「こちらも弱い者虐めはしたくないんだ、大人しく捕まりなお嬢さんたち」
「こんな大勢で取り囲んでおいてよく言いますよね────」
しかし、その瞬間視界の端に捉えた────セルマがコッソリと手の中に納めていたのは、魔力による伸縮機能のある杖だった。
あれさえ手の中にあれば、セルマはいつでも臨戦態勢────なら敵の隙を突ければ、イケるか?
「スピカちゃん、このまま走って、村まで戻って、【怪傑の三銃士】を呼んでくる────できますか?」
「え、あ……みんなは……?」
「何とか逃げてみます────さぁ!」
「てめぇら、一体何を────」
敵が言うが早いか、私はスピカちゃんの目元を押さえて振り返る。
「セルマ、
「え? え……?」
「用意済みよっ────“スタッブシャイン”!!」
瞬間、セルマの口から閃光が発射され、辺りに強烈な光りが発射された。
「がっ!!?」
強烈な閃光は辺りを覆い、周りにいる仮面の敵全員が目に刺さるような痛みに悶絶する。
「今です、スピカちゃんっ」
「う、うん……!!」
「に、逃がすなぁ!!」
私が目隠しを外すと同時に駆けだしたスピカちゃん、それを邪魔するように敵の手が次々と伸びてゆく。
「クレア、動けますかっ?」
「お────おう任せろ!!」
若干気持ち悪そうに胸を押さえながらも、うまく光りから目を逸らしていたクレアが、敵に牽制をかける。
「手ぇ、だすなよ!! “天竜飛翔砲”────うぷっ」
「だ、大丈夫ですかっ?」
右手の敵はクレアが足止め、後方は私が霧で視界を封じ、左手はきーさんとの“魔力纏”で強化した槍で牽制をかける。
「“
そして前方は、セルマが鎖で道を作って、そこをスピカちゃんが脱けていく。
「よしっ!!」
「スピカちゃん、そのまま行って!!」
「う、うん……!!」
あまり機動力が速い方ではない彼女だが、それでも私たちの必死の足止めによって仮面の敵の包囲網を突破できた。
「くそ、逃がすな!!」
「はい!」
指示を受けた中の1人が鎖から逃れてスピカちゃんを追い始める。
しまった、思ったよりも時間が稼げなかった────
「スピカちゃん気をつけてっ」
「えっ? うわっ……!!」
背後からの追っ手に気付いたスピカちゃんは、そのスピードを上げる。
しかし、追いかける敵はそれよりも早く、彼女に迫る勢いだ。
「ごめん!! こっちで手一杯よ!!」
「あ、アタシも────うっ、おぇ……」
馬車酔い激しいクレアは普段の力を出せていない、セルマも私も目の前の敵以外を引き受ける余裕はなかった。
「来ないで、うわっ……!!」
敵の手が迫る、なんとか彼女だけでも村へ戻って危機を伝えてもらわないと────
「スピカ!!」
「スピカちゃん!!」
「うぅ────────」
迫る敵の手、こちらからサポートできない歯痒さ────マズい!
「す、スピカが────頑張らないと────!!」
しかし、彼女は諦めなかった。
確かに前を向いて叫んだその言葉が、私たちの耳に響く。
「怖いけど頑張る……怖いけど頑張る……怖いけど頑張る……!!」
彼女は走りながら器用にバッグを髪で開けると、その中から小さな円盤を2つ取り出した。
「あれは……」
「んんんんんんんんっ────!!!」
3回叫んだスピカちゃんに呼応するように、円盤は大きさを増し、地の砂を巻き上げ始めた。
「何だあれは!?」
「うぅぅぅぅぅ────────えいっ!!」
黒い円盤から強烈な風邪が吹き上がり、彼女の小さな身体が浮き上がった。
「と、飛んだ!?」
「プロペラを使ったのね!!」
試作品用が捨てられていたからと、リーエルさんが拾ってきて彼女に渡したという魔力で動くプロペラ────
この間まで高いところが怖くて彼女は使えなかったが、土壇場でスピカちゃんが意地を見せたのだ。
「うわっ……ととと────!!」
だ、大丈夫だろうか────
しかし、少し浮き上がった彼女は覚悟を決めたような顔つきに代わり、そのまま身体を安定させて空へ舞い上がった。
敵たちのなかにも、誰もそれ以上追える人間はいなかったのか、何人かの中からため息が聞こえた。
「よ、よかった……」
空を飛べば、村まではそう時間はかからない。
往復で【怪傑の三銃士】が助けに来ることも考えるとあまり短い時間ではないが、その間何とか耐えきって見せなければ。
「ちょこざいな……」
「セルマ、クレア、このまま逃げて【怪傑の三銃士】の助けを待ちましょう。
4人で宿に帰ってお風呂入って早めに就寝しますよ」
「難しいわね、けど持久戦なら得意よ!!」
私の声に、セルマが気合い充分と叫びを上げる。
「クレアちゃんも頑張りましょう!!」
「す、スマン、アタシ無理……もう無理」
「あ、クレアっ?」
敵を牽制しつつ慌てて彼女に駆け寄ると、クレアが苦しそうにその場に膝をつくところだった。
「ど、どうしたんですかっ?」
「馬車酔い────」
どうやら相当無理をしていたらしい。
青ざめているクレアは、多分もう元気に戦える状態ではなかった。
「自滅で2対8、バカめさっさとつかまっていればいいものを」
「セルマ────クレア連れて逃げれますか?」
「ど、どうかしら?」
杖を使っても、定員ギリギリ2人の彼女の機動力では、無理があるらしい。
この間私を乗せて移動いたときも、そう言えば木に引っかかって酷い目にあった。
「これ以上逃げようってか?」
「そうしては────くれないんですよね?」
「止めとけ。それに、1人いればこちらの目的は果たせるんだ────」
「え? 目的────? はっ……」
「もう遅い」
気付いた瞬間、辺りの様子の変化に気付く。
視界がぼやける────霧?
「なに、これ……」
「あ、催眠────ガ──ス……?」
身体が確かに弛緩する感覚────ウルフェスに噛まれたときのようなイヤな綻びが体中を支配する。
このガス、ここまで広がるのに時間がかかったはずなのに、なぜ気付かなかった────
いや、私が出した霧が残っていて少しの間気付かなかったんだ────
「嬢ちゃんたちは仮面がなかったか? お気の毒さまだ」
「アンタらはマスクで安全圏、てかよ────」
霧に気付き急いで顔を覆ったが、かなりの量を吸ってしまった。
視界の端で、セルマとクレアがゆっくり地面に倒れるのが見えた。
全てが少し、遅かった────
「うっ……」
離した手からきーさんが変身した槍が離れ、地面でカラカラと音を立てる。
「1人逃げられたのは、いいのか?」
「どうせやつらには伝わることだ、放っておけ。
全くガキどもが、手こずらせやがって」
視界が歪む中誰かに腕を乱暴に捕まれる。
私の二度腕がギチギチと痛み、その瞬間少しだけ意識が戻った気がした。
「おい、このガキでいいか?」
「構わねぇだろ、だれでも。さっさと連れてくぞ」
マズい、この人たちもしかして私を────
「きーさ……ん────────」