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27話 プレゼント


「お兄さん、お兄さん、ちょっと、ちょっと」

「ん、なんですか?」


 俺は年下の女の子だろうと丁寧語だ。

 もう顔も覚えてしまった相手だけど、機織り機関連の子なので、ちょっと他人行儀かもしれない。


「あのですね、いいニュースですよ。たぶん。聞いてください」

「ああ、いいよ」

「なんでしょうか?」


 俺もアカリも頭に疑問符を浮かべて、彼女の話を聞いた。


「あのですね、機織り機が見つかったんです」

「見つかったって盗まれてた?」

「はい、いいえ、あの、盗まれたものと同じかは分からないんですけど、広場の有志の人が事情も知らない人で、それで機織り機を使ってたんです」

「それで?」

「たぶん同型なので、同じだと思うんですけど、その人はどうやら他の人の転売品を買ってきたみたいで、同一品かは結局分からないんですよ」

「ああ、間に2人くらい挟まるともう追跡とか難しいよね」

「そうなんです。そうなんですよ、でですね。機織り機の利用者一同、声かけまして、買い取りさせてもらったんです」

「え、買ってきちゃったの?」

「はい。それでステファンさんへ、謝罪も含めて、みんなでプレゼントです」

「ああ、はい」


 正直、戻ってくるとは思わなかった。

 しかも有志がお金出し合って買い戻してくれるとか、涙なしには語れそうにない。

 こういうゲームでは他人は他人で責任とか取ってくれるなんて、誰も思っていないものだ。

 それを、親切がすぎるぐらいだ。どんだけ俺たち思われてるんだろうな。

 ちょっと重いけど、その分うれしい。


「じゃあ、結局犯人は分からないと」

「はい、その人は誰から買ったか覚えていないそうです」

「そうですよね。俺も誰から買ったか覚えていないですし」


 携帯炉を交換した人の名前はもう思い出せない。

 情強の人とかコミュ強い人なら、覚えているかもだけど、俺は覚えてない。

 世の中なんて、そんなものだけど、それでも地球は回っている。


 会話しているうちに、機織り組が集まってきて、みんなで授与式みたいのを祝ってくれる、そして警備について謝罪もしてくれるらしい。

 なんだか悪い気しかしない。


「いやあ、俺なんかのために、本当にすみません」

「俺なんかって、そんなことないですよ。ステファンさんのおかげで多くのプレイヤーが機織り機を独占ではなく、みんなで使えていたんですから、そんなゲーム滅多にないですよ」

「ああ……」


「では、ごほん。ステファン・マッサンさん。機織り機をプレゼントというか、買い戻してきました。お受け取りください」


 パチパチパチパチ。

 女の子が司会者っぽくいうと、周りから拍手がいっぱい、思ったよりかなりいっぱい、湧いてくる。

 遠くの人は何だ何だと、見てきていた。

 うう。穴があったら入りたい。

 しかし、せっかく祝ってくれてるので、ありがたく頂戴する。


「ありがとうございます」



 バシバシ男連中に背中を叩かれて、気合いを入れてくれる。

 ははは。こんなに俺が相手にされたことないから、縮こまってしまうよ。


「それでは、糸溜まってますよね?」

「ええ、まあ」


「みなさん『あの』クローラーシルクの布ができるところを見ましょう」


 えええ、と思ったけど、まあ確かにそうだ。

 機織り機が壊れていないか確認しないとな。

 俺はおもむろにアイテムボックスからクローラーシルクを取り出して、機織り機にセットしていく。

 手順はもう覚えていた。もちろんアカリも手伝ってくれた。

 その間、周りの人たちはそっと見守ってくれている。中には編み物や縫い物をしながらの人もいるけれど。

 糸を張り終わる。


 ぎったん、ばっこん。


「「「おおお」」」


 機織り機を動かすと、歓声が上がる。

 そして1本、また1本と糸が織れていき、布になった。

 布はピカピカの光沢がありきれいな白で、とても高価そうだ。


「「「おおおおおお」」」


 こうしてシルク地は完成し、再び歓声が上がった。これで今日のお役目は終わりだろう。

 ぱらぱら人がまばらになり、いつの間にか減っていった。


 そして、あみだくじを全力でしている人たちがいる。

 なんだあれ。

 まあ、次に借りるための順番決めをしているらしい。なるほどな。


 俺のものといいつつ、半分はみんなのだよな。知ってた。

 今度から家の中で籠って使っていいんだろうか。


「あ、そうそうステファンさん、これ使うといいですよ、あげます」

「なんですそれ」

「名札」

「名札??」

「そう名札です。アイテムに使うと所有権を表示だけロックできるんですよ」

「表示だけですか?」

「そう表示だけです。でも簡易鑑定すれば、見ればわかりますから、転売とかできないです」

「なるほど、確かに便利ですね」

「でしょう。昼間はみんなで見張っていますし、夜間とかログアウト中は引き取りに来てください」

「それなら、いいかな」

「ではそれで」


 俺は所有権がある状態で、名札アイテムを使う。

 そうすると、名札が消えて、ホログラムで確認すると確かに所有者「ステファン・マッサン」と表示されていた。

 なるほど便利なものがある。

 このゲームには他にも生産者が自分で作成者名表示のオン、オフをできるらしい。

 でも機織り機は自分で作ったわけではないからそっちは無理なわけだ。

 なるほど、よくできている。

 盗難防止措置も今回はとったし、これでいいことにしよう。


 無職は臨機応変、即応態勢、ちょっと違うか、まあいいや。


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