アデク隊長が500万ベストをかっさらっていった大会から2日後の午前────
「き、緊張するな!!」
「うん、するわね。昨日から自分寝れてないわ」
私たちはついに、d級昇格後初めての任務のため、軍施設のとある会議室に集まっていた。
「無理難題……押しつけられたら、どうしよう……」
「その心配はないと思いますけど」
ついこないだまでe級だった私たち────そして昇格したd級。
見習い隊員としての一応の教官からの指導を終えたことになり、これからは他の隊の隊員たちと一緒に任務に当たったり、小隊だけで別の隊の任務に派遣されたり、もしくはその小隊自体もバラバラの編成で活動したりする。
一人前と認められた分、その活動での専門性も大幅に必要とされてくるのだ。
まさかそれで1発目が無茶ぶりや無理難題、という任務に就く事はないだろうが、これからはアデク隊長や先輩達が確実に一緒にいてくれる、とは限らない。
自然と、他の皆も今回の任務に緊張が生まれてきているようだ。
「ぬぅっうわっははっ!! この子たちが今回の先駆けか!?
初の個別任務がオレたちとか!! 運悪いなぁ!! ははっ!」
「うわ、ビックリした! 何事っ!?」
しばらくすると会議室の扉が開いて、突然大声のおっさんが入ってきた。
ガタイがいい、いい意味でも悪い意味でも軍人の豪快なイメージを団子にしたようなおっさんである。
初めて会ったときのアデク隊長を彷彿とさせる。
「アデク、またお前のトコろには若い連中が集まったね。初々しいのはいいことだが私は君が心配だよ」
「やめておけ────シャレにならん」
あとからなんかタラシっぽい痩せたおっさんと、気むずかしそうかおっさんが1人────計3人のおっさんが部屋に集まる。
何事かと様子を見ていると、その後からはアデク隊長────どうやらここまで彼らに同行してきたようだ。
「やめてくれおっさんたち、オレはガキには興味ないんだ────っと、おーし全員集まってるな」
もうすぐ三十路にさしかかるらしいアデク隊長は、自分の未来の姿かも知れないおっさんたちのぶしつけな発言にに嫌な顔をしながら、会議室の前方に立ち指揮を執った。
部屋には私たちアデク隊5人と、おじさんたち3人────2つのグループが集まっている。
どうやら、今回はこのメンバーで任務に就くようだ。
「えっと、初めまして。私はアデク隊第1番小隊リーダーのエリアル・テイラーです」
「ほぁ? そうかそうか君がエリアル嬢か!!
会えて光栄だ!! ふはははは!!」
「え、エリアル嬢────?」
ニヤつくガタイのいいおっさん。
残りの2人も「あぁ、エリアル嬢ね」と何か訳知り顔だ。
何で私の名前を知っているんだろう?
もしかして2年半の落第生活の噂が彼らにも伝わってるんだろうか?
まぁそれも仕方のないことだけど。
「あ? ちがうちがうぞエリアル嬢────君はだな……」
「止めろおっさん3号!!
その話コイツらにしたらアンタらとはもう口を聞かねぇからな!!
ほら、残りの新人さっさと自己紹介しろ」
タラシっぽいおっさんが言い終わるまでに、アデク隊長が無理矢理言葉を遮ってみんなに自己紹介を促す。
それに従って、クレアたち他の隊員も不思議そうな顔をしながら、おっさん3人に挨拶をした。
「じゃあつぎはオレたちの話だな!!
オレたちゃ【汚いおっさん三銃士】さ! はっはっは!!」
「【汚いおっさん三銃士】だって?」
「変な名前……」
なんだろう、新手のコメディアンか何かなのだろうか。
聞いたこともないので、きっと売れてないんだな。
「違うだろ、うちのモンに変なこと教えないでくれ。
この人たちは【怪傑の三銃士】と呼ばれている、速効解決のプロだ」
速効解決のプロ、【怪傑の三銃士】────その名前なら、私も聞いたことがある。
なんでもこの人たちは、物事を速効で調査することに関しては、軍の中で最も秀でた3人のチームらしい。
その手際たるや、例えば数週間手が付けられなかった街での惨殺事件を、ものの半日で解決してしまったとか。
名前は確かリーダーの無口なおっさんライル────
一番賑やかなおっさんがエッソ────
タラシっぽい痩せたおっさんがジョノワ────
彼らが関わって長引いてしまった事件の調査は、今までないという、まさに事件解決についてはプロ中のプロの3人だ。
「エリアル嬢はよく知っているね。
私たちの名前は中々知らない人連中が多いのに!」
「ほとんど左遷組────と言うやつだからな」
「ハハハ! ともかくオレたち【汚いおっさん三銃士】が今回一緒に任務に就くわけだ!
そしてアデクは来ねぇんだとヨ!」
その言葉に、アデク隊長がギクリとなる。
「え、アデク隊長は参加しないんですか?」
「お、おう……他に仕事があってな……」
申し訳なさそうな顔をするアデク隊長だが、他に仕事があったのではそれは仕方ないことじゃないだろうか。
むしろ私たちのためにここに説明まで来てもらって、私たちは感謝すべき何だと思うけど────
「はは! アデクぅ~こないだこの子たちに『任務ほっぽり出して今すぐ行ってやる!』って啖呵きったんだってぇ?」
「それで今このしわ寄せが来ているんだから、部下にいい顔出来ないのも当然だよな。
君と仕事が出来ないのは僕らとしても残念だぁ」
「えっ? そうなんですか!?」
それは殆ど私たちのせいだ。
アデク隊長には申し訳ないことをした────と思うが、どうやらおっさんたちの考えは違うらしい。
「君たちは気にすることないよ、むしろ君たちはアデクが到着するまでよく持ちこたえたね」
「そーゆう部下の成長はなんだかんだアデクも嬉しいんだろ!! ガハハハ!!」
「アンタらいい加減にしろよ!!」
おっさんたちの言葉に顔を赤らめるアデク隊長────
彼のこんな姿中々見れる物ではないし、どうやらそれを引き出す【怪傑の三銃士】という人たちの観察眼も確かなようだ。
「まぁ、いい加減にしてやれ2人とも────話が進まん」
「はいはい、ごめんごめん」
「ハハハ! 悪かったってそんなすねんなアデク!」
リーダーのライルさんの一声で、2人はスンと大人しくなる。
どうやら彼がこの隊のストッパーのようだ。
「面白い人たちね~」
「結局何したいのか分かんないけどな」
そしてやっぱり理解してない新人たち。
ダメじゃん。
「このおっさんたち【怪傑の三銃士】は、まぁ何かを調査解決に導く専門家って考えろ。
何かこの街周辺で事件が起きたときの超最終手段みたいなもんだ。
超最終だから、滅多に仕事しねぇけどな」
「え、専門家なのに────滅多に?」
確かに、そんな異名が付くほどの人たちならもっと多くの仕事が回ってきそうだが、軍からしたらそれはそれで不味いらしい。
「仕事が少ないのは、私たちの解決の仕方が悪いからだよ。
時には力業、無理矢理強引な手口も使うし、そりゃあ上もあんまり私たちを使いたがらないわけさ」
「ハハハ、解決のためには手段選べねぇって案件ばっかだから、あまり怒られねぇけどな?
ただ始末書が多くて大変だ、お嬢ちゃんたちは真似すんじゃねぇぞ!?」
「真似したくて────出来るもんでもないんだがな」
まぁ、幹部失踪事件やバルザム隊行方不明事件などにも駆り出されなかった人たちだ。
何というか軍内部のことと言うより、市民に直接被害が被って仕方がない切羽詰まった案件、と言う物の配属が多いと小耳に挟んだことがある。
問題は、なんでこのおっさんたちが、今回駆り出されたのか────