目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
25話 借りパク事件


 朝、ログインしてみると、さっそくおじさんに声をかけられた。


「アカリさん、マッサンさん、おはようございます。大変です」

「なにどうしたの?」

「実は、本当に申し訳ない。我々がしっかり見ていなかったから」

「なにさ」

「機織り機が借りパクされてしまって」

「あー」


 俺から変な声が出たけど、まあそういうこともあるよな。

 アイテムは譲渡はできるが、貸し借りするためのインターフェイスは存在していなくて、それはプレイヤー同士の紳士協定の元、実行される。

 俺はあんまりこういうゲームを実際にしたことがなかったので、失念していた。


 そう、普通に借りパクするということが、こういうゲームで頻発していることを知らなかったのだ。

 他のゲームでは知人ではないのに知人のサブだとだまして借りてパクる場合もあるのだとか。

 このゲームの場合はサブアカウントが解禁されていないので、サブ垢詐欺はできないらしいけど。


「まあしょうがないんじゃないかな、俺がログアウト中とかちゃんとしまっていれば問題なかったんだ」

「お兄ちゃん……」


 アカリは沈痛な表情をして、眉毛をゆがめていた。

 まあ、しょうがないよ。


 こうして俺たちの機織りフィーバーは終了した。


 ちなみに誰が盗んでいったかははっきりしていないそうだ。

 ゲーム内時間で夜の間はプレイヤー数が減っていて、それでたまたま1人になったタイミングで盗まれたようだ。それで名前も顔も知っている人は現時点で表れていない。


 基本的に、こういうゲームではアイテムの貸し借りによる損失は、ユーザー同士が解決するもので、運営がBANしたりという強権を発動することはないんだそうだ。


「盗まれ損だな、アカリ」

「そうですね」

「まあ、またログインボーナスでいつか当てるか、普通に買おう」

「はい」

「みんなでお金出しあって使うという手もあるけど、やっぱり、借りパクは怖いしな」

「そうですね」


 ゲーム人口が増えれば、ログインボーナスで当てる人も増えるから、機織り機も増えるだろう。たぶん。そうしたら入手もしやすくなるってもんだ。

 それか、ちゃんとしたギルドのようなものを立ち上げて、その中で共有するとか。


 今回は、その辺の人たちみんなに、機織り機をほぼ無条件で貸していた。

 もともと、他の人たちとは知り合いではなかったので、プレイヤーのスクリーニングとかもできなかったし、夜間の人が減るのを考えてなかった。

 昼間なら誰かしら周りで順番待ちの裁縫系プレイヤーがいるから監視になっていたんだけどね。


 悲しいけど、気持ちを切り替える。


「まあ、なくなっちゃったら、しょうがないよな」

「はい。でも」

「まあ、また買おう」

「そうですね」


 盗んだプレイヤーはどうするつもりか。

 他の人がいない路地裏とか個室とかで、せっせと緑色のグリーンクローラーシルクを織るつもりなんだろうか。


 裁縫系プレイヤーの周りは、自家製の緑色のエルフみたいな服を着ているプレイヤーが増えていた。

 一種の彼らのステータスみたいになっていたのだ。


 1人で独占して量産しても、市場に流通させると少し目立ちそうだ。

 まあ、機織り機は他にも目立たないけどガチャで当てて、使っている人はいそうだけど。


 悔しくないかといわれたら、そりゃ悔しいけど。

 他人に悪意を向けられるのも、それがカジュアルに実行されるのも。

 そのうち気が変わって返してくれたらいいなぐらいに思っておく。


 俺は無職で生産職というわけではないので、まあその趣味の1つがちょっとだめになったぐらいの被害意識で済んだわけだ。

 無職最強伝説だった。精神的に。


 なんにでもなれるのは強い。

 すぐに向きを変えられる。


VRMMOの中でも妹メイドAIと一緒2


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?