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帰りたい(104回目)  マグロ村いいとこ一度はおいで


 【汚いおっさん三銃士】────もとい、【怪傑の三銃士】。



 推理力はこの国でもトップクラス、事件解決率もほぼ・・100%。

 しかしどうにも、彼らは問題の多い人たちらしい。


 市街地連続殺人事件の時には、犯人を捕まえるためガハハおじさんことエッソさんが街の集会場で大暴れ。

 被害者は出なかったものの、露店やら近くの倉庫やらに甚大な被害を出してしまったとか。


 他の事件だと、ある村で起きた連続幼児誘拐事件も。

 タラシ男ジョノワさんが犯人を見つけたようだけれど、その過程で村長の娘さんを口説いて懐柔させ、色々と情報を聞き出したらしい。


 事件解決には至ったが、娘さんを利用された村長から怒りを買い、騒動が大きくなって奥さんとジョノワさんは離婚────


 仕事の事とはいえ可愛そうに。まぁ、奥さんの気持ちも分かるんだけれど。



 そしてまぁ、なんだかんだストッパーになっていると思っていたリーダーのライルさんだけれど、彼も無口に見えて2人よりも小さな問題をちょくちょく起こしていた。


 なんていうか、本当に手段を選ばない上に、運と甲斐性のない人たちだなぁ、と少し同情してしまう。


「エリーさん、どうしたの?」

「え? あー、すみませんちょっと昨日のお三方がどういう人だったか、改めて気になったもので────」


 となりにいるスピカちゃんが、手元の資料を気にしている。


 揺れる馬車の中、マグロ村に向かう途中で、軍の本部でいただいてきた過去の資料に私は目を通していた。


 本日の運転はセルマ、なんかいつもより元気がないように見えるが、まぁ、これから行くのが骸骨騒動の村じゃ仕方ない。

 一方、今回クレアの調子は大分いいようで、目をつぶって静かにしている分には、馬車酔いも大分押さえ込めているらしい。


「【怪傑の三銃士】、今回は何事もなきゃいいんですけど。見ますか?」

「うん……ありがと」


 読み終えた端の何枚かを、スピカちゃんに渡す。


 しかし、しばらく隅の行を何回か目で追っている様子の彼女だったけれどどうにも集中できていないらしい。


「スピカちゃん、眠いんですか?」

「え……? えっと、いや、全然……」


 ボソボソと言葉を交わそうとするスピカちゃんだけれど、しかしやはりその目は少し寝不足のように瞼が重く垂れ下がろうとしていた。

 普段から優しい感じの目であまり見開かれることは少ないけれど、今日は少し隈も見える。


 明らかに寝不足だろう。


「スピカちゃん、セルマには悪いですけど村に着いたらいつ休めるか分からないですし、少し休んだらどうですか?

 もしかして最近寝れてないんじゃ────」

「え? あ……なんで、分かったの……?」


 スピカちゃんが少し不意を突かれたような顔をする。


 そりゃあだって、私もそうだから。


「資料はまぁ、後で見ればいいですよ。

 あときーさん少し預かっててください。

 この子眠いみたいなんでしばらく撫でて寝かしつけて欲しいです」

「え、あ、エリーさん……?」


 半ば強引に資料ときーさんを入れ替えると、スピカちゃんもしぶしぶといった感じできーさんを撫でだす。


 そして案の定、あまり時間も経たないうちに、スピカちゃんも壁にもたれて眠ってしまった。

 軽く上着を掛けて、邪魔にならないように私は馬車の先頭の方に移動した。


「ごめんなさいセルマ、2人とも眠っちゃいました」

「いいわよ、エリーちゃんも少し休んだら?」


 馬車を操縦するセルマの隣まで行くと、彼女はニコニコ笑って許してくれた。


「んー、運転出来るの私とセルマだけですし、悪いですって」

「そう、何かあったらじゃあ頼むわね」


 それだけ言うと、セルマはまた前を向いて手綱に集中する。


 セルマは言葉を話せる私より馬の扱いに長けているので、普段は安心して任せられるのだけれど────


「そういえばセルマ、今回の任務、いや、でしたか?」

「いやよ!! そりゃイヤに決まってるじゃない!!」


 あー、そっかそっか、やっぱそうか。


 私じゃどうにも出来ないや、ごめんねー。


「いやよー、そりゃいや。

 でも────自分も頑張んなきゃって思ったのよ」

「と、言うと?」


 セルマは、その明るい顔に少しだけ顔に影を落とす。


「ほら、こないだのムカデやろー、最後残念な結果に終わったじゃない……

 あの瞬間、あの場所で、誰がどうしたってどうにも出来ることではなかったけど……

 こんな言い方あれかな────やっぱりエリーちゃんもスピカちゃんも、あの時のこと気にしてるのよね?」


 ストレートな言い回しに、私は自分の心の中を探るまでもなく、セルマに全てを悟られていたことに気付く。


「そうですね、はい────────」



 あの事件は、まだつい先日のことだ。

 最近は夢にでるし、寝れない夜が続いている。


 軍に長く滞在してる私は案外平気な方なのかも知れない。


 私より何倍も心配すべきなのはスピカちゃんだ。

 何とか平静を保とうとしているけれど、近くで彼女と話してみると分かる変化────心ここにあらずな話だとか、表情だとか、そう言うところが顕著にでている。


 明日スピカちゃんが軍を辞めたいと言いだしても、それを止められるほど今の彼女の立場に私たちはなれていないだろう。


「2人には気にしなくていいわよって言いたいけれど、逆の立場だったら、言われたくないなぁとも思って。

 だから自分はせめて、骸骨やお化けぐらい何とかしなきゃって思ったのよ」

「そう────ですか……」


 そういえばこないだの釣り大会、私を含めたみんなを誘ってくれたのは、セルマだったことを思い出す。

 あの時は大変だったし2度と行きたくはないな────とは思ったけど、一時でもあの悪夢にでるようなあの瞬間を忘れてたことも確かだ。


 そう言うところ、リーダーとしての役目でもあるのに、気を使わせてしまって申し訳ない。


「ありがとうございます。

 でも、私も骸骨怖いですし────お互い無理は禁物で行きましょうね?」

「そうね!! 出来るだけ頑張るつもりだけれど、何か出たら速効逃げる自信もあるわ!!」


 そんな決め顔で言わないで、さっきまでのいいところが台無しだ。


『今回不安だなー』

「なに?」

「いいえ、何でも」


 今までも何かしら私────いやいや、私たちが関わる任務や指令には事件が起きていたが、今回はどうにもスッキリと終わる予感がしない。



 あぁ、ほんと帰りたい────



   ※   ※   ※   ※   ※



 その後、まぁ一応何事もなく馬車は進んだ。

 朝少し早く出たので、お昼太陽が一番高いところに行くまでに、一応マグロ村手前まで辿り着く。


 まぁ、街へ新鮮なうちに魚を届けられるくらいだ。

 街からもそこまで距離のある場所ではない。


「クレアー、クレアさーん」

「お? なに、着いたのか?」

「違いまーす、早めのお昼でーす、起きてー」


 しばらくクレアが落ち着くのを見計らって、軽食を済ませてから門をくぐる。


 【怪傑の三銃士】の指示である、「いい印象を与えてこい」────流石に馬車酔いで吐きそうな女の子を担いで連れていくのは、お互いに得ではないだろう。




「よくぞおいでくださいました、エクレアの軍人様」


 門番さんたちに呼ばれ私たちを迎えてくれたのは、堅物そうな眼鏡をかけた中年の男性だった。


「私はこの村の村長のカッドと申します」

「こんにちは、アデク隊第1番小隊のエリアル・テイラーです。

 私たちは前調査隊として派遣されました、本格的な隊の前に全体の事実関係などの調査を任されています」

「え、前調査? は、はぁそうですか────」


 村長さんは、あからさまに残念そうな顔をする。

 少し失礼な気もするが、まぁ仕方の無いことだ。


 そりゃあ、村長さんだって軍から人が来ても何日かかけて調査をしなければ、正しい解決も出来ないだろうと言うことは重々承知だろう。


 けれど、すぐにこの状況が解決するんじゃないか、という淡い期待もあったはずだ。

 本当なら今すぐにでも始めたい漁業が、こんな小娘たちの前調査とやらで、軍のやつらにはぐらかされたのではないかと、疑いたくなったり肩を落としたくなったりするのも当然だ。


「4日後追って本調査隊が駆けつけますので、それまでこの村の現状について色々とお聞かせください」

「あ、4日後……そんなに早く────いや失敬、ははは!」

「アハハぁ────」


 ホッと胸を撫で下ろすような顔で急にゴキゲンになる村長さん。


 まぁ、今回の件は【怪傑の三銃士】を取り出す以上、軍も真剣に取り組むつもりなのだと思う。

 私たちが低く見られるより、軍の信用を落とすような勘違いをされ続けてもらう方が困る。


「そうだ、皆様には村の宿をご用意しておりますよ!

 期間中はそこをに滞在していただくということでよろしいでしょうか?」

「ではお言葉に甘えます、よろしくお願いいたします」

「それと────来なさい」


 村長さんに呼び出され、私たちより歳上か同じくらいの少女が一人、トテトテとこちらに駆けてきた。


「私の娘のボニートです。この村で分からないことやご入り用があれば、何なりとお申し付けください」

「こんにちは!! よろしくね!」


 ボニートさんは、ニコニコと笑いながら私たちに握手を求めてくる。

 小麦色に焼かれた肌に、快活そうな見た目、いかにも漁師町の娘といった印象を受ける、さわやかな人だ。


「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

「うんうん!」

「あ、つよ────」


 ボニートさんがぶわんぶんわんと手を強めに振ってくるので少々痛かったが、どうやら悪気があってのことでもないらしい。


「じゃ、じゃあ早速今この村で起こっていることについて聞かせていただいてもよろしいでしょうか? 場所は────」

「宿のロビーで話そうよ!! あそこの女将さん私と知り合いなんだ、言えば貸してくれるよ!!」

「こら、ボニート、失礼のないようにな!」

「分かってるって、さ、行こうか!!」



 そのままの勢いで手を引かれ、宿まで引っ張られる。



 げ、元気な人だな────


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