見ていて不安になる飛行が、セルマの母性を刺激したらしい。
彼女も地上に降りるや否や、駆け寄って思いっきりハグ、からのナデナデで、スピカちゃんがとても困った顔をしている。
なんとなく、リーエルさんがスピカちゃんに素手じゃなく銃で闘う方法を提示したワケが分かった気がした。
実はスピカちゃんの能力【コマ・ベレニケス】は、とてもステゴロ向きの能力なんだそうだ。
これはリーエルさん談。
この間の闘いでも魔銃を一斉砲撃する技を披露してくれたらしいが、一人の女の子が銃を15本持つなど、普通に考えて重すぎて出来ることではない。
それが、彼女の髪の毛1本1本を操ることでそれが可能なだけの「筋力」ならぬ「髪力」を発揮することが出来る。
もしそれを接近戦に使えば、かなりポテンシャルの高い闘いが出来るだろう。
ただ、それは物理的な話であって、精神的な話になると、普段の彼女はちょっと高いところも苦手な、普通の女の子である。
銃を撃つのもそれなりの精神力が必要だしバカにはならないけれど、中距離でも遠距離でも心の準備が出来る一瞬を確保できるのは、彼女にとっても相当精神的負担の軽減になるはずだ。
『リーエルさんも少しは考えてるのかなぁ……』
「ん? エリーさん、どうしたの……?」
ボーッと口を開けて考え事をしていたら、スピカちゃんがトテトテと寄ってきてこちらを覗き込んできた。
その姿は、あどけなさが残る────というよりは、完全に子どものそれである。
なんか、見ていて守んなきゃ、と言う気さえしてくる。
いや、本当にだったら同い年のクレアは何なんだ────
「いや、何でもないです。今日はお終いにしましょう」
というか、寒いので帰りたい。
隊長がいなければその日の予定を決定できる、クレアには悪いけれどそこだけは小隊長になって良かったと思っている。
「なーなー、そのうち任務が来るだろ? 楽しみだなぁ」
「その前に馬に慣れてくださいね、クレア。
どこにも行けないんで」
そんなこんなで、初めての小隊活動はお互いの利点と弱点を知り合えて、大成功に終わった。
私たちの本格的な軍人生活の幕開けだ────!
面倒くさいなぁ────