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帰りたい(114回目)  誘拐された


 目が醒めると、居心地の悪いズタ袋に頭を詰められていた。



「ムグググ────ムグ……??」

「あん? 起きたのか、暴れんなガキが」


 息苦しさとともに、乱暴に扱われる不快感、そして周りの見えない恐怖が、私を支配した。


 感じからして────男性2人ほどに担がれて、どこかに運ばれているようだ。



 出来ることなら周りを確認したかったが、あいにく頭から袋を被せられた状態では状況把握どころではない。



「おい、牢はどっちだっけ?」

「ここにはねぇよそんな物。

 船長の指示は空き部屋に外から鍵かけとけって指示だったろ?」

「そうだそうだ。じゃあっちか」


 私を運ぶ男たちが、なにやら相談をしながら、どこかも分からない長い道のりを、右へ左へと曲がってゆく。


 そして、何度か曲がり角を曲がる感覚、それを幾度か繰り返した後、ついに歩みが止まった。


「ここでいいか」

「ああ」

「よっこいせっ!」


 その声とともに、重い扉が開く音、続いて身体が急に宙に浮いた感覚に支配される。


「おら!!」

「ヒイッ────」


 突然揺れたかと思うと、私は突然地面に身体を投げられた。


 幸いそこには藁が敷き詰めてあったため多少なりとも衝撃波緩んだが、身体がとても痛んだ。


「おらっ、何痛ぇフリしてやがんだ」

「んんんっ」


 そして、乱暴に被せられた袋を剥がされる。


 目に入ってきた光景は、岩、岩、岩────



 どうやらどこか、洞窟のようなところに連れ去られたらしい。


「ガキが、暴れんな」

「痛っ────」


 暗い中、男が私を軽く蹴った。


「いっ────────や、止めて下さいっ……き、傷が痛いんです……」

「だから蹴ったんだよ、バーカ」


 2人の男が下品に笑う。

 私は指先で、そっと腕に巻かれた包帯を撫でた。


 縛られた腕から、じんわりと痛みが広がっている。


「誰なんですか貴方たち……」

「ふん? 分かってんだろ、海賊だよ。

 この海で一番下品で何でも持ってる海賊様をよぉ」


 海賊────それにしては、私を捕まえた仮面の人たちとは雰囲気も口調も違う気がする。


 部隊や所属が違うのか────それとも彼らは海賊ではなかったのか────



 どちらにしろ、今心配なのは私と仲間の身だ。



「そ、そうだ────みんなはっ? みんなは無事なんですか??」

「はん、知らねぇよ。あの場でお前だけかっぱらってきたから、どうせ今ごろお仲間が血眼になって周り探してる頃じゃねぇのか?

 どうせここが見つかるはずないのにご苦労なこった」

「うぅ────────」



 そもそも、ここはどこだろう────



 どうやら洞窟を利用して部屋を作った簡易的な拠点、そしてかすかに潮の音やにおいがある。


 海辺の洞窟かどこかなのだろうか────



「か、海賊なんて────わ、私を捕まえてどうするんですか……?」

「質問が多いガキだなぁ。そんなの、オレたちが知ったこっちゃねぇよ。

 まぁ、オレらの夜の処理でもさせりゃちょっとは嬢ちゃんもオレたち海賊の良さが分かるんじゃねぇか?」

「ひっ────」


 私が怯えた表情をすると、そそるとばかりに男の一人が手を伸ばしてきた。


「そうだ、今すぐ色々してやんよ。

 ホンの味見だって、暴れないでくれよお嬢ちゃん────死にたくないだろ?」

「や、止めてくだいっ、こないで────」


 腕を庇いながら、部屋の奥に下がる。


 それを見て、男たちはさらに下品な笑いを浮かべながら近付いてきた。


「これ欲しいだろ? 奪ってみせろよ、なぁ?

「あ、鍵────」

「ばぁか、渡すわけねぇだろ。

 それより、優しくしてやるからよぉ、なぁ? お兄さんと仲良くしようぜ?」


 プラプラとこの部屋の鍵であろうものを見せびらかし、手を伸ばした私を押しのけ伸ばされる手────


 臭い息が顔にかかり近付く男の顔の醜さがより際立つ。



「ヒッ……や、やめ────────」



 その時、扉の向こうから堅い靴の音が響いてきた。


「あん? 誰だいいトコだってのによぉ」

「我々だ、無法者共。お前ら、何やってんだ」

「げ、よそ者……」


 『よそ者』と呼ばれた2人は、私を攫った敵と同じ仮面をしていた。


 あの襲撃の中にいた人たちの誰かまでは分からないが、海賊とは明らかに違う雰囲気を感じる。


「遅いと思って来てみれば────その女にあまり手出すなよ海賊。

 貴様らにとってはただのはけ口かも知れないが、それは我々にとってはの貴重な交渉材料だ」

「ちっ────カタギが。ちょっとつまみ食いしようとしただけじゃネェかよ」


 あからさまにイヤな顔をした男だったが、大人しくその言葉に従って手を引いていった。


「分かってるのか? 今その女に何かあれば、困るのは貴様らも同じ事だぞ。

 それとも、こちらが貴様らを軍に突き出すか?」

「人の足元見やがって────いつかぶっ殺してやる」



 そういって唾を部屋の隅に吐き捨てると、私を運んで来た男2人は部屋から出て行った。



「な、何なんですか貴方達────私を襲った人たちですよね、海賊ではないんですか……? 何でこんなこと────」

「言えないな、お前には悪いがしばらくここにいてもらう。気の毒なヤツめ────」



 軋むドアが静かに閉まり、声だけが遠ざかってゆく。



 下品な足音と、静かな足音が合わせて3つ、聞こえなくなるまで数十秒。


 地面の冷たさと、周りの静けさが私を刺した。






 さて────────と




「逃げましょうか、きーさん」

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