「お前さんたち、いい加減にしろ。今すぐ止めねぇと、今日中に全員、軍どころかこの街から叩き出してやる」
「あっ、失礼しました!」
セルマが急いで席に戻ったのを横目に、アデク教官はため息をつく。
「特にクレアだったか? 今の環境が気に入らなくても飲み込め。戦場で仲間に後ろから刺されたくなきゃな」
「ちっ……」
不機嫌ちゃんも、イヤイヤながらも席に着く。
そういうアデクさんも人付き合いが得意そうには見えないけれど────もしかして、実体験だろうか?
「よし、めんどくせぇが初日の授業早速始めるか、んー何から始めればいいんだ?」
「いや、私に聞かないでくださいよ」
というか決めてきてなかったのか、この人。
初日くらいはしっかりして欲しいものだ。
「んーと、じゃあ今日は、魔力の属性について適当に話すか」
そういうとアデク教官は慣れない手つきで教室の前のボードに図を書き始めた。
「人には魔力が宿っていて、それを使って魔法や魔術を使用してる、つーのは素人のお前さんたちでもなんとなく分かるか?」
「はい」
「その魔力の中でも分類があって、普段使われるような無属性魔法以外の魔法には魔力の『属性』が関係している。主に『火、水、木、雷、土、風』があるな」
アデク教官は、それぞれの属性をボードに記入してゆく。
「まぁ、『光、闇』ってのもあるが特殊事例だ。その二つ以外は多少ならほとんどの人間が使用することも可能だが、遺伝や体質なんかで、人それぞれに得意不得意な属性があるわけだ。
属性が関係したワザを使うときは、その得意な属性の魔法を使用するのが一般的になってくる」
めんどくせぇと言う割には、結構真面目に授業をしてくれている。
案外教官という立場が、この人は向いているのかも知れない。
「じゃあお前さん達、自分の得意属性を調べるのに、一番簡単な方法は何か答えられるか?」
「あ? めんどくせぇ聞き方すんなよ」
アデク教官は基礎的なことを説明し終えた後、授業の角度を少しだけ変えてきた。
クレアは話自体は熱心に聞いていたようだけれど、そう悪態を付くとつまらなそうに肘をついた。
「え、えーっと、吸収魔法とかでしょうか?」
「いや、セルマのは外れだ。いい線行ってるけど違う」
しかし、その答えが来るとは思わなかったのか、教官が少し意外そうな顔をする。
「そう思った理由は?」
「相手の魔力を吸収する技なんですけれど、その時相手の魔力が自分に流れ込むわけですから、相手の魔力の性質から得意属性を推測することが出来るんじゃないかなぁ、なんて……」
セルマはおずおずと自信がなさそうに答えた。
「ま、半分正解だな。確かにそれなら相手の得意属性を調べることは容易だが、一番簡単な方法じゃねぇ。もっと効率的なやり方がある」
「な、なるほど」
セルマは静かに席に着いた。
そして周りを見回したあと、アデク教官は私に答えをふる。
「エリー、答えろ」
「えー、私も自信は無いですけれど。例えば玩具の魔法花火とかですかね?」
「はぁ?」
私の答えにクレアが突っかかってきた。
そんないちいち睨まないでほしいの────
「いや、そう、合ってる。花火だ」
玩具の魔法花火は筒部分に触れることで、火の代わりに色々な光が発射される、子供が火を使わずに遊べるよう改良された花火だ。
「打ち上げる時、触れた人間の魔力を使って光を出す仕組みなんだけどな。
それが、本人の魔力の性質をそのまま反映するわけだ。
だから火が得意属性なら赤、同じく水なら青、雷が黄といった具合に花火の色でその人の得意属性を見分けられるって寸法だ」
その説明にいまいちピンときていない様子なのがクレアである。
「まぁ、端的に言えば玩具の花火が得意属性を調べるのに最適なアイテムってことだ」
「へぇ、なるほど?」
「それが分かったらお前達訓練場に出るぞ。
確か機材庫に花火があったから、とってくる。先に行っててくれ」
※ ※ ※ ※ ※
訓練場できーさんを撫でて待っていると、アデク教官が花火の入った袋を待ってきた。
「何やるんですか?」
「ここでお前達には今から自己紹介も兼ねた属性検査をやってもらう」
「属性検査……?」
袋を地面に降ろすと、教官は指示を出す。
「今から一人ずつ順番に自分の名前を言って、オレが持ってきた玩具の打ち上げ魔法花火に触ってもらう。
これで同じ隊のメンバーの名前と得意属性を知ることが出来るって訳だ」
「なんか楽しそうね!」
嬉しそうにはしゃぐセルマに、教官は袋から花火を一つ取り出して、彼女に投げて渡した。
「じゃあ、お前さんからやってみな」
「はーい!」
呼ばれたセルマは大きな深呼吸をして高らかに叫ぶ。
「自分の名前はセルマ・ライト、この街で育ちました!
軍に入って戸惑うことも多いけど精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」
セルマが花火を打ち上げる。すると、カラフルな色の光が空に舞った。
「緑と黄────少し緑が強めか。木と雷の属性の色だな、次はお前さん」
不機嫌ちゃんクレアは、やはり不機嫌そうに前に出て自己紹介を始める。
「アタシはクレア・パトリス。そのうちこの軍でも名前を残す存在になる。
だからあんたたちと慣れ合うつもりはない、以上」
「ちょっと!」
セルマを無視してクレアは花火を発射する。
「赤と黄色だから、火属性と雷属性。かなり攻撃に適した組み合わせだ。やっぱそういうのでるもんなのかな」
「ふんっ……」
そしてまたつまらなそうに戻ってゆく。
あんなに気を張っていて疲れないのだろうか。
「じゃあ最後はエリアル、やってみろ」
「はい、私はエリアル・テイラー。
この子は相棒精霊のきーさん、“キメラ・キャット”で色々な物に変身できます」
自己紹介だけして筒に触れた。
すると、筒からボンッと言う他の2人よりマヌケな音を立て、光が空に発射される。私の飛ばした花火は空をイメージさせるような色だった。
青、水色、白、そして────
「灰色に見えるわね…………?」
「んー、水属性風属性と。白はともかく、灰色? アデク教官これって……」
アデク教官はあごに手を当てつつ考え事を始めてしまった。
「あのぉ……」
「あー、いや。まぁ自己紹介で今日は終わりだ、あとは適当に訓練しとけ」
そういって教官は花火を回収するとさっさと戻っていってしまった。
もう一度よく見たいと思って空を見上げても、先ほどの不思議な光は残っていない。
私の花火に一体何が起きたんだろう────