「いやっほい。テイムしたっぽいですよ」
「やったですね、お兄ちゃん。テイムモンスターってそんなにいないですよね」
「ああ、テイムは1人1匹までだって言ってたもんな」
「そういえば、露店で聞きましたね」
そうだ。テイムは1人につき、1匹までが基本原則だ。
特殊なスキルなどがないと複数飼いはできないらしい。
もっともそのスキルはまだ噂だけで見つかっていない。
そして初心者ゾーンでテイムできるのは弱いモンスターしかいない。
だからかわいいウサギやある意味かわいい微レアのスライムなんかをテイムしているひとは数人見ていた。
クローラーなんて弱いモンスターの典型なので、まだ他にテイムしている人を見たことがない。
でもこの子は色違いの特殊モンスターだ。
えっと変異種というのだろう。何が違うからはよく知らない。
そもそもライトグリーンクローラーという種類について聞いたことがない。
適当に倒していたら、ちょっとテクスチャが違うだけかなっていう個体差ぐらいに見えるといえば見える。
普通より少し明るい色をしているだけともいえる。
こういうのはウサギの中にも茶色の濃いの薄いのがいたので、別に不思議でもなかった。
でも確かに、マーカー名称が違うので、こいつは別の種類ということになる。
違いは追々検証しよう。
それより、体を左右に揺らしたり、首を振ったり、なにかアッピルしている。
「どうした、もっと葉っぱほしい?」
「ピギャ、キュピー」
葉っぱを出しても食べようとはしない。
そしてまた首を振ったりする。
「テイムしたんですよね、お兄ちゃん」
「まあ一応」
「それ、あれですよ、名前つけてほしいんですよ」
「ああそうか。じゃあイモムーな」
「そんな安易な」
「な、イモムー」
「キュピピ」
「ほら、よろこんでる」
「受け入れてるなら、まあ、いいでしょう」
「いいじゃん、な、イモムー」
「キュピ、キュピ」
「おお、イモムーはかわいいな」
「キュピピ」
「テイムしたけど、どうします?」
「え、木こりしにいくけど」
「あれ行くんですか。町に戻ったりは」
「別にイモムーがいても問題ないよね」
「まあ、そういわれればそうですけど、なんかこう仕切り直しみたいな雰囲気しませんか」
「大丈夫、れっつ木こり」
「はい、では行きましょう。あ、イモムーは敵が出てきても大丈夫なんですかね」
「そっか、それは考えてなかった。まあ前に出ないように気を付けさせるよ」
「そうしましょう。私も気を付けますね」
「よろしく」
こうして前進あるのみ、前へ進む。
向かうは、木が生えているエリアへ。
他のイモムシと戦闘しつつ、草原を横断する。
そうはいっても、思ったよりは広くない。
無事に木の生えているキワまでこれた。
「んじゃ、とりあえずこの木いってみるか」
「はい。いきなりなんですね」
「まあ、どれもこの辺は杉の木みたいだしね」
この辺一帯は、森ではなく林という感じで、それも杉林になっていた。
コーン、コーン、コーン。
俺が斧を入れると、いい音がする。
これだよこれ、これぞ木こりの音。そこはかとないスローライフ感。
「ああ、感動だ。木を切る気持ちが味わえるとは」
「なんですかそれ」
「ほら、テレビとかでもたまに見るじゃん。木を切るいい音」
「わからないでもないです」
そしてついに、そのときがきた。
「倒れるぞー」
一応、人はいないけど、決まりなので。たぶん。
バリバリと音がして木がゆっくり倒れていき、ドスンと横になった。
「ふう、このまま収納できるのかな、あ、できた」
丸太をそのまま収納した。持ち上がらないでかいのがアイテムボックスに入るのは不思議な感じがする。
周辺はアカリとイモムーが監視してくれている。
イモムーは思ったよりも頭がよさそうだ。よかったと思うべきなのだろうか。
「じゃあもう1本いきますか」
「はい、じゃあ見てますね」
そして俺は2本目に取り掛かった。
しばらくして倒れる2本目。
「ふう終わりっと。まあこれでいいか」
「もっと取っていかないんですか」
「どうしようか」
「森というか林を丸裸にしたら怒られちゃうんですかね」
「さあ、その辺のことは聞いてこなかったね。今日はこれでいいにしよう」
「はい」
「ところで、それなに」
「これですか、えへへ、はいお兄ちゃんにあげます」
それは白い糸の輪っか、ミサンガだった。
ただ色がついていない。
「これは?」
「イモムーが糸をはいてくれて、それで作りました」
「なるほど、これは面白い」
「そうですね。被服系のプレイヤーとかよろこびそうですよね」
「うん」
「ついでに、ガラス玉のネックレスの糸もイモムー製に変えてみました。あはは」
「あははじゃないよ、ちょっと見せて」
「はい」
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▽ガラス玉のネックレス
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防御力 +1
魔防力 +3
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「ほら見てみ、変な補正とか付いてる」
「本当ですね。でも元から付いてたんでは」
「確認してなかった。迂闊だった」
「そうですね、まあいいじゃないですか、いいものできて」
「うん。そ、そうだね」
「なんで震え声なんですか」
「いや、実はヤバイものかもしれないと思って」
「そうなんですか」
「杞憂だったらいいな。アクセの補正とか話題で聞いたことがない」
「そういえばそうですね。よかったですね」
「いや、よかったけど、全然よくない、かも?」
「どっちなんですか」
うれしいけど、注目されるのは、できれば避けたい。
でもまあ、自分たち固有というわけではなく、ユーザーが作れば補正がだいたいつくんだろうと予想できるので、大丈夫だろう。