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26話 薬師してみるテスト


 ということで心機一転、次に何してみるか。

 薬師、合成、錬金術とかそれっぽい方面をやってみようと思う。


「で薬師、というかポーション作成とかやってみたいです」

「いいですよお兄ちゃん」


「何が必要なんだ?」

「さあ、私もまだ調べてないよ」

「そうか」

「うん。その辺の薬作ってる人に聞いてみれば?」

「ちょっと人に聞くのは苦手で」

「もうしょうがないなぁ。私が話しかけるからついてきてね」

「うん」


 こうして噴水広場でポーション作成をしている人を捕まえて話をすることになった。

 犠牲者の人は、20歳くらいの好青年みたいな感じの人だった。


「えっとね、錬金釜とかあるといいみたいなんだけど、高いから普通の湯沸かし用の調理器具でもいいらしいよ」

「なるほど」


 料理用のコンロなら持っているからそれでいいらしい。

 メイドのアカリが手にメモ帳と鉛筆をもってうんうん頷いている。


「で、水は噴水ので十分品質をクリアしてる。それからクス草は知ってるよね」

「はい」

「そのクス草をお湯で煮だせばいいんだ」

「思ったよりは簡単ですね」

「でも、その量とか調整とかちょっと難しくて、あんまり濃いと苦くなっちゃうし、薄いと葉っぱっぽいだけで回復力が減って評価がDとかになっちゃうんだ」

「なるほど、そうですよね」

「そそ、その調整はみんなあんまり公開してなくて、それぞれ秘伝のレシピみたいな感じかな、共有している人はいるみたいだけど」

「そうなんですね」

「そそ、でもアカリちゃん可愛いから教えちゃう。猫耳いいよね猫耳」


 そういうとちょっとデレっとする好青年。なんかイメージ変わっちゃったけど、まあ猫耳みたらしょうがないよな。俺でも最初デレっとしたもの。


 ということで露店で瓶を買い、クス草と噴水の水を使ってお湯を沸かして煮る。

 ふむ。お茶と一緒じゃんな。

 クス草茶ということだけども、この草はあんまり美味しいとは言えないちょっと草っぱぽさがあるので、単体でお茶にするにはいまいちだった。

 そのいまいちな薬草を低価格ポーションでお金を節約する人たちは買っているらしい。


 飲みやすさでいえばアマアマ草を加えると、加糖のストレートティーみたいな感じになるので、ちょっといい。ただ草が増える分値段もちょっと上がる。


 俺にはアカリがヒーラーでついていてくれるので、あんまり要らないとはいえ、アカリがやられたり忙しいときには、必要になってくるんだと思う。

 ポーションがぶ飲み、もしくはぶっかけ瀕死ゲーではないんだけど、この先はわからない。


 アカリと2人で協力してポーションを作成した。


 そういえばアカリはゲーム中は俺につきっきりだけど、ログアウトして普段は俺が話しかけないと、用がないときは暇なので、それなりに自由時間がある。

 夜寝ている間も、アカリはフリーだ。AIも寝るには寝るらしいので、たぶん寝てるんだと思う。

 AIにも専用のVR空間があって、そこが彼女のプライベート空間、そしてネット経由で、AIたちだけの交流場所があるんだとか。


 AIの加速世界の教育機関もVR世界上に存在している。

 だから体がなくても、料理とか味とか匂いとかそういうものもちゃんと知っているということらしい。

 なかなかにメルヘンというかファンタジーっぽいというかだな。

 メイド学園とか、なんかそれっぽいゲームみたいだよな。

 いかんいかん。


 ただポーションを作ってみたものの、簡単にできるということは、売り買いする人も多いということだ。

 そしてポーション作成大好き人間とかもなかにはいるので、露店では余り気味だった。

 だから売り物になるかというと、まったく売れないわけではないむしろ需要そのものはあるけど、ライバル店も多いという感じだった。

 作ったポーションは自分用にしよう。


 もちろん、何か特殊なポーションとかを開発できるなら、それはそれで売れる可能性があるけど、無理っぽい気がする。

 大量に種類のある雑草類を根気よく調べれば何か成果があるとは思うんだけど、面倒くさい。

 そう、俺にはハードルが高い。面倒くさい。


 やはり薬師の才能みたいなものは、ないようだ。なむさん。



 そうこうして作業している間にも、機織り機関連とかでお世話になった人などが、たまに声をかけてくれる。


「まあなんだ、元気出せよ」

「ああ、はい。ありがとうございます」


「お兄さん、機織り機残念でしたね。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございました」


 とまあ、なんだかちょっとだけ有名になった気分だ。悲しいがな、詐欺された被害者として有名かもしれない。

 俺は普通の人の仮面をして二言、三言、話をしたりする。

 こういうのこなしていくと、なんとなく会話のプロになった気分になってくるな。

 そう、自分はもう悲しくもなく、吹っ切ったのに、周りが悲しそうにちやほやしてくれて、なんだか居たたまれない。


 でもこういうときこそポジティブシンキングだ。

 俺って思ったよりも神経が太いんだなと、この事件で考えさせられた。


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