リーエルさんと別れた私たちは、エクレア軍本部に向かうエレベーターに乗っていた。
自然の山を加工して作られたこのエクレア城は3層に別れている。
一番上の層は国王の住む王宮、一番下が主に民間に解放された図書館、そして真ん中の層が今私たちの目的地でもある軍の本部だ。
私は図書館の景色はわりと好きだけど、軍本部からの眺めはあまり好きではなかった。
高いところが怖いと言うわけではないが、いい思い出が少ないからか、どうにも落ち着かずにソワソワしてしまう。
特に普通のしたっぱでは普通近寄ることもないような、この最高司令官室の前では────
「あー、お腹イタいです。入りたくないです。帰りたいです……」
「オレも入りたくないが、行方不明者これだけ出てて調査隊も出発してるのに、肝心の張本人が報告をしなかったら流石に任務成功した後でも即クビになると思うぞ」
「────あー、そうですねぇ」
私は渋々最高司令官室の重い扉を叩く。
返事が帰ってくるのを待っておずおずと中へ入った。
「失礼します。バルザム隊f-3級、エリアル・テイラーです」
「バルザム隊関連で報告に来たか。入りなさい」
促されて重い扉を開けると、年老いて白い髭を蓄えた男性と、木のような材質で出来た大きな杖を持った初老の女性が部屋にいた。
この2人こそが軍のトップ、アンドル・ジョーンズ最高司令官とハーパー・モーガン最高司令官だ。
最高司令官は軍に所属する人間ならばそのほとんどが一度は憧れる存在。
ずっしりとした素材でできた黒の表面と金の縁のペンがその証だ。
そのペンをいじりながら、アンドル・ジョーンズ司令官は私に問いかける。
「ご苦労じゃったな、話は大体聞いておるが、もう一度報告しなさい」
「はい」
私は、エクレアを出てから帰ってくるまでの全てを話した。
帰りに話をまとめてきたので言葉に詰まることはなかったが、アンドル最高司令官もハーパー最高司令官も黙って私の話を聞いていたので、話し終わる頃にはとてもクタクタだった。
「なるほど。大体聞いていた通りじゃが、やはり引っ掛かる点が多い。また捜索隊に連絡を取らねば。ご苦労じゃった、下がりなさい」
「失礼しまし────」
「ちょっと待て!!」
私が説明している間、ずっと黙っていたアデクさんが、ついに爆発したように叫ぶ。
「待てよ! ずっとエリアルの後ろにいた、オレのことは無視か!? オレを幹部にしたくて連れ戻したんだろ! せっかく来てやったのになんで扱いがそう雑なんだよ!」
「ん? んー、お前さん誰じゃったかなぁ?」
そういってアンドル最高司令官はわざと怒らせるようにとぼけた顔をする。
この人は偉いが、アデクさんと同じく大概こどもっぽい。
「ふざけんな、ついにボケが回ったのかよ。テメェが任務でバルザム隊を派遣させたんだろ!!」
「はぁ、ワシそんなことしてませんけど? 貴様の顔なんてもう見たくもないんですけど。わざわざバカに付き合って、寿命すり減らす思いなどしとうないわ」
「じゃあもっとよく見ろよ!! オラァ、見ろってオラァ!!」
2人のくだらない喧嘩にハーパー最高司令官が割って入る。
「もう! 2人とも喧嘩しない! アデク君を再び迎え入れる案は私が出したんですよ。アンドルも納得してたじゃないですか!」
2人をなだめるハーパーさんも、うんざりとした様子だった。
最高司令官てこんな仕事までしなきゃならないんだろうか。
「ハーパーさんは黙っててくれ! オレはこのじじいとの決着はまだついてねぇんだ!」
「あー、そうそうワシ貴様に文句言おうと思ってたんじゃった。死んじまえ。よし、もう森へ帰っていいぞ
「んだとコラァ!! 喧嘩売るってんなら上等だ6年前の借り返してやる!」
アデクさんが実を乗り出した瞬間、2人の背後に素早くまわる影が見えた。
「いい加減にしなさいっ!!」
「ガフッ!」「グワッ!」
ハーパー最高司令官だ。彼女はそう叫ぶと、2人を一発ずつ杖で殴った。
お見事、ダブルノックアウト────
「ぐふぅ……」
【伝説の戦士】が、完全にのびてらぁ。
「エリーさん。悪いけどそこに倒れてるアデクを運んであげてくれないかしら」
「えぇ……」
何で私が、と言う言葉をすんでの所で飲み込む。
「ごめんね、あと彼に幹部申請は私がしとくって伝えておいてあげてほしいの」
「はい、分かりました、失礼します……」
「本当に、本当に、エリーさん。いつもごめんなさいね」
私はアデクさんを引きずって部屋から出た。
重い上にとてもめんどくさい。
なんで私って、こんな仕事までしなきゃならないんだろうか。