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帰りたい(35回目)  背中の羽根はかざりでは

 草むらから見えるのは大きな鉄の塊、そしてそこに集まる男達だった。

 見たところ5人、その中のリーダーらしき男が他のメンバーに何かを話している。


「オレは通常通りここで番をしている。集合は2時間後、くれぐれもあの“ケンタウルス”には見つかるなよ」

「了解────」


 それを皮切りに、リーダーらしき男を残して、密猟者たちは鉄の塊の周りを離れていった。


「ここって他にも人がいたのか」

「え? でも自分たち以外には人間は今この公園にいないって管理人さんが言ってたじゃない、パンフレットにもそう書いてあったわ」

「じゃああれは……」


 確かに、あの男性たちはこの場の雰囲気に比べて異常だ。

 のどかな風や小鳥のさえずりさえも打ち消すような、そんな雰囲気。

 ここのいるはずのない人間がいると言うことより、彼らの格好や言動自体が異質なものだからだろうか。


 そして私は、そのカモフラージュされた彼らの服装や、彼らの近くに置いてある鉄の塊に見覚えがあった。


「2人とも、多分あれは本物の密猟者です……」

「密猟者!? それって────」

「ええ、狙いはやはり『ここに住む精霊』でしょう……」

「まさかそんな……」


 2人は絶句する。

 先程まで呑気に話題にしていた分、出会ってしまったときの衝撃は大きかった。


「嘘だろ? こんな地面に凹凸まで付けてなんのために。あんな鉄の塊運ぶんじゃ移動するのも一苦労だろ」

「あの鉄の塊は『トラック』です……」

「と、とらっく?」


 クレアは聞き覚えのない名詞に眉を寄せる。


「ええ、トラックというのはヨルアクリョマ鉱石で動くここ数年で発明された乗り物です。

 ゴムのタイヤを付けているので、この地面のでこぼこはあのトラックのタイヤの痕でしょう」

「ゴムのタイヤで鉄の塊を動かせるの?」

「可能です。しかも速い。とても便利で馬より速く、馬より疲れ知らず、馬より大きな荷物も運べる、まさに馬車に変わる移動手段なんです。

 何か大量の物を運ぶときのためにと、軍でも試験的に使用されている乗り物です」

「そんなに速く動くの!?」


 セルマは大声を出しすぎたことに気付き、慌てて口元を押さえ、再びトラックを見つめる。

 激レアな乗り物に対し、馬車嫌いのクレアも感慨深そうにのぞき込む。

 あんま乗り出すとバレるから気をつけてほしい。


「そんな乗り物があるなんて知らなかった……」

「ええ、でもまだトラック自体もほとんど流通していないはず……

 軍でも3台しか今はまだ保有していないんです。

 運転できる人が限られているというのもありますが、とても高価なので、一台でエクレアの一等地に家三軒は買える代物だったと記憶しているんですが……」

「そんな物をなんであんな奴らが持ってるんだよ?」


 それはなぜか、それは多分、考えたくもないことだけれど、答えは一つだろう────


「きっと、あんな奴らだからこそですよ」

「どういうこと?」

「精霊がそれだけ高価な値段で裏取引されていると言うことです……

 例えトラックがどんなに高価な買い物だったとしても、捕まえた精霊をより多くより楽に運ぶ効率を考えたら、そちらの方が断然いいと言うことでしょうね……」


 そしてまた2人は絶句。

 実際予想していた密猟者と本物の密猟者は、まるでスタイルが違った。

 私達が思っている以上に、奴らはプロフェッショナルだったのだ。


「で、どうします?」


 私の質問に2人は絶句から戻ってくる。


「き、きまってんだろ、殴ってでも蹴ってでも、あいつらを止めるんだよ!」

「でもここはいったん引くというのも私はありだと思いますが?」

「何言ってるんだよ!! お前あんな奴らほっといていいのか!?」

「それはよくはないですけれど、危ないじゃないですか、返り討ちに遭うかも知れませんし」

「だからってあんなのを見て放っておけって言うのかよ!!」

「まぁまぁ、エリーちゃんは何か考えでもあるの?」


 声を荒げるクレア。

 セルマはそれを制しつつ質問を振る。


「放っておけないなら、なおさらここは我慢して管理人さんやアデク教官に今見たことを報告するべきだと思うんです。

 もし今私達が彼らに返り討ちにされたら、管理人さんの監督不行きが悪化するだけでなく、だれも彼らの悪事を暴けずに被害は悪化し続けるんですから」

「それは……そうかも知れねぇけどよ……」


 やはりクレアは私の意見には納得しない。

 セルマも黙ってはいるが、私の意見に賛成したいというわけではなさそうだ。


 まぁそりゃそうだろう、私だって自分で納得していない。


 でも大人の男性5人を、うら若き乙女3人で捕まえることが難しいのも理解はしているはず、ようは頭では理解できても心でうけつけないとか、そういう問題か。

 う~ん、どうしたものかなぁ。


 そんな風にしばらく考えていたら、お腹も空いてきた。


「2人とも、このまま考えてもらちがあかないので、とりあえずお昼にしませんか?」

「はぁ?」

「ロッジに各自持ってきたお弁当もありますし、作戦でも考えながらみんなで食べましょうよ」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃ……」


 そう言いつつ、私達は朝が早く昼ご飯は食べてないので、2人もお腹は空いているはずだ。


「さっきのあの人たちの話しぶりからすると、2時間は大丈夫ですよ。

 それより密猟者との対面なら、それなりの準備を私達も整えないと」

「でも……」


 その後一悶着あったが、私がお弁当を取りにロッジに戻ると、2人も後ろから付いてきた。


「2人ともお腹空いたんですね」

「そういえば朝から何も食べてなかったの忘れてたわ」

「腹が減ってはなんとやらつーしな」


 作戦は、みんなで英気を養いながら、考えることにした。

 ロッジのデッキにランチョンマットを引き、3人で弁当を囲んで食事をする。


「あ、エリーちゃんのお弁当美味しそう」

「少し食べますか?」

「いいの? んー、これおいしい!」

「クレアもどうぞ」

「おぉ、確かに美味いな!」

「これ作るのに何かコツとかあるの?」

「え、そんなのないですよ」


 まぁ、強いて言うなら既製品だという真実を決して言わないことくらいか。

 沈黙は金とはよく言ったものである。


「まぁ、料理は美味しいけれど作り方なんて今はいいじゃねぇか。

 それよりなんかいい案とかねぇのか?」

「戦闘は避けたいわよね。話し合いで解決できないかしら……」

「無理ですね。捕まったらただでは済まない犯罪だって事は本人たちも分かってるはずですし、まず真正面からいけば命の保証はされませんよ」

「めんどくせぇなぁ」


 そして3人でまたうなる。

 こうしてる間にもまた精霊は犠牲になっているのかも知れない。

 その気持ちが私達をまた焦らせる。


「そういうクレアちゃんはなんかないの?」

「全員ぶっ飛ばすとか?」


 だからそれが難しそうだから作戦会議してるんじゃないか。

 この子本当にこの会議の意味を理解してるのだろうか?


「あっ、でもぶっ飛ばす、は無理かも知れないけれど捕まえることなら自分できる……かも?」

「と、いうと?」

「自分は罠師の資格も持ってるのよ、上手く相手をおびき出せれば上手くいくかも……?」


 おぉ、確かに罠を張って一網打尽なら私達でも何とかなるかも知れない。

 それが出来るなら流石は強化新入隊員と言ったところである。


「じゃあ、2手に分かれましょう。

 セルマは散った4人の捕縛を、クレアはそのサポートをよろしくお願いします」

「エリーちゃんはどうするの?」

「私はまず、きーさんに教官たちのところへ報告の手紙を届けてもらいにひとっ飛びしてもらいます。失敗したときの保険というか、情報だけは確実に届けることが出来ますから」


 私が作戦を話し始めると、2人は驚いた。

 え、なに、なぜこのタイミングで驚くの?


「こここ、この猫飛べたのか!?」

「知らなかった! びっくりしたわ!」

「えー、こんなに立派な羽が付いてるじゃないですか。たしかにいままで飛ぶ機会はなかったですけれど、普通にきーさんは飛べますよ?

 ていうか、逆に2人はこの羽を何だと思ったんですか?」

「「かざり」」


 かざりって、だとしたら生きにくすぎるだろ私の相棒は。

 邪魔なものをぶら下げて生きるなんて私はごめんだ。


「まぁ、正直きーさんが手紙を届けるまでには私も仕事を片付けたいとおもってます」

「仕事って、その間エリーちゃんはどうするの?」

「あぁ、私は────」


 そうだ、この作戦は私が重要な役割を担うことになる。

 この作戦のかなめともいえる役割、失敗するわけにはいかない。


「私は敵に逃げられないように、あのトラックを破壊します」

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