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帰りたい(83回目)  迫るリミット

 山を下り、クレアやスピカちゃんと合流をする。


 その間のドクターの治療と休養のおかげで、スピカちゃんはかなり元気になっていた。

 肌つやもよく、関節も自由に動かせるくらいには傷も回復魔法や薬で治癒できたらしい。


 ここで始めて会ったときと比べると、もう全快と言っていいだろう。


「ありがとう、エリアルさん、セルマさん……

 あ、あの────大丈夫……?」

「あー、元気です平気です、少し木の上から落ちただけなんで」


 私は村に戻る道中、エネルギーの切れたセルマとともに落下し、服がボロボロだった。

 幸い怪我はほとんどないけれど、見た目だけだと、いかにも酷い目に遭ったように見える。


「アハハハハ!! 偵察に行って!! 帰り道で! ボロボロに!! アハハハハ!!」

「く、クレア……」


 私達を見て大笑いするクレアだったが、かく言うクレアもかなりボロボロだった。

 何というか、見た目ではなく雰囲気がボロボロだ。


「どうしたんですか、クレア?」

「あー、荷物運んだり村の住民説得してるうちに大分疲れちまって……ちょっと休んでいいか?」

「あ、どうぞどうぞ。座ってください」


 クレア私達がいない間村を駆け回ってくれたようで、避難物資の移動や住民の説得など、あらかたの仕事は片付けてくれていた。


 「自分の故郷を捨ててほしい」と頼み込まなければいけないわけで、村人への説得は特に苦労するのではないかと高をくくっていたが、クレアのおかげで何とか角を立てずに説得できたようだ。


「あーいや、その点に関してはアタシはほとんど何もしてねぇよ」

「と、言いますと?」

「ほら、ドクターと村長が説得を協力してくれたんだ。

 中には嫌がる人たちもいたけどな、まぁ命には変えられないって方向でまとめてくれたみたいだ」


 そうか、あの2人が協力をしてくれたのか。


 村を取り仕切る村長と、みんなから信頼を得ているドクター────この人たちなら、説得する配役としては申し分ないだろう。


「今お二方はどこに?」

「まだ集会所にいるぞ」

「分かりました、私ちょっとお礼に行かないと。

 皆さんもちょっとついてきてください」


 4人揃って、集会場へ戻る。


 相変わらず、集会場の中は人々の不安な雰囲気がムンムンと立ちこめていたが、先ほどよりも少しだけ空気は緩んでいるように思えた。

 時間が経ったのもあるだろうが、ドクターがいるため、少しだけ安心できたのが要因ではないだろうか。


「村長、ドクター」

「あぁ、お帰り」

「こりゃこりゃやっとこさ帰ってきたなこりゃこりゃ、熱い茶でもこりゃこりゃ飲んで体こりゃこりゃ休めんとこりゃこりゃいかんよ」

「ありがとうございます」


 村長から紅茶をもらって一息つく。

 体の芯から暖かさが溢れてくるようだ。


「あのお2人とも、皆さんの避難の説得を手伝ってくれてありがとうございました」


 私は他の村人に聞こえない程の声で、2人にお礼を言う。


 正直、自分達が説得されたとなればあまりいい気分をする人もいないだろうから、耳打ち程度にすませておきたい。


「こりゃこりゃ、構わんよ」

「うん、私もこれぐらいなら医師の業務内だからね」


 2人とも快く頷いてくれる。


「あの、アタシからもありがとう────ございました。多分アタシだけじゃ話にもならなかった」

「あ、自分もありがとうございます」

「スピカも────」


 私達は各々にお礼を言っていく。

 しかし、村長とドクターはそれを聞いて、あまり喜ばしくないような、苦い顔をしていた。


「どうしたんですか?」

「いや、村人の中にはこれからの避難に戸惑っている人たちもいてね。

 せめてこれから我々がどう動けばいいのか、ハッキリさせてほしくて」


 ドクターの言うことは最もだった。

 今ここにいる村人全員、不安を感じていない人などいないだろう。


「それなんですが、お2人にお願いがあって────」

「こりゃこりゃ、何かね?」

「村長には、村人たちの避難を今すぐにでも先導してもらいたいんです。

 私とセルマで先ほど廃工場を見に行ったところ、確かにムカデと敵の男はあそこに留まっているようでした。

 今なら彼らに襲われず安全に、避難できると思います」

「こりゃこりゃ、そう言うことかね、ならこりゃこりゃ任せなさい」


 そう言うと、村長は彼の年では考えられないほどきびきびと立ち上がると、村人の方へ歩いて行った。

 彼らの食料などはクレアが馬車に移してくれたので、道中食料に困ることもないだろう。


「あと、ドクターにお聞きしたいんですけれど、村人の中に緊急の手当が必要な人はいますか?」

「いや、今は大丈夫だけど。もしかして……」

「はい、敵を迎えうつのに、協力してもらえませんか?」

「えぇーー……」


 ドクターは露骨に嫌そうな顔をする。


 まぁ、彼は一般人なのだ、協力の依頼は出来ても無理に闘わせることは出来ない。


「すみません、やっぱり無理ですよね────」

「いや、手伝える事があれば手伝いたいんだ。

 ただ私も敵と直接戦うことは出来ないし、策も知らされないままでは不安だよ」

「そうですね。策なら考えてあります」


 そのためには、いくつか準備が必要だ。


 そして、この作戦はおそらくドクターの協力も不可欠になってくるだろう────



「分かりました、場所を変えましょう。

 クレア、頼んだ事はしておいてくれましたか?」

「バッチリだぜ、持ってきた積荷の荷物、全部数えてから、空にした。

 スピカも途中から付き合ってくれたんだぜ」

「す、スピカはそんな大したこと……」


 恥ずかしがるスピカちゃんだったけれど、2人が協力してくれたおかげで、私達は一歩先に勧める。

 この短時間で終わらせてくれたことは、とても私にとってもありがたいことだ。


「じゃあ、準備出来たみたいなので、一応考えた策を聞いてください」




   ※   ※   ※   ※   ※




「そ、そんなの危険すぎるわ!!」

「エリアルさん、もっと他の手を……」

「お前ホントにそれでいいのかよ!!?」


 私の作戦は、周りからは非難囂々だった。


 あれ、ここまで反対されるとは思ってもみなかったぞ────


「それなら確かに私でもできるが、賛同しかねるよ……」


 ドクターまでも渋い顔で首を縦に振らない。


「み、皆さんに出来るだけ負担を小さくと思ったんですけど……」

「だから怒ってるんじゃない! エリーちゃんの負担が大きすぎるって話でしょ!」

「エリアルさん、それは危なすぎるよ……」

「そうだそうだ、1人だけおいしいとこもってこうとしてんじゃねぇよ!」


 なんか1人だけ違う理由で反対された気がするけど、とりあえずみんなの意見は反対一択だ。


 しかし、私の意見に賛成する人物がいるのも事実だった。


〈OH~燃えますネ~!! そういう面白い作戦だーい好きデース!!〉


 それは、通信機の向こうのリーエルさんだった。


 2人が生存していたことを伝えるついでに、作戦の内容も聞いてもらったのだ。


 彼女は非難囂々の私の作戦に、唯一乗ってくれた。


〈ジャア、この作戦を実行と言うことデ────〉

「何考えてるんですかリーエルさん!!

 そんな危ないことエリーちゃんにだけさせられないわ!!」


 決まりかけた事項に、まだ誰も納得がいっていないらしい。


「絶対危ないわよ! 一番危険が高いじゃない!」

「アタシももっと、他の方法があるんじゃないかと思う」

「リーエルさん……」


 3人の視線が、一気に通信機に集まる。


 しばらく沈黙があったが、浅いため息が聞こえた後、リーエルさんが切り出した。


〈ジャア、エリアルがこの役をやらなかったとしテ、他に誰がやるんですカ?

 もしくは2人ないし3人でやるなラ、誰が貴女達の穴を埋めるんですカ?〉

「そ、それは……」


 突きつけられた正論に、反論できる者は少なくとも誰もいなかった。


〈もしどうしても心配なラ、何かが起こる前に貴女達がやるべき事を成すのデース。

 それが一番エリーを救う手立てにもなりマース〉

「────分かりました……」



 と言うことで、今回は私の作戦案が実行に移されることになった。


 各々不満不安はあるだろうけれど、それはこれからの闘いに向けていくしかない。


「そんな簡単に感情の整理が、つくわけないだろ。危ういな君は。

 じゃあ私は言われたとおり村人を見送った後、吊り橋の向こうで待っていればいいね」

「よろしくお願いします」

「必ずこっちに来るんだよ」


 そう言い残すとDr.ダリルは、まだ暗い村の中を、先に行った村人を追いかけて行ってしまった。



「じゃあ私達も行きますか」


 4人で移動して、馬小屋に向かう。

 私達が乗ってきた馬車が既に用意されており、いつでも出発できる状態にされていた。


「クレア、用意いいですね。ありがとうございます」

「まぁ、空にしたって事は、これ使うんだろうと思ってたしな」


 クレアは照れくさそうに頬を掻く。


「じゃあ皆さん、行きましょうか」


 気合いを入れて、馬車を走らせる。


 行き先は廃工場、2人を救うため、そして今誰もいなくなってしまった村を守るため。



 タイムリミットまで、残り1時間半────



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