木々の間からこぼれる光が、キラキラと宝石のように光る。
いよいよ
前を歩くアデクさんの取り出したナイフが勢いよく枝を断ち、飛んできた切れ端が私の眼のそばを通過した。危なーい。
ちなみにきーさんは前を歩くアデクさんのリュックにつかまり、ブラブラと揺れている。
なにこの子、すごくかわいいな────
「もう一つ聞いてもいいか、なぜバルザム隊はオレを探しにこんなところまで来た?
この辺は危険地帯だし、実際こういう状況にもなってるわけだ。半端な理由ではわざわざこんなところまで来ないだろ」
「あー、それはー……」
これは自己紹介し忘れた私の名前と違い、今まで敢えてしゃべることが出来ないことだった。
隊の中ではしたっぱの私から、ベラベラしゃべってしまってもいいことなのだろうか、作戦に影響はなのだろうか。
そう考えると自分から中々動くことは出来ない。
「あー、そうか。お前さんの立場じゃ言い出しにくいよな」
「はい……」
一応機密事項だ、下っぱの私から勝手にしゃべるわけにはいかない。
「じゃあ、こういうのはどうだ? オレがその理由を予想してお前さんに言ってやる。
お前さんは自分から情報をしゃべった訳じゃないし、オレの意見を聞いて、予想が当たってるか言ってみろ」
「え、それも難しいですけれど……」
「まぁ、ゲームみたいなもんだよ。ちょっと考えをまとめさせてくれ」
そう言うとアデクさんは黙り込んでしまった。
そうだ、この隙にきーさんをもふもふして────
欲望に駆られた私は、なるべく気配を消して、リュックにぶら下がるきーさんに手を伸ばす。
「おいっ!」
『わっ! ビックリした!』
「何だって? 変な叫び声急にあげんじゃねぇよ」
「いえ、なんでも。ていうかアデクさんこそ今の、脅かすつもりだったでしょう……」
私が手を伸ばした目的に気付いたのか、アデクさんはぶら下がるきーさんを抱え直して私の腕に収めた。
思った通り、羽はふわふわ、毛はつやつや。
一体誰が手入れしてるのだろうと思わせるほど、きーさんの毛並みは整っていて、さわり心地は抜群だった。
「短剣持ってる人間に手を伸ばしたら危ないだろう」
「ごめんなさい、でもビックリしました」
「一度痛い目見ないと分かんないかと思って、な。危機感足んねぇんだ、お前さんは」
まぁ迷子の件もあるし、その通りか。私の悪戯で迷惑をかけてしまって申し訳ない。
「ていうかお前さん、気配の消し方はまぁまぁ様になってるらしいが、真後ろの人間の気配が突然消えたら、誰だって狙われているって思うだろ」
「あー、すみません。でも、ありがとうございます」
「まぁ、したっぱにしては、ってだけだが。中々いい線はしている。
案外暗殺者とか向いてるんじゃないの?」
「アハハ、ご冗談を。返り討ちにされてお終いですよ」
実際、気配を消すのは得意だけど、才能があるわけじゃないだろう。
そう見えるのは多分、私が死んだ魚の眼でボーッと口を開けてる事が多いので、そのギャップのせいだ。
「で、だよ、話は逸れたけども。お前さん達がここに来た目的なんだが」
「あ、そうでしたね。何度も言いますけれど、私からは何もお伝えできないですよ」
「いいよ、そういう約束だからな」
アデクさんは面倒くさそうな顔をしながらも、私の小さな表情の変化や行動を伺うように言う。
「分かったよ。お前さんたちバルザム隊は、オレをスカウトに来たんだろ」
「────続きを聞かせてください」
「どうせ軍の人材不足で立ち行かなくなって、5年も前に引退したオレをまた取り込もうって算段じゃないのか?」
「あぁ……」
そう、大当たりだ。もうそこまで言われてしまっては言い訳のしようがない。
「その表情はビンゴだな。もう全部話しちまえよ、この際仕方ないだろ」
「それもそう、ですか。そうですね」
私は観念して自分の知っている知識をアデクさんに話すことにした。
※ ※ ※ ※ ※
半年前、軍幹部の2人が謎の失踪をするという事件があった。
被害を受けたのは男性幹部1名、女性幹部1名。2人は未だ見つからず、捜索隊もついこの間に打ち切りとなった。
本来なら10人いなければならない幹部の枠が、現在2枠も空いたままの状態だ。
幹部が突然何者かに襲われると言う事件が2年前にも一度あった事も含めて、再発防止や警戒を強める意味でも、軍の
「というのが、アデクさんにお鉢が回った理由です……」
なるほどねぇ、とアデクさんが言う。
「十幹部が2人もねぇ。だから【伝説の戦士】とかいってもてはやされていたオレに、とっくの昔に引退したにもかかわらず白羽の矢が立ったって訳か」
もてはやされていた──と言うところに若干の皮肉めいたものを感じたが、アデクさんは大方の事情を察したらしい。
「はい、そうです。しかも今回、幹部の一人であるバルザム教官も行方不明となりました。
もし彼が帰ってこなければ、状況はさらに悪化してしまったと言えるでしょう」