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18話 昼寝


 匿名掲示板という文化も衰退して久しい。

 まとめWikiというのもAIによる情報爆発がある現代のゲームでは、載せる情報が多すぎるゆえに、見るにたえないというか、実質機能していない。

 まあモンスターの種類、基本選択できる職業ぐらいだろうか。

 あとは転職なりなんなりでできる無数の職業、スキルを網羅検証できるはずもなく、スキル名が並んでいるだけみたいな状況だったりする。


 というわけで、不人気職だったらしい無職に関する情報なんて何もなかった。


「んじゃ、今日は天気もいいし」

「そうですね」

「お昼寝をしよう」

「お昼寝ですね」


 そうして俺たちは、いつもの噴水広場ではない、別の広場で座っている。

 いや俺は座っていない。


 天気は晴れ。形のいい雲がいくつも流れていく。

 暑過ぎず、寒すぎない。ちょうどいい季節。

 この世界に季節があるのかはしらないけど。


 スズメみたいな鳥がピーって鳴いて飛んでいった。

 平和だ。


 季節があったら、畑への被害が心配だなぁ。季節あんまり厳しくないといいな。


 露店用ゴザを敷いて、彼女、アカリが座っている。

 そして俺は、うらやましいだろ。えへへ。


 膝枕してもらってる。


 えへへ。ちょっと鼻の下が伸びちゃいそう。

 メイドさんに膝枕とか、夢みたいだな。

 いや実質、VRは夢みたいなものだけど。


 VRの技術は、夢を見ているものに近いんだそうで、VR中に寝てもそれが睡眠の効果を持っているらしい。


 野草露店は順調だ。

 むしろ俺たちがプレイしていない夜中に当たる時間とかでも、とうぜん中は昼間になるので、その分の売り上げが多いってこともある。

 結局プレイヤーは加速時間で、得しているようで、どうしても無理があるんだ。

 そういう継続関連は、NPCのほうが強いとも言える。


 ただ本来の生産品の場合、技量ようするにスキルの関係で作れないものもあるので、簡単な料理はNPCでもなんとかできるっていうのは裏技らしい。

 もちろん専門職のNPCなら生産品も作れるけど、彼らはバイトとかするような身分じゃないので。

 今のところ、チュートリアルもろくにない、このゲームでは、専門職のNPCの知識とスキルは大変重要だ。

 そして師匠になってもらって、みんなでスキルを覚えるのが大変だとかなんとか。

 自分でレシピ的なものを考えることもできるけど、この世界での基礎はやっぱり必要だ。


 ちなみにこのゲームには作業場になる生産者ギルドとかいう便利施設がないので、みんな噴水広場とかに集まって隅のほうで野ざらしで生産活動をしている。

 家とか宿でやる人もいるし、師匠がいればそこでやるということになるんだろう。


 ああでもない、こうでもないと考えているうちに寝ていた。

 もちろん膝枕でですよ。


「……おはよう」

「おはようございます。お兄ちゃん」

「わりい、結構寝てた?」

「はい、それなりには」


 アカリは暇なので、薬草を一応売っているけど、ここの噴水広場はメインの場所ではないので、人が極端に少ない。

 それでお客さんなんてほとんどこない。


 アカリは手作業だけでできる内職をしていたらしい。


「で何してたの?」

「はい。えっとガラス玉があったので、それで穴をあけてアクセサリーにしようと思いまして」

「ガラス玉ねえ、確かにあったっけ」

「何個か拾いましたよね。ガラスの破片が削れて丸くなっただけだと思いますけど」

「あ、そうなんだ」

「はい」


 器用なものだ。できたものを見せてくれる。

 どこからか調達してきた紐に、ガラス玉を加工したビーズの大きいのを通して、首飾りに仕立てている。


「そういえば俺、昼寝ってスキル持ってたね」

「はい」

「ステータスがほうほう」


  HP 120+30/120


「なんかHPが最大値よりも+30されてる」

「つまり、昼寝はHPを増やす能力があると」

「そうみたいだね」

「寝だめができると」

「うん、そんな感じ」


 初期スキルだけど微妙な感じが漂ってる。

 ただ120で30だと25%ぐらいなんだよな。HPはレベル1で10増えてるからレベル100でHPが千とかでその25%増やせるとかになると、一気に化ける可能性もある。

 大器晩成型、もしくは対ボス用とか。


 でもこれダメージ食らっちゃうと追加分から減りそうだから、道中でダメージ食らったらアウトなやつでは。

 全然使い道がないダメスキルなんでは。


「なんかあかんスキルっぽい」

「そうですか。残念ですね」

「まあ無職だし」

「そうですねニートですもんね」

「うん」


 いにしえのベータ期間がないのが悔やまれる。

 というのも1か月1万人とかの規模でAIをレンタルすることが普通にできるようになったので、人間がベータとかする必要性が薄れて実施されなくなったのだ。

 ベータさえあれば昼寝スキルに隠されたパワーとかも明るみになっていたに違いない。

 その代わりAIちゃんたちは優秀なので現代のゲームやプログラムには極端にバグが少なかった。


 ということでスキルはよくわからん。


 ここまで武器の選択をニートらしく先延ばしにしてきた。

 だって将来を決めるとか、なんか重いじゃん。


「ということで武器とかビルドとか決めたくない」

「そうはいっても、何かで攻撃はしないといけないでしょう」

「そうなんだけどね」


 こん棒を卒業して、剣とか普通すぎるよな。

 なんか楽しいプレイをしたい。

 投石というのもいいかもしれないけど、なんか違う気もする。

 槍はどうだろう。これも比較的普通だけど。

 鞭とかは俺には難しそう。

 弓はうーん。そもそも当たるのかな。このゲームではDEXという命中補正アップとかがない。

 こん棒のバージョンアップだとすればメイスだ。

 メイスは主人公キャラじゃない気がする。俺は別に主人公でも何でもないけど、アカリが不満をいいそう。

 こうしてまた、武器何にしようと考えるだけ考えて、先延ばしにするのだった。


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