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帰りたい(48回目)  2年前のエリアル

 リアレ・エルメス、新進気鋭の若人わこうど戦士。

 彼のもつスピードと雷魔法の威力は、この国でも屈指の技術とセンスを要する。



 通り名は【麒麟きりんのリアレ】。


 天を翔るその勇猛なるその姿から、彼のその名は付けられたと新聞記事には書いてあった。

 それだけの実力の持ち主、若くして彼が新幹部に選ばれたというのも納得だ。


 そういえばロイドが以前に別のやつに先を越され、幹部入りを果たせなかったと言っていた。


 そうか、この人がロイドの一歩先を行っていたから彼はいつまで経ってもルーキー止まりなのか。



「まさか君たちがアデク先輩の隊のメンバーだったとはね。

 なんか、照れくさいな」

「リアレさん、こないだはお店でありがとうございました」

「あっ、ありがとうございました!」


 各々で挨拶を言う。

 とりあえずこれで奢られる側の義務は果たせたはず。


「いやいや、挨拶もロクに出来ずに申し訳ない」

「そ、そういえばリアレさんはどうしてうちの隊にはいることになったの!?」


 先程から興奮の止まないセルマがキラキラとした眼で聞く。


「それが、僕も凱旋祭で────」

「いや、リアレ、オレから説明する」


 アデク教官がリアレさんを静止する。


「実は、来月の凱旋祭でリアレが国王警備に着くことになった」


 なるほど、国王警備ともなればかなりの人員と手助けが必要になる。

 それに新しい幹部の参加というのは、国王にとっても心強いだろう。


「でも、おかしくねぇか? 一つの隊に幹部二人なんてあるもんなのか?」


 クレアが率直な疑問を投げかける。


「いや、一時とは言えまず有り得ないかな」

「ならどうして……」

「それは────」


 アデク教官が神妙な面持ちで答える。


「それはうちの隊、つまりアデク隊の4人が当日警備に出るよう、国王直々に依頼が出たからだ」

「「『はぁ!?』」」


 3人の声が被った。


「じ、じじ直々!? 国王直々ってどういうことだよ!」

「ななな、なんでそんな大役自分たちがっ!?」


 2人が驚くのも無理はない、私も驚愕している。


 国王警備は最高司令官から選ばれた軍人が警備に付くのが基本である。

 あの精鋭揃いのリーエル隊でさえ、参加するのはa級b級の強者ばかりだ。


 それが、私達右も左も分からないようなしたっぱ3人に警備の依頼が来るなど、まずあり得ないだろう。


 この凱旋祭が間近に迫り警備の予定も決まった今ならなおのことだ。


「間違いとかじゃないんですか?」

「間違いじゃないから、コイツがここにいるんだろう」


 そう言ってアデク教官はリアレさんを指さす。

 その言葉を受けてリアレさんが立ち上がった。


「つまり僕は、君たちの戦力の補強のためここに配属されたわけだ。短い間だけれどこれからよろしくね」


 リアレさんはそうはいうが、実際それはそんな生やさしいものではなく、私達が死なないように失敗しないように、いわば子守役を押しつけられたのが正しい解釈だろう。


 申し訳ないとは思うが、だとしたらやはりなおさらおかしい────


 新進気鋭の幹部をわざわざ都市に引き戻してまで私達を参加させる、その国王の意図が読めない。



 リアレさんが私の心を見透かしたように問いかける。


「なんで、国王がそんなことをしたがるのか、だよね」

「は、はぁ……そうです」

「ここからは怒らないから、お前さんたち正直に言え……」


 アデク教官が教卓に手を突くと、重々しい口調で喋り始めた。


「オレとリアレは、お前さん達の誰かが国王の目に留まるような何かをしたせいでこうなった、と思ってるんだ。

 お前達の中で誰か心当たりのあるやつはいないか?」

「心当たり?」

「ないなら質問を変える。

 国王と関係があるやつ・・・・・・・・・・、怒らないから手を上げろ」



 国王と関係?


 そもそも国王と関係ない人間なんか、この国にはいないだろう。

 国王と国民という関係で、その両者は結ばれているはずだ。



 しかし、「国王と顔見知り」であるという条件で区切るのなら、それはもしかして─────



 もしかすると────




「あ、その原因、私、かもしれません……はい……」


 場が静まる。



 皆の注目が集まった先には────私がいた。



「やっぱりお前か!! ふざけんな!! また厄介ごとに巻き込まれたな!!」


 アデク教官がキレた。

 さっき怒らないって言ったじゃん。


「先輩落ち着いて! テイラーちゃん……だったかな?

 どういうことだい、君と国王の間に一体何が?」

「も、もしかしてエリーちゃんて……王女様!?」

「そんなわけないじゃないですか」

「じゃあお妃か!?」

「私の王族説から離れてください」


 騒ぐ3人を、リアレさんと私で必死に抑える。

 もしかしたら、リアレさんも私と同じ巻き込まれる側の人間なのか。


「はぁはぁ、怒りすぎて逆に振り切れた。

 当然だが、どういう経緯で国王とお前さんが関係をもったのか、話して貰うぞ」


 4人の注目が私に集まる。

 誰も口にしないが言いたいことは一つのようだ。


 しっかり説明しろ────



 そういえばすっかり忘れていた、いやこの話は関係ないと思っていた。

 しかし、アデク教官は国王と関係があるやつは名乗り出ろと言った。



 それはつまり、あの日のことも語らなければいけないわけで────



 ※   ※   ※   ※   ※



 丁度2年と少し前、エリアル・テイラー、当時14歳。


 私は、軍で同じ小隊のメンバーになった友達のお家に夕飯をお呼ばれした。

 確かその日は入隊と小隊結成3ヶ月記念と言うことで、同じ隊の同期メンバー5人でその子のお家に行くことになったのだ。


「君のお家でお呼ばれなんて気前がいいね。

 でも僕たちが押しかけちゃって悪くなかったかな?」


 当時同じメンバーだったイスカ・トアニが言う。

 彼女も元は軍の人間、今はマッサージ屋店主でその力を遺憾いかんなく発揮してくれているが、その頃は私と同じ小隊のメンバーだったのだ。


「別にいいよ、両親がどうしてもというんだ。

 僕は恥ずかしいから嫌がったんだけれど、お世話になっているみんなを連れてこなければ、僕は今日家の敷居しきいをまたげないらしい。

 僕を助けると思ってさ」


 その日お家にお招きしてくれたリゲル君がさわやかな笑顔で結構エグいことを言う。


 彼は長身のさわやかイケメンという感じで、他の隊のメンバーの中にもファンが多かった。


「じゃあ料理も期待していいんだな? 沢山食べても怒らないな?」

「こら、ロイド下品!」


 それを聞いていたロイドが茶化し、ミリアが嗜める。

 ロイドはいまも相変わらずだが────ミリアがあんなことになるなんて、私はこの頃は夢にも思っていなかった。


「いや、オレはそんな食べないけどよ、コイツが食料庫食い潰すんじゃないかと心配で」


 ロイドが私を名指しした。


「私そんな食べませんよ────と、言いたいところですがお腹空いたのでロイドは来なくていいですよ。代わりに食べときますから」

「ちょ、お前!!」

「了解、そう伝えとくよ」

「リゲルまでっ!!」


 風向きが怪しくなってきたロイドは慌て始める。

 彼だって今日のことは楽しみにしていたはずだ。


「エリーいじめるからだよー、ロイドがエリーにクチで勝とうと思ったら別世界の人間にならないと」

「はははっ、それ面白いねっ! 僕も今度使っていいかな?」

「なっ、ミリア、イスカ! お前達までっ!!」


 そういいつつ、ロイドは明らかにイスカだけの眼を意識している。

 多分、彼は彼女のことが好きなんだろう。


 まぁ、あいつから協力を頼まれでもしない限り私からは何もしない。




 2年前の思い出だ。

 当時の私は、何て言うか、「上手くやって」いた。


 普通に訓練を受けて、普通にバイトして、普通に起きて普通に遊ぶ。

 休日の引きこもり体質は今とそう変わらないが、同じ時期に入隊したミリアともそう変わらない成績を残し、2年もf級止まりだとは夢にも思わなかった。


 可も無く不可も無く、大きな欠点もなければ魅力も無い────


 普通にみんなと強くなって、普通にみんなと隊を続けて、普通で普通な生活を送ると信じていた。



 そうこうしている間に、私達はリゲル君の家の前に到着した。


「さぁ、着いた。ここが僕の家だよ。あんまり驚かないでね」

「ここって─────」


 そこには、重い警備と何名もの兵士で囲まれた、厳重な門扉もんぴがあって────



 ※   ※   ※   ※   ※



「どういうこと??」

「話の流れが分からねぇな、そっからどうして国王と知り合いになるんだよ」


 ミリアとセルマが首をかしげる。

 アデク教官とリアレさんは何となく状況が掴めたようで、ため息混じり苦笑い混じりの微妙な顔をしていた。


「つまり、あれだったんだな────」

「そのリゲル君ていうお友達が────」


 2人の言葉をつなぐように、私が結論を言う。


「つまり、その友達が、この国の王子だったんです」

「え、え?」


 一呼吸置いての大絶叫が来る。


「ええええええぇぇぇ!!? 嘘だろ!」

「ええ!? もしかして、りりり、リゲル君て、リゲル・ベスト!? 第5王子の……!!?」


 名前がようやく出て来たようで、セルマが繋がった辻褄に、さらに驚きを重ねる。


「じゃ、じゃあその厳重な扉って……」

「王宮の門でした。正確には、王宮までの王族専用エレベーターの前です」

「ひ、ひゃあ……」


 クレアとセルマが言葉を失う。


「まぁ、エリーの同期がリゲル王子だったなら、あり得る話だな。

 実際彼の兄たちも同じように社会科勉強のために軍に入隊してたらしいし、同じように王宮に招かれたやつがいるという噂も聞いたことがある」

「先輩、僕はあくまで都市伝説化だと思ってましたよ。

 噂も侮れないですね……」


 そんな噂があったのか、張本人の私は今の今まで知らなかった。


「いやいやいやいやいや!! おかしいだろう!」


 まだ納得できないクレアがさらに食い下がる。


「名前で気づけよ! リゲル・ベストなんて名前のやついたら、普通気付くだろ!!」

「苗字を偽名で登録しているんです。今も秘密にしてますから、この事は周りに内緒にしてくださいね」


 軍では、偽名での登録も、特例で認められる場合がある。

 私の場合とかがそうだ。


「それより、よくよく聞いてたら、お前の言ってるリゲル以外のメンバーもヤバいだろ」


 指を折りながら、アデク教官が一人ずつ数えてゆく。


「リゲル・ベストは国の第5王子。

 イスカ・トアニは繁華街の新技術マッサージ店店長。

 ロイド・ギャレットだって19歳にして幹部候補のスーパールーキーだ。

 それにミリ────」

「ロイドってあのロイドか!?」


 ロイドの名前に名前にリアレさんが反応する。


「君、あいつと友達なのか?」

「そうですけど……リアレさんはロイドとお知り合いなんですか?」

「い、いや、会ったことはないけど……」


 じゃあなんだろう。

 気になるところだが、しかしリアレさんはあまり自分のことは多く語りたくないらしい。


「まぁ、エリアル、落ち込むなよ」

「そうよ、私達がいるじゃない!!」

「や、止めてくださいそう言うこというの、優しさがイタいですから」


 何もしてないのに、クレアとセルマに慰められた。

 どうやら周りが凄すぎて私のことを不憫ふびんに思ったらしい。


「ともかく、本当にそれが原因でこんなことになった────んですかね、先輩?」


 話が逸れかけたのを見て、リアレさんが脱線を戻す。


「まぁ、確かに妙ちゃ妙だな。国王がその程度のコネで直々に警備を動かすのもおかしいし────お前、本当に王宮で何かやらかしたわけじゃないんだな?」

「当たり前じゃないですか、何かやらかしてたらそもそもここにいませんよ」

「だよなぁ……」


 なんだか分からないが、また私は厄介ごとに巻き込まれてしまったようだ。


 しかも今回は原因が分からない。

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