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帰りたい(113回目)  おっさんず・サーチ


 どこかから聞こえる声が、だんだんと近付いてきた感覚────なのか?



「おい、嬢ちゃんたち────起きろ!!」


 怒鳴り声────にも似た、どこか心配するような声で目を醒ます。


「ん────?」



 知らないおっさん────ではなく、【怪傑の三銃士】の筋肉質な男────エッソさんがアタシを覗き込んでいた。


「大丈夫か、体は動くか?」

「な、なにが────あっ!!」



 おかげで馬車酔いの気持ち悪さも残って、まだ身体の調子は優れない。


 頭がガンガンして、二日酔いがあるならこんな感じなんだろうと思ってしまった。


「だ、大丈夫だ────一体何が……」

「覚えてねぇのか?

 お嬢ちゃんたちは眠らされてたらしい。覚えているか?」


 そう言えば、急に眠気が襲って倒れたことを思い出す。


 どうやら敵が使った催眠ガス、みたいな物がアタシ達の意識を奪っていったんだ。


「す、すまねぇ三銃士……スピカも────」

「いいんだ、ところでクレアの嬢ちゃん、エリアル嬢は知らないか!?

 アイツだけ見つからねぇんだ!!」

「え??」


 一緒に襲われたはずの1人、エリアル────


 確かに倒れたときは一緒にいたはずだけど────


「いなかったぞ────」

「こちらも探索不能だよ!!」


 ライル、ジョノワ、そして3人を呼びに行ったスピカの3人が馬車の周りに来た。


 どうやら周辺を探して来ていたらしい。


「わ、分かんねぇ……敵にガスでやられてそのまま────」

「じ、自分うっすらだけど覚えてる!

 エリーちゃん攫われたのよ!!」

「攫われた────??」


 アタシと同じように横でまだ苦しそうなセルマが、それでも記憶を掻き出すように叫んだ。


「なぜ彼女だけ攫われたか────分かるか?」

「だ、誰でもいいって言ってた気がする────」

「そうか────」


 ライルが、顎に手を当てながらブツブツと何かを呟いている。


「な、なぁエリアルどこ行っちまったんだ!?」

「大方予想はつく────今は彼女の救出を優先に動くぞ」

「りょーかいだ、リーダー。

 3人とも、馬車を開けて!! 早く!!」

「え!? え……??」


 言われるままに物をどかすと、3人は乱暴にそこに乗り込み鞄を広げ始めた。


 地図、コンパス、それからペンといくつかのクルミ────



 おっさん3人は、顔をつきあわせてその場に座り込んだ。


「な、何やって────」

「今からエリアル嬢のいる場所を推理する!! お嬢ちゃんたちも来い!!」


 促されて、各々が乗り込む。



 ただでさえ狭い馬車が、ギュウギュウ詰めになって窮屈だ。


 これでこの馬車が動き出したら、きっと吐くな────



「まずは────確認だ」

「分かった。君たち、タコ岬の向こう側で海賊【絶海のスカルコート】を見つけた後に、仮面の敵に襲われた。間違いない?」

「ないわ!!」


 どうやら、あらかたの情報はスピカが伝えてくれたみたいだ。


「じゃあ、仮面の敵────君たちを襲った敵の特徴を教えてくれないかい!?」

「え、特徴? えっと────敵は8人以上、顔に白い仮面をしていて────」

「そういう見た目じゃなくて────そうだな、戦闘スタイルとか、どんな技を使ってたかとか!」

「戦闘スタイル────」


 そういわれれば、思い当たる節がある。


 あの時は酔っていて気持ち悪く、あの場を乗りきるのに必死だったけれど、どいつもこいつも揃って、闘いに特徴があった。


「みんな────ほとんどみんな素手だったぞ!!

 中には剣を使ってるヤツもいたけど、少なくとも襲うために使ってる感じじゃなかった!!」


 これは、確かに自分で闘ってみて感じた感覚だ。


 自分達を襲ってきた敵がステゴロだったときは最初驚いたけれど、それを差し引いても相手は強かった。


「積極的に殺さない────やっぱりか、嬢ちゃんたちを襲ったのは海賊じゃねぇな、多分!!」

「うそ!? 違うんですか!?」

「タイミングから見て海賊と仮面の集団は手を組んでいるだろうね、彼ら自身は海賊ではないはずだ」



 てっきり、海賊がアタシ達に気付いて追ってきたのかと思っていたけれど、【怪傑の三銃士】はそうは思わないらしい。


「な、なんで海賊じゃないって言い切れるんだ?」

「海賊の闘いってのは、基本的に荒くれ者の殺し合いだ。

 それが今回、お嬢ちゃんたちは全員一応生きてるだろ?」

「海賊が陸に上がってまでして、武器も使わずやることが1人誘拐じゃ、やっぱり違和感があるよね」



 海賊じゃない────となると、あの仮面の集団は何だったんだ?



 そいつらに攫われたのなら、エリアルは今どこに?



「あとお嬢ちゃんたちのことを知ってるヤツがいるとするなら────もしかしたら、村にいる連中の中に敵がいたのかもな」


 舌打ちをしながら、ライルが懐からペンを取り出した。


「村の人たちが、あの仮面のやつらだったってことか!?」

「そうとも限らねぇさ、葬式に来てる連中だってあり得るだろ??」


 他の二人も、揃ってペンを取り出す。


 そのまま、何の躊躇もなく、全員が示し合わせたようにペンで何かを地図に書き込みだした。


「なら、エリアル嬢を攫った理由は、恐らく人質にするためだろ。

 オレたちにお嬢ちゃんたちがタコ岬の向こう海岸へ行く事はバレてると、相手は知ってたのかもな」

「し、知ってると殺されないのか?」

「情報を知られたとなれば、知っている人間を殺すか、その情報自体を隠蔽するかのどちらかだよね。

 このままでは海賊たちが捕まり、自分達が協力していることもバレてしまう。────しかし、君たちを殺して情報の隠蔽は、僕たちに連絡されてしまっている以上出来ない」

「だから、エリアル嬢を攫って人質にとり時間稼ぎ────その間に海賊ごとドロンして隠蔽しようとしてるんだな、多分!!」


 てっきり、仮面の敵はアタシ達を抹殺しようとしていると思ったけれど、そうではなく1人を捕まえて逃げる時の時間稼ぎに使おうと思っていたのか。


 なら、あの時の「1人いればこちらの目的は果たせる」という敵の言葉も頷ける。


「でも、それが分かれば充分だよ」

「あぁ、そして海賊はよそ者が頻繁に船を出入りすることを嫌がる────だったら、敵は本拠地を作っているはずだな!

 エリアル嬢も、まだ今ならそこにいるだろ!!」

「異議無し────すぐに見つけて、そこを叩くぞ」


 訳の分からないまま、知らなかったことが沢山明らかになって頭が混乱する。


 口を挟もうにも、おっさんたちの雰囲気はそれを許す感じではなかった。


「敵の本拠地は、多分この海流が集まる海岸の周囲、だろうな。

 そこから利便性と海賊船の大きさを考えると、小屋か建物を作ってそこを根城にしているんじゃねぇか?」

「いや、海賊がそこまで内地に潜むことはないでしょ?

 船や宝の見張りもしなきゃイケないし、陸で囲まれたらアイツら終わりなんだから、逃げ道は必ず作るはずだよ」


 地図にペンで大きくバツ、バツ、バツ、と3人は物凄い速さで候補を消してゆく。


 クルミをコロコロ移動させつつ、敵の動きを考えながら、仮説と反論、仮説と反論、仮説と反論を繰り返す。


「じゃあ、多分敵の本拠地は、この海岸で、簡単に船が隠せる場所だな────

 そして、村からも、沖からも、陸らかも見つかりにくい場所といえば─────」

「大分搾られるな────」

「分かった、やつらが向かったのは────」


 アタシ達が唖然とする中、3人は結論に辿りつく。


「「「ここだ!」」」



 3人のおっさんは、同時に地図のある地点を指差した。


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