お金を入れて、気分がよくなったみたいなアカリを連れて移動中だ。
あれからまた手をつないで歩いている。
「アカリ、今はご機嫌だね」
「はいっ、わたしはお願いする前に、うれしいことがあったので、感謝だけしてきましたから」
「そりゃよかった」
「はいです」
人工知能も悩んだりするのかはちょっと謎だ。
精神的な病気になるという可能性はあるんだろうな、とは思う。
今のところ、アカリは健康そのものだけど、あまり無理はさせないようにしよう。
過保護なぐらいでちょうどいい。
やっぱり妹みたいに、アカリにはまだまだ経験は足りないような気がする。
俺も人のことは言えないといえばそうなので、黙っている。
「まだ時間あるけど、どうしようか」
「そうですね。武器屋で剣とか買ってきますか? ずっと50イジェルのこん棒愛用します?」
「愛用はしない」
「こん棒使いのえっと名前なんでしたっけ」
「ステファン・マッサン」
「そうそう、こん棒使いのマッサンとか呼ばれたくないでしょう?」
「まあそうだね。でも、まだ開始2日目だし、何があるかわからないからまだ節約して様子を見ようと思って」
「なるほど~。さすがご主人様、思慮深い」
「からかってるだろ。ご主人様とか言って、そういえばさっきも言ってたっけ」
「はい。お兄ちゃんなのはわかってるけど、本質的にはご主人様でもあるんですよ?」
「まあ、知ってた」
「ですよね。たまにはいいじゃないですかね」
「そうだね。たまにだけだよ」
「はいっ」
うれしそうに手をつないだまま、体をこすりつけてくる。
なんだか猫みたいだ。
匂いが移るのだろうか。アカリのいい匂いが移るならいいけど、俺の臭いのがアカリに移るんなら遠慮したい感じがする。
まあ、うれしそうだから、何も言えない。
貧民街の向こう側は、また町になっていてぐるっと回って帰ることになった。
雑草も生えているので、一生懸命抜いて歩く。
腕章もあるけど、この腕章って必要なのだろうか。子供たちは勝手に取ってるということは、勝手に取ってもいいはずだ。
まあ腕章みたいのをしてれば、大人だと不審者と間違われないという、超重要な意味があるから、いいか。
それからリアル時間で3日間、毎日同じように露店を出して、売って、パンを買って、畑で雑草と薬草を収穫してという作業をした。
イチゴも実がなるようになったので、収穫している。
「やっとイチゴが生るようになったけど、すごいね」
「うん」
アカリが驚くのもそうだろう。ランナーという茎が伸びていって隣に、また隣にという風に株が増えていき、そのイチゴたちが一斉に実のったので、大量のイチゴが生っていたのだ。
周辺にはイチゴのいい匂いも漂っている。
「なんか、いちご狩りとかするだけで儲かりそう。でしょ、お兄ちゃん」
「そうだね。でも人の相手をするの大変だし、この辺は人通りも少ないから」
「そうね。ここは3本ぐらい裏通りで、周りもまだ空き地が多いもんね、人なんてあんまり来ないわね」
「うん」
人が来ないので、集中して作業ができる。
これで人通りが多くて、じろじろ作業を見られてたら、とてもじゃないけど、逃げ出したくなる。
とにかく、薬草と雑草各種そしてイチゴを収穫した。
株はそのままにしておくと、また実や葉っぱが生えてくるので、そのままにしてある。
いわゆる多年草というのだろうか。
俺たちは、お昼の露店を開きにまた広場に向かう。
そして今日の新作、あらかじめ考えてあったものをメニュー表の木の板に書く。
この木の板はメニュースタンドとでもいうもので、露店で売っていたのを買ってきたものだ。
今までのごはんメニューに加え、ちょっと違うものが2つ増えている。
1つは「イチゴサンド」。イチゴとアマアマ草を挟んだデザートサンドだ。
そして2つ目は「雑草お焼き」。信州名物野沢菜お焼きをヒントに、雑草の中から火を通してもおいしいものを塩漬けにしたものを使っている。
お焼きの周りは卵とか不要で、小麦粉と水がメインでできているし、蒸すのであれば難しいけど、焼くなら比較的簡単だ。
ということで雑草お焼きがデザートとご飯の間くらいの地位で、新登場。
「お、お焼きね。俺は食べたことないけど、1つちょうだい」
「じゃあ私はイチゴサンド。やっぱ女子にはイチゴみたいな甘いスイーツがいいよね」
という感じで、それなりに売れている。
その代わり、最初珍しかった、雑草サラダとかの売れ行きは若干だけど落ち始めていた。
これには、他の露店が増えて、選択肢も増えてきたこともある。
雑草サラダそのものを真似する人はいないみたいだけど、採算ぎりぎりで、レタスとかの買ってきた野菜のサラダとかの真似露店は増えだしていた。
俺は味比べはしていないので、どちらがおいしいとかはいえないけど、お客さんを少し取られていることは事実だった。
専売特許みたいな話はないので、どうしても、見た目から真似をして商売をしようというプレイヤーとかもいる。
もちろん俺たちだって、ずっとゲームにいるわけではないから、独占したいとは思わない。そうやって同業者ができるのは、規制しようとも思わないし、仲良くやっていければいいな、とは思っている。