〈Hi、ではワターシことリーエル・ソルビーのプロファイリング講座の始まりデース!
まず今ある情報を整理しますネ。
リーエル隊────つまりワターシの隊の隊員である58番小隊3人とフェリシアの4人が森で夜な夜な聞こえる木の折れる音の正体を探索にいきましタ。
何もないからお昼にでもしまショーと余裕こいてたら、敵の襲撃に遭ってヤバーイことになっちゃったワケですネ!
OHスピカ、そういうつもりで言ったんじゃないヨ!
むしろこれ、フェリシアの監督不行き届きデスかラ。
本人も
話を戻しマース。襲撃された4人のうち2人が敵に捕縛、1人は敵を追い現在行方知れず、敵の言ったことが正しければそう言うことになりマース!
ここで注目すべきは敵の動きデース。
まずサガラ村の村長がフェリシアに相談しなけれバ、4人は森に来ることもなかっタ、つまり敵はスピカ達を計画性なく襲ったことになりマース。
スピカの戻ってきたときの状態からも言えることでショウ?
敵はスピカが村に帰還したことまで把握していましたガ、最初のムカデの一撃はフェリシアの判断でなんとかスピカだけ凌げただけデ、本当なら新人ちゃん達3人ともノックアウトの威力でしタ。
人質にとることは考えていてモ、肝心の攻撃は計画性が全くありまセーン。
で、その次デスが、敵の襲来、そして要求、人質との交換の宣言。
ワターシもこれは聞いてましたガ、かなりアバウトでザックリなものでしタ。
アバウト・ザックリ、嫌いな言葉じゃないけド、今回は糞食らえデース。
敵は無闇に村人まで巻き込んだのですカラ────
マズ、魔物で村をゆすっテ、ミンナ出て来たところで一方的要求、話が終わったらさっさと帰ル。
もうちょっとやり方ってもんがあるでショ?
多分、敵は
素人の犯行は怖いデースね!
アトこれはワターシの力不足ですガ、何故軍からの荷物があることを知っていたのカ、そこまでは分かりまセーン。
2人が捕まってから喋っタ?
イヤイヤ荷物があることを知らなきゃ4人襲う必要がありまセーン!
おそらク、積み荷のことは元々ヤツは知ってタ。
でも村を襲っても手に入るとは限らないシ、確実に奪う手段がなかっタ、そこでたまたま通りかかった4人を襲ってそのうち2人を人質ニ────クソ野蛮デスね!
それに気になるのハ、積み荷の存在を教えたのハ誰カ。もしかしたら黒幕とカ────?
まぁ、それならその黒幕が、荷物を奪うところまで計画するはずなのデ、ソイツは近くにいないとワターシは思いマース。
デモマァ、ヤツの
え、『そもそもどうして私達の運んだ積み荷を狙ったのか』?
簡単でーす、そこにある食料、それを“ノースコル・デスセンティピード”に食べさせるためデショ?
あぁいう子、以外に食費がかかるのヨ、ホントマジデ。
こういう積荷、結構山賊やら敵のヤツらやら、襲われるんデ、危険なので軍が運ぶんデース。
そもそもヤツが森にいた理由は、熊や鹿を襲って食べていたのかもデスね。
まぁ、敵はノースコルの人間で間違いないのデ、そもそも何でそこの森に潜んでたのかはやはり分かりませんガ。
そう言うことなのデ、敵は衝動的な浅はか大バカヤローの脳みそピーナッツなのでワターシならそこを狙ってボコボコにしていきマース!
顔面二倍に腫れ上がったら爪全部剥がしテ、鉄板の上を裸で踊らせたいデース、フフフッ。
以上、リーエルプロファイリング終わリ、By~♡〉
「リーエルさん、だーいぶイラついてますね」
〈部下を人質にされたから多少は、ネ?〉
※ ※ ※ ※ ※
村の中心、普段から頻繁に使われていそうな、そこそこの広さのある集会用の会館の中で、私達や村の人たちは肩を寄せ合い集まっていた。
先ほどの騒動からそれぞれが集まって固まるべきだと判断した私達は、村長に頼んでここを解放してもらい、村人達を避難させた。
村人23名全員の生存は確認できたが、中には先ほどの揺れで怪我をしてしまっている人もいたため、ドクターとセルマは順番に傷の処置に当たっている。
とりあえずここに食料なども備蓄されているため、朝ここから移動するに当たり馬車に食料を積み上げる仕事は、クレアに任せた。
そして私とスピカちゃんは先ほどからつながりっぱなしの通信機に耳をかたむけ、リーエルさんのプロファイリングを聞いている。
「じゃあ、リーエルさんはあの男が2人を人質にとったのは、偶然森の奥にスピカちゃん達が入って行ったからだと、思うんですね?」
〈YES、でもフェリシアの判断も責められませんシ、今回は運が悪かっただけデース。
今ごろ2人を探して森を彷徨ってるあの子の事を思うト、胸が痛いデース〉
「運が……」
スピカちゃんは、憂いを帯びた眼で下に俯く。
運が悪かった、か────そういえば以前にアデク教官の家に担ぎ込まれたときも、私は自分が助かっても運がいいとは思えなかった。
きっとスピカちゃんにもスピカちゃんなりの葛藤が、まだ心の中にあるのだろう。
「あのリーエルさん、アデク教官はどうしたんですか?
先ほどから声が聞こえませんけど」
〈今のを聞き終わるト、スーグそちらに向かいましタ!
一刻も早クそちらにたどり着くたメ、この場はワターシに任せるそうデース〉
こちらアデク教官が来ている、それはとても頼もしいことだった。
しかし、よく考えてみると人質の交換は10時間後、それまでに馬車で3日かかった距離を、移動できるわけがない。
人質の交換に応じるにしても応じないにしても、ここは私達で対処しなければいけないんだ。
〈あ、ソウソウ! アデクは『アナータ達のことを好きに使っていイ』って言い残していきましタ。戦闘になることも致し方なイ、トモ〉
「戦闘に?」
そうなることがあり得るのだろうか?
今必要なのはまず村人の安全の確保だけらど、その次の優先順位は捕まった2人の救出だと私は思っている。
今からなんとか村人を交渉して積荷をもらい、スピカちゃんがその食料を渡せばそれですむ気がする。
「エリアルさん……それは違うと思う……
スピカ一人が行ったところで、2人を返してはくれないかも……」
「相手が約束を反故にするってことですか?」
〈スピカの言うトーリ、それは充分あり得る話デース!
ソモソモあの大きさのムカデがいるなラ、パワーも絶大デス、相手が約束を守る理由は無いでショウ?〉
確かに、敵には動くだけで木をなぎ倒すほどのムカデが味方にいるのに、律儀に約束を守る必要はない。
そう言われてみると、人質は帰されずにより多くの要求を吞まされるかも知れない。
〈ソレニ、食料を今渡したラ、村人サン達が移動するのにも困りマース。
隣の村まで皆サン避難されるにしてモ、そこまでの食事ヤ避難先での食料ハ必要不可欠デース。
今の村にはそこまでの食料ハなかったんデスよネ?〉
「はい、ありません」
〈ナラ、ここは人質を見捨てるカ貴方達だけで闘うカに絞られマース。
エリー、アナータどうしたいデスカ?〉
「私は────」
私は、正直闘うのはゴメンだ。
あんな大きなムカデ私達だけでどうにかなる物だとは思えないし、相手と闘うための準備の時間もない。
でも、人質の3人を見捨てられるかと言われると、そんなことは出来るわけがなかった。
絶対に、あの2人は助けなければならない。
「闘うのはイヤですが────迎え撃つしかないと思います。私が出来ることならできる限りやらせてください」
「ヨカッタ、その言葉が聞けて安心しましタ。
スピカ、アナータはアデク隊と協力しテ、あのムカデヤローをぶっ飛ばしなさイ。
出来マースカ?」
「スピカも────スピカも……」
スピカちゃんは、少し迷った様子で言葉を詰まらせた。
「スピカもやります……絶対に助けたい、です……!」
私は、スピカちゃんの身体が少しだけ震えていることに気付いた。
おそらく、これは彼女にとって初めての実戦だろう。
仲間の命に加え、自分の命までかかった大勝負だ。
私なんかは仕方ないと割り切って決めてしまったが、本当ならこれほど恐ろしくて緊張することはない。
それでも、これがスピカちゃんの出したこの答なら、私は彼女に協力したい。
〈スピカ、アナータ本当に成長しましたネ。
大丈夫、今まで教えてきたことが出来れバ、問題はないはずデース!〉
「はい……」
そうと決まれば、残りの時間の過ごし方にも決まってくる。
まず村人への朝になってからの避難の交渉、そして作戦を立てて身体も充分に休めなければならない。
残り時間は9時間弱、それまでにやるにはとても急ピッチの仕事が必要だけれど、まぁ何とかなる────はず。
〈ア、そうだエリー! ヒトーツお願いしていいデスカ?〉
「お願い?」
〈人質の安全確認をこっそりしてきてほしいデース。
もしかしたら────〉
もしかしたら────リーエルさんは少し言いにくそうに言葉を繋げた。
〈もしかしたら人質の2人ハ、既に────〉
タイムリミットまで、残り9時間────