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帰りたい(111回目)  仮面の襲撃者


 高台から見下ろす砂浜、何があるか分からないからと念のため少し離れて様子を見てみることにした。


 少し遠かったためセルマの千里眼と軍支給の双眼鏡を使って様子を確認する。


「セルマ、見えますか?」

「えぇ、一隻船がとまってる────どうやら村の漁船とかじゃないようね」

「見た方が早いかも────」


 先に様子を見ていたスピカちゃんが、双眼鏡を私に預けてくる。


「あー、あの船ですか─────あれって……」



 厳つい全体像に、黒塗りの外装。


 そして特徴的な骸骨のジョリー・ロジャー────



「あれは────海賊船、ですか」




 海賊船、素人の私から見てもあのビジュアルはおそらくそれで間違いないだろう。


 あからさまに、挑発するように────ともすれば一目で分かるように、その船は周りを威嚇している。



「何であんなとこに海賊船があるのかしら?

 もしかして、またこの辺りの海を狙っているとか?」

「それは分かりませんけど────あ、誰かいますね」


 しばらく船の様子を覗き込んでいると、海岸から何人か男性が船に乗り込んで行くのが見えた。


 ここからだと良く見えないけれど、服装からして船乗りのようだ。


「あの人たち、海賊かしら?」

「多分そうだろ……船にいるのも合わせて20何人てとこだな、何してんだ?」

「さぁ────?」


 しかし、一度追い払ったはずの海賊がまたウロウロしているというのはやはりただ事ではない。


 たとえ骸骨騒動に終止符を打ったとしても、彼らがいたままでは村人は漁を続けることが出来ないだろう。


「おい見ろよ、あいつ怪しくないか?」

「どれどれ?」


 クレアの言う方向を指差すと、確かに海賊の中でも一風怪しい男が、周りに何人かを引き連れ砂浜を我が物顔で闊歩していた。


 怪しい────と言うと語弊があるかも知れないが、


「双眼鏡じゃ、顔が良く見えないですね」

「ちょっとそれ貸して!!」


 セルマが、私の持っていた双眼鏡を横からひったくる。


「おい、何すんだよ!!」

「いいから────えっと、紙とペンちょうだい!! 急いで!!」


 彼女に促されるままにバッグからその2つを取り出して渡すと、今度は物凄く素早い手つきで紙に何かを描き込み始める。


「セルマさん、これって……」

「できた!!」


 モノの数分、砂浜を怪しげな男が歩いている間に、セルマは一枚の絵を完成させた。


「これは────似顔絵ですか」

「どう、うまいものでしょう?」


 確かに、彼女の描いた似顔絵はとても大したものだった。


 千里眼と望遠鏡────その2つを駆使した結果だろう、より鮮明なしわや傷まで器用に描写されている。



 ここからは見えないが、きっと自信満々に描いただけのことはあって、かなりそっくりに違いない。



「こんな特技あったんですね。えっとこの顔────」

「あっ────見たことあるぞ!!」


 そう似顔絵を指差したのは、クレアだった。


「どこでですか?」

「えっと────訓練場のお尋ね者の顔写真に張ってあったヤツだ」


 それなら、私もきーさんと何度も通っていたので何となく記憶を探ってみる。


 えーっと、そうだそうだ────右から5,6番目の写真だったか?


「きーさん、あの手配書、右4番目から8番目まで、順番に変身できますか?」



 きーさんは了解という感じで地面に降り立つと、ムニュムニュと身体を変形させ始めた。


「え、そんな曖昧な記憶で大丈夫なの!?」

「大丈夫大丈夫、とと────あ、これですね」


 セルマが描いた絵にそっくりな男の手配書を見つける。


 どうやら、彼女のデッサンの技術は相当なもののようだ。



「これは────お尋ね者の海賊船船長、通り名は【絶海のスカルコート】らしいです」

「【スカルコート】────骸骨?」


 まぁ、名前だけ連想すると確かにどうしても村での事件との関連は考えざる負えない。


 しかし残念ながらこの手配書、それ以上のことは何も書いていなかった。



「あ、船────出航してく……」

「北に向かいましたね、あの方向に一体何が……」


 このままあの海賊船を追うことはこの距離じゃ難しいし、そもそも見つかる可能性も考えられる。


 ここは一端村に戻って、【怪傑の三銃士】に指示を仰ぐべきだろう。


「とりあえず、これは相談しましょう。

 私たちだけでなんとか出来る問題でもなさそうです」

「そ、そだね……」


 一応周りの海岸も見直してみたが、他にめぼしいモノもないので、私たちは村に帰ることにした。


 馬車を走らせて、来た道を突き進む。



「結局、あの骸骨と海賊────何の関係があるのかしら?」

「さぁ、そこまでは何とも。

 ただ十中八九略奪を好む無法者たちですし、砂浜のゴミ拾いのボランティアではないと思いますよ……」


 海賊がやることなど分かるはずもないが、間違いなく合法的な団体ではないことはハッキリしたのだ。


 もしかしたら、【怪傑の三銃士】なら彼らがどんな海賊か、という特定までできるかも知れない。




「とにかく、ここは先輩達に任せて────」



 その時、突然大砲を撃ったような音がドンと耳に響いた。


「なっ!!」

「ごめんみんな────きゃっ!!」


 追って、セルマの叫び声、馬の苦しそうな鳴き声とともに、馬車が大きく揺れる。


「うわっ……!!」

「な、なんですかっ?」


 手すりに掴まり必死に揺れが収まるのを待って、セルマの方を確認すると、彼女は席を降りて暴れる馬を納めていた。


「な、何か急に爆発が起きて、急に止めなきゃいけなかったの!!」

「爆発??」


 今の大砲の様な音は馬の目の前で起きたらしく、モクモクと黒い煙が道の真ん中を塞いでいた。


「一体何が……」

「お────おい、周り!!」


 馬が収まった頃、ようやく周りを見渡すといつの間にか周りを白い仮面を付けた人たちが、7,8人で取り囲んでいた。



 これは────穏やかじゃないな────



「な、なによ貴方達?」

「名乗る必要はない、全員抵抗せず地面にうつぶせになれ」


 特徴を極力削ったような穏やかに、しかし凄みのある声で、仮面の中の1人が言った。


 もちろん、その命令に簡単に従うほど私たちも何も知らないわけではない。



「目的はなんですか? お金なら私たちにはありませんし、情報なら他を当たってください」


 それぞれ相手を刺激しないよう、馬車を降りて話返す。


「何をとぼけたことを────お前らは知りすぎた、分かるだろ」


 やはり、この仮面の人たちは先ほどの海賊の仲間か────


 どういうわけだか、私たちが先ほどあの高台で見ていたことに気付き、そしてどういうわけだか私たちの後を追ってきて、どういうわけだか追いついて襲撃してきたらしい。


 本当にどういうわけだか────


「え、エリーさん、どうしよう……」


 ジリジリと後退して馬車に背を付けると、スピカちゃんが小声で耳打ちしてきた。


 少し震えるその手、握り返してあげたいが、今はそれだけで敵が襲い掛かってくる引き金になりかねない。


 グッと我慢する。


「素直に従っても、どうせ助けてくれないでしょう。

 かといって、この人数相手に戦闘は流石に────」


 目配せした先────クレアはアイコンタクトで無理、セルマもアイコンタクトで無理。


 どちらも、現実的に見て闘いきれる訳ではないと判断したらしい。



 あの喧嘩っ早いクレアが無理と言っているのだ────馬車移動のせいもあるだろうが。


 あまり状況は芳しくないだろう。


「何をコソコソと────もういい、やれ」



 その言葉を合図に、他の仮面たちが一斉にその輪を狭め、私たちに迫ってくる。


 八方塞がりの万事休す────




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