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13話 野草の天ぷら


 お昼前、ウサギ狩りを終えて、いつもの噴水広場に戻ってきた。


 また露店を開く。


 今回のメニューは、サラダ、サラダサンド、お茶、そして新しく薬草雑草の「野草の天ぷら」だ。


「いらっしゃいませ」


 天ぷらはお皿と、持ち帰り用の経木舟皿があるので、どちらの注文か聞いて渡す。

 両方のタイプとも先に天ぷらを揚げておいて、アイテムボックスにしまってある。


「天ぷらいいね、やっぱり日本は天ぷらだわ」

「ですよね、ありがとうございます」


 アカリが接客をしてくれている。

 俺は後ろで新しい天ぷらを揚げたり、サラダとサンドを用意したりしていた。


「ファンタジー世界でも天ぷらは食べれるのか」

「もとはヨーロッパのフリッターですから、小麦粉と水と油それに材料さえあればできますしね」

「ああ、そっか、難しそうに見えて簡単なんだ」

「はいっ」


 そう、俺は料理経験はほとんどないけど、天ぷらは揚げられた。

 最初はアカリに見てもらっていたが、今は俺が後ろで1人で作っている。


 料理レベルもいつの間にかLv2になっていた。


 天ぷらには塩をかけている。

 天つゆがないのが残念ではあるけど、醤油も鰹節もないんだから、塩が妥当だろう。


 しかし肉串屋さんの旨辛タレは醤油っぽい感じもするので、たぶん町のどこかのお店で醤油や味噌、鰹節とかも売っているんだと思う。


 もしかしたら裏通りの隠し食材屋さんみたいのかもしれないし、まあゲームなのでそれっぽくなっているはずだ。たぶん。


 ユーザー層からして一人暮らしの人が多いこのゲームでは、コンビニ弁当とかを食べる人が多いみたいだ。

 それで、俺も宅配の冷凍食品なんだけど、そういう人はサラダや野草の天ぷらとか、食べる機会がそもそもないんだよね。

 ということで現実ではあまり食べないことが多いものを食べるというのは、やはり人気になりやすいということだろう。

 もちろん現実で食べて好きだから、食べるという人もいるみたい。


 とにかく、天ぷらは結構流行って、お客さんもたくさん来てくれた。


 メインの肉串を挟んだサンド、サラダ、お茶、そしておかずの天ぷらと、バランスもいい。

 全種類注文する人も、少なからずいた。


 割りばしという名前だけど、洗って使えばまだ使える。

 いやゲームなので、最悪、洗わなくても再利用ができるらしい。

 そのへんは完全に気分の問題だろう。


 お客さんの会話を横で聞いてみる。


「いやあ、最近、こういう天ぷらなんて食べてないわ」

「こっちなんて葉っぱの天ぷらなんて生まれてから食べたことないですよ」

「そうなのか?」

「都会暮らしで、小さいころからコンビニ弁当とかだと、天丼みたいのはありますけど、これとは別物みたいなもので」

「ああ、そうだよな」


 コンビニ弁当で作ってから時間がたってるから、サクッっとしてるものではない。

 ソバ屋とか行っても、野菜やエビの天ぷらはあるだろうけど、こういう葉っぱの天ぷらなんてほとんどお目にかかれないだろう。

 俺だって思いついたのは、ネットでいろいろ見て回って思いついたに過ぎない。

 フキノトウの天ぷら、とか書いてあったし、リンクには野草の天ぷらってあったから、これだって思ったわけだ。


 自然が身近ではないといっても、やはり限度はある。

 アフリカ諸国や発展途上国の発展などにより、食べ物がそっちに回るにようになって、国産の野菜などは見直されてきている。

 担い手が全然いなかったので、一時衰退して、危機だったこともあったとかなんとか。


 多品種の販売は、ちょっと忙しいけど、一種類を頑張って売るよりは、立ち止まってくれるお客さんが多い。


 天ぷらを揚げてアイテムボックスにしまい、足りなくなったサンドを補充してまたアイテムボックスにしまう。

 そしてお客さんの注文をアカリが受けて俺が必要数をアイテムボックスから出すという流れで、落ち着いている。


 アカリとお客さんの会話を見る分には、別に問題は何もなかった。

 なんか自分は会話していないけど、だんだん人がいるのも慣れつつある。


 まだ、率先して会話する気にはならないけど、お客さんの笑顔を見るのは、それなりにうれしいものだった。

 それが若い女の子だと、特に。


 げへへ。アカリがいるけど妹だし、ゲームで彼女を作ってもいいんだよね。

 社会勉強ってことはそういうことだよね。


 このゲームは18歳推奨ゲームで、17歳以下は親の同意、ちゃんとした電子印のあるしっかりした同意が必要なんだそうで、俺たちは18歳なので、自分の意志だけでゲームを堂々とできる。

 特に小さい子は、加速時間による精神年齢の問題があるので、十分な注意が必要なのだそうだ。

 まあ小さいころからVRゲームをやりたいなんて言い出す子は、普通にもとからマセてると思うので、今更ではないかとも思う。


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