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帰りたい(4回目)  そう言えば自己紹介忘れてました。


 着替えた服は、柔らかな香りがした。


「お待たせしました」

「ん、大丈夫だ。それより勢いで出る用意しちまったがよかったのか?

 なんならもう少しゆっくりしてからでも────」

「いえ、すぐに出発したいです」


 心配して気を使ってくれたアデクさんの心遣いには感謝したいが、まず何より自分がじっとしていられなかった。

 隊員たちに何かあったのなら、私一人がそこに駆けつけたところで手に余る。


 その状況をどうにか出来る可能性があるとすれば、私ではなく【伝説の戦士】であるアデクさんだ。

 そう考えると私の都合で、みんなの危険を長引かせたくはない。


「んーじゃ出るか。もしお前さんの隊の連中が後から来てもいいように、何か残していかねぇとな……」

「お願いします」


 家の扉に仲間が来たときのためにメモ書きを残し、私たちは木組みの家を後にした。


 ところでここに運ばれてきた時は気絶して知るよしもなかったが、どうやらこの辺りは森が切り開かれていて、人が生活できるスペースというものが存在しているようだった。



「歩きながらでいいからいくつか聞いてもいいか?」

「あ、はい。なんでしょう」

「とりあえず、そろそろお前さんの名前を聞かせてくれよ」


 あぁ、それは不覚だった。

 色々なことがありすぎて名乗ることをおこたってしまったのだ。


「申し遅れました。エクレア軍バルザム隊第38番小隊所属、f-3級エリアル・テイラーです」

「おぉ、懐かしいな。お前さんはバルザムの隊だったか」


 バルザム隊長を知っているのか。そういえばアデクさんの所属していた頃と、バルザム隊長の軍への所属時期は、長く重なる。

 バルザム隊長のことは知っているが、アデクさんはどのような軍人だったのだろう。


「隊長とは、仲はよろしかったんですか?」

「あぁ、まぁオレにしては珍しく、悪かねぇな────いやちょっと待ってお前さん、テイラーと名乗ったか??」


 私の名前に疑問符を付けながら、アデクさんが突然一人で考え込む。


「あの、どうかしましたか?」

「エリアル・テイラーか────ふぅん、お前さん偽名を使っているな?」

「えっ……」


 偽名──その言葉に私の心臓は鋼を打ったように鳴り出した。


「どうしてそう、思ったんですか……?」

「エリアル、聞いたことがある地名だ。確か南方の島の名前だったか?

 暖かな場所で栄えてはいるが、この国からは距離があって中々足を運ぶ者は少ない、絶海の孤島────」


 そうだ、確かにそこにはエリアル・・・・が存在する。

 アデクさんの言うその島の情報も、間違っていないものだ。


「それだけのことで……?」

「まぁ、それだけなら偶然かも知れんが、『テイラー』。その名前は確かエリアルの────」


 そこまで言われれば間違いない、この人は知っている・・・・・

 これ以上は言う必要はない、嘘はつけないだろう。


「分かりました、分かりましたよ。すみません偽名です、全て正直に話します……」

「そうか、お前さんの本名は何だ?」

「■■■■■■です……」


 自分自身でも、随分と名乗るのが久方ぶりの言葉が、唇を滑り落ちる。


「■■■■■■■か、随分呼びにくい名前だな。どこの言葉だ?

 西の少数民族や、コーストレジスタンスの言葉には似てないな。まさかノースコルの────」

「えぇっと……」


 私はつい戸惑ってしまう。正直、私の本当の名を口にする機会は少ない上に、こう質問攻めにされることなど初めてだ。

 本当のことを言っても信じてもらえる自信はないが、かといって嘘をついてもアデクさんには多分バレる、意味がない。


「えっと、この名前は────」



 話さねばなるまい、この7年を、私に何があったのかを。



   ※   ※   ※   ※   ※



「まぁ、そう言うことですが、結局エリアル・テイラーという名前は、私にとって必要な物だったんです。

 名前の由来は、概ねアデクさんのおっしゃったとおりですね。嘘をついてごめんなさい」


 私が話し終わると、アデクさんは小さく「そうか」と頷いただけだった。

 私より前を歩く彼の顔は私には見えないが、私の話を真面目に聞いてくれたことだけはよく分かった。


「そうか、悪かったな。軍でも本名以外での登録は認められているし、人には色々あるからな、そこは責めるつもりねぇよ。

 ただ、お前さんが信用できなくなったから、ちょっとかまかけてみたんだよ」


 今は信じていただけたのか、全てを本当だとは思わなかったのかはさておき、どうやら納得はしてもらえたらしい。


「どうして聞こうと思ったんですか?」

「お前さんがオレを騙して暗殺、なんてこともあり得るだろ。殺されやしねぇがな。

 初めに助けといて何だが、いきなり偽名を使って信用しろってのも無理な話だと思わないか?」

「それは……」


 全くその通りだ。名乗ったのが本当の名前でないことが初見で看破されてしまったのなら、なおさら。

 私は彼にとって、怪しさの塊だったんだろう。


「あの、でも信じていただけんですね。我ながら荒唐無稽な話だと思うんですが……」

「まぁ、嘘をつくにしたって突拍子もなさ過ぎるからな。

 何はともあれ、色々聞きすぎたよ。お前さんも苦労してんだな」


 「突拍子もなさ過ぎるから」か────



 木々の間からこぼれる光が、キラキラと宝石のように光る。

 いよいよ舗装ほそうされた道はなくなり、私たちは草を掻き分けながら森を散策し始めた。

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