お昼すぎに少し露店を見て回ったけど、まだ午後の時間は残っている。
何をして過ごそうか。
今後のためには、どうしたらいいか考えなきゃ。
「でアカリこの先、どうしたらいいと思う?」
「質問が漠然としていて、どう答えたらいいか、わからないですよ」
「そんなポンコツAIみたいな答えはほしくない」
「あー。AI差別なんだ。わたしのこと、差別するんだぁ」
「いや、そういうつもりじゃないけど」
「ちょっとダダこねてみたかっただけです。ごめんなさい」
「いや、いいよ。俺も悪かった」
「はい。この件はおしまい。なかよくしましょ?」
「うん」
そういうとアカリが手を差し出してくる。
俺は手を取って、握手をした。
最初のとき、町を歩いて手をつないだのを思いだした。
リアルでは昨日のことだけど、もうずっと前みたいに感じた。
アカリとこの世界で、生活しているのが普通みたいになってる。
「ギルドで草取りのクエスト受けて、今度は貧民街と、あとさ教会に行ってみよう」
「教会ですか? 神様を信じてるんですか?」
「そうじゃないけど、まあ、ここはゲーム世界だから運営神は実在するし、一応信じてるよ。レア運みたいな、当たり要素はあるから、やっぱり神様は大事にしたほうがいいと思う」
「家にいるときはそんな風なこと言わないから、意外でした」
「そうかな、結構信心深いよ俺」
「そうだったんですか。まだまだ知らないことがあって、新しい発見はうれしいです。また1つお兄ちゃんに詳しくなれました」
「そうだね。俺ももっとアカリのこと知りたいな」
「はい、いろいろ一緒にやりましょうね」
「うん」
そういうと、アカリはつないだ手を放した。
でもそのまま両手をがばって広げて、抱き着いてくる。
「ちょっ、アカリ」
「いいじゃないですか。減るもんじゃないし」
「俺の精神力は減っちゃうんだよ」
「わたしの愛情パワーで逆に増えませんか」
「う、うん。増える」
「じゃあ、このままでいいですよね」
「うん」
アカリが温かい。家ではただのホログラムでも、ここでは温度を感じる。
まるで人間みたいだ。こういうとまたAI差別だーって言われるけど。
VRのプログラムがアカリの心が温かいのを反映しているみたいだ。
いい匂いもする。匂いもちゃんと再現してるんだなと今更ながらに思い出す。
アカリが実在していれば、どれだけうれしいだろうか。
「はい、充電終わりです」
「うん……」
「あれ、ご主人様、泣いてる」
「あ、え、いや、なんでもない」
俺の目から汗がちょっとだけ、あふれそうになっていたらしい。
アカリが実在しないなんて認めたくない。
でもこの世界には確かに、存在してる。
ただ向こうの世界では体がないだけだ。
「よし、まずはギルドへ」
「あいあいさー」
また最初みたいに手をつないでギルドに向かった。
他のやつらは腕を組んでるんだから、手つなぐくらいいだろう。
ギルドから移動して、貧民街のほうへやってきた。
道には草もちょくちょく生えているが、俺たちが食用に使っている草や、薬草がほとんどない。
目の前ちょっと先のほうに薬草があるな、と思ったら、子供たちが走ってきて、薬草を抜いていった。
なるほど貧民街だから子供たちのおこづかいになっているらしい。
こちら方面は美味しくない草ばっかり集まった。中にはお茶用になりそうなものもあるので、とりあえず取っておく。
いわゆるスラムはないけど、貧民街というか低所得者層の街区はある。
どのような世界になっても、ピラミッド構造なのは変わらないんだな。
この世界は思ったよりは裕福だけど、それでも市民がみな平等とはいかないらしい。
小さい子供がちょろちょろいるのが貧民街らしい。
この通りにはお店はまったくない。
小さな家がくっついて建っている。どの家も一階建てみたいだ。
三階建てのアパートに住むのが標準的なのに、この辺は一階建てなのが逆に不思議に感じる。
町中よりちょっと離れているといえば、離れているからだろうか。
「貧民街って言っても、子供たちは元気みたいでよかったね」
「ああ」
「道端で座り込んでる人もいないみたい」
「そうだな」
そうして貧民街を通過したその終わりに大きな教会が建っていた。
大きいといっても平屋で、町の中心にある一番でかい教会よりはずっと小さい。
「ここが教会?」
「うん」
「どういうところなのかな」
「説明書にも載ってるけど、ここは孤児院を兼ねてる教会なんだ。それで貧乏っていうよくあるやつね」
「よくあるんだ」
「異世界ものではそうだね」
「ふーん」
入口前まで来たけど、出入りするプレイヤーの姿は見れなかった。
「お邪魔します」
「お邪魔します」
教会に入っていく。神父さん含めて、人は誰もいない。
後ろが左右に分かれてて椅子が並んでいる。
正面には偶像崇拝してもいいらしい。偉人の像らしいものが建っていた。
「これが神様の像かな」
「たぶんね」
神様の像の前には、果物などが積んである。
そして俺たちの前には、どう見てもさい銭箱がある。日本にもある普通のタイプだった。
「無人だけどさい銭箱ということは」
「そういうことなんでしょう」
ちゃりんちゃりん。
俺たちはお金を実体化させて、放り込む。
えっとたぶん、3銀貨だと思う。300イジェルだ。
1銀貨なのもけち臭いかなと思って。
お参りの仕方がわからないけど。
「どうしたらいいのかな、お兄ちゃん」
「わからんから、頭を下げていこう」
「はい」
2人で腰を折って頭を深く下げる。
(ゲームの中では幸せになれますように)
アカリは、AIは、何を祈ったりするんだろうか。
人工知能にとって神は信じるものなのだろうか。
人間とほぼ同じといっても、人に作られたものであることには違いがない。
人工知能は夢を見るのかみたいな話というか、なんというか。
まあいいや。