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23話 シルク生地


 ということでガチャで機織り機を手に入れた俺たちは暗くなったので日を改めて翌日。

 アカリにお願いしてイモムーの糸を布にすることにした。

 もちろん場所がないので、噴水広場の隅のほうでやってるんだけど、すごい目立つ。


 多くの被服系の人は、綿の布地を買ってきて、裁断とかから服を作ることはしているけど、布を織っている人なんていなかった。

 俺たちが初だ。

 そしてこの世界ではシルクは出回っていない。


 ぎったん、ばっこん、と機織りを見守る。

 シャトルを左右に飛ばしながら、だんだん織れていく真っ白な光沢のある生地。

 現代でも化学繊維だと静電気や触り心地とかいまいちでシルクは高い。


 異世界ファンタジーでもそれは同じだ。


 機織り機を見つけた被服系プレイヤーがよだれをこぼしそうな感じで、うらやましそうに見てくる。

 それも何人もいる。女の子だけかと思いきや、男性もそれなりにいる。


 憧れの素材、それがシルク生地だった。

 綿の布装備でもそれなりのものはできるけど、補正的なものも、おそらくシルクのほうが上なんだろう。


 わからないけど、なんとか1枚目が出来上がった。


 ────────

 ▽クローラーシルク生地

 ────────


 このマーカーは鑑定ではないので、詳細とか重要な「フレーバーテキスト」とかの解説がついていないのだ。

 不便極まるんだけど、このゲームではこれが標準だ。

 ポーションとかも回復量がわからなくて、自分で使ってみるしかない。

 一応ポーションには品質がある。

 特に記載がなければ品質CでNPC品と同等。

 品質が悪いとD、E、いいものはB、Aがあるらしい。


 シルク生地は特に記載がないので品質C相当らしい。

 この品質はたぶん絶対評価ではなくモノごとの基準からみて平均的だと判断してるんだと思う。

 だから品質Cのシルクでも綿の生地品質Cよりもずっといいもののはず。


 なんだか自我自賛みたいだけど、まあちょっとは許してほしい。

 なお機織り機はゲーム内に普通に存在はしているけど、かなり高いという噂だ。


 今の俺たちの資金ではとても買えないらしいので、かなりガチャは当たりだった。


 こうして俺たちのシルク生産が始まった。

 まず、イモムーがシルクを吐き出すのを見て、俺たちに声をかけてきた人がいた。


「すみません。私もシルクに目がくらんで。クローラーのテイムをしたいんですけど、何かコツとかありますか?」


 馬鹿正直だけど、下手にうそをつくよりは好感度がいい。


「うちのイモムーは戦闘なしでアマアマ草たくさん食べさせたらテイムできましたよ。ただ他のイモムシもアマアマ草が好きかは保証できないっす。うちの子は特殊個体みたいで」

「なるほど、そうですよね。ありがとうございます」


 アマアマ草は知っている人も持っている人も露店でも売買があるので、入手は楽だろう。

 とりあえず情報は伝えた。


 それからしばらくして、そのプレイヤーがグリーンクローラーを捕まえて戻ってきたんだけど、ちょっと涙目だった。


「グリーンクローラーのイモイモです」

「よう、イモイモ、よろしく」


 プレイヤーのほうは名前も知らないのに、テイムモンスターだけ紹介される俺。なんなんだろうな。


「それでイモイモはアマアマ草ではなくてルク草という雑草でした」

「ああルク草ね。おいしいよね」

「あ、おいしいんですか、あの雑草。よく知ってますね、さすがです」

「まぁ、うん、それなりに。うちの子は食べないけど、あれそういえばあげたことないな」

「イモムー、ルク草、食べるか?」

「キュキュ」


 イモムーもルク草を食べた。ただ少ししか食べなかった。


「食べるけど、あんまり好みではないみたいだね」

「なるほど、好みが違うと。知らなかったです」


 俺たちの雑草露店も見てないのだろう。まあ世の中有名だと思っててもそんなものだ。


「それでなんですけど、糸は吐いてくれるのですが、それが……」


 そういうとちょっと眉をひそめて、


「キュキュキュ」

「ピギャギャ」


 イモムシどうしが挨拶して、なんかイモイモが糸を吐きだした。

 しかしイモムーと糸が明らかに違う。色が、緑がかっている。しかも緑が結構濃い。

 なんか天然のカイコ、ヤママユガみたいだけど、違うらしい。

 ヤママユガのテンサンは、高いらしいけど、このイモイモの糸はイモムーの糸よりはランクが低そうに見えるのだ。


「というわけで、緑色なんです。光沢もあまりなくて」

「みたいだね。これも十分きれいだとは思うけど」

「そうですよね。大丈夫、ですよね」

「うん、大丈夫、大丈夫」


 なんか俺が必死になだめることになった。


 最初のイモムーの布はなんと、パンツになった。それも女性用。

 パンツには残念ながら防御力はないらしい。


 俺は正直見てるだけで恥ずかしいので、あっちでやってほしい。


 シルクパンツ様は、好事家に高値で売られていった。

 ああパンツよ、さらばだ。


 俺たちもずっとここで糸と布生産だけしてられない。

 いや、してられるけど、それも悲しいので、イモイモや他のグリーンクローラーの子たちの糸を使って、順番に機織り機を貸し出すことになった。


 というわけで、いつの間にかこの一帯は、裁縫系プレイヤーの常駐場所と化している。


「じゃあ機織り機は順番に使ってください。使用料は任意です」


 にっこり笑顔でアカリが言えば、みんな結構な使用料を払っていった。

 もしかしてアカリの笑顔が怖いのだろうか。

 よく見ると目は笑っていない。マジだ。


 俺も見た目にはにっこりほほ笑んで、一言。


「では後お願いします。いってきます」


 そそくさと逃げるに限る。


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