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15話 貧民街と教会


 お昼すぎに少し露店を見て回ったけど、まだ午後の時間は残っている。


 何をして過ごそうか。

 今後のためには、どうしたらいいか考えなきゃ。


「でアカリこの先、どうしたらいいと思う?」

「質問が漠然としていて、どう答えたらいいか、わからないですよ」

「そんなポンコツAIみたいな答えはほしくない」

「あー。AI差別なんだ。わたしのこと、差別するんだぁ」

「いや、そういうつもりじゃないけど」

「ちょっとダダこねてみたかっただけです。ごめんなさい」

「いや、いいよ。俺も悪かった」

「はい。この件はおしまい。なかよくしましょ?」

「うん」


 そういうとアカリが手を差し出してくる。

 俺は手を取って、握手をした。


 最初のとき、町を歩いて手をつないだのを思いだした。

 リアルでは昨日のことだけど、もうずっと前みたいに感じた。

 アカリとこの世界で、生活しているのが普通みたいになってる。


「ギルドで草取りのクエスト受けて、今度は貧民街と、あとさ教会に行ってみよう」

「教会ですか? 神様を信じてるんですか?」

「そうじゃないけど、まあ、ここはゲーム世界だから運営神は実在するし、一応信じてるよ。レア運みたいな、当たり要素はあるから、やっぱり神様は大事にしたほうがいいと思う」

「家にいるときはそんな風なこと言わないから、意外でした」

「そうかな、結構信心深いよ俺」

「そうだったんですか。まだまだ知らないことがあって、新しい発見はうれしいです。また1つお兄ちゃんに詳しくなれました」

「そうだね。俺ももっとアカリのこと知りたいな」

「はい、いろいろ一緒にやりましょうね」

「うん」


 そういうと、アカリはつないだ手を放した。

 でもそのまま両手をがばって広げて、抱き着いてくる。


「ちょっ、アカリ」

「いいじゃないですか。減るもんじゃないし」

「俺の精神力は減っちゃうんだよ」

「わたしの愛情パワーで逆に増えませんか」

「う、うん。増える」

「じゃあ、このままでいいですよね」

「うん」


 アカリが温かい。家ではただのホログラムでも、ここでは温度を感じる。

 まるで人間みたいだ。こういうとまたAI差別だーって言われるけど。

 VRのプログラムがアカリの心が温かいのを反映しているみたいだ。

 いい匂いもする。匂いもちゃんと再現してるんだなと今更ながらに思い出す。


 アカリが実在していれば、どれだけうれしいだろうか。


「はい、充電終わりです」

「うん……」

「あれ、ご主人様、泣いてる」

「あ、え、いや、なんでもない」


 俺の目から汗がちょっとだけ、あふれそうになっていたらしい。

 アカリが実在しないなんて認めたくない。

 でもこの世界には確かに、存在してる。

 ただ向こうの世界では体がないだけだ。


「よし、まずはギルドへ」

「あいあいさー」


 また最初みたいに手をつないでギルドに向かった。

 他のやつらは腕を組んでるんだから、手つなぐくらいいだろう。


 ギルドから移動して、貧民街のほうへやってきた。

 道には草もちょくちょく生えているが、俺たちが食用に使っている草や、薬草がほとんどない。


 目の前ちょっと先のほうに薬草があるな、と思ったら、子供たちが走ってきて、薬草を抜いていった。

 なるほど貧民街だから子供たちのおこづかいになっているらしい。


 こちら方面は美味しくない草ばっかり集まった。中にはお茶用になりそうなものもあるので、とりあえず取っておく。


 いわゆるスラムはないけど、貧民街というか低所得者層の街区はある。

 どのような世界になっても、ピラミッド構造なのは変わらないんだな。

 この世界は思ったよりは裕福だけど、それでも市民がみな平等とはいかないらしい。


 小さい子供がちょろちょろいるのが貧民街らしい。

 この通りにはお店はまったくない。

 小さな家がくっついて建っている。どの家も一階建てみたいだ。

 三階建てのアパートに住むのが標準的なのに、この辺は一階建てなのが逆に不思議に感じる。

 町中よりちょっと離れているといえば、離れているからだろうか。


「貧民街って言っても、子供たちは元気みたいでよかったね」

「ああ」

「道端で座り込んでる人もいないみたい」

「そうだな」


 そうして貧民街を通過したその終わりに大きな教会が建っていた。

 大きいといっても平屋で、町の中心にある一番でかい教会よりはずっと小さい。


「ここが教会?」

「うん」

「どういうところなのかな」

「説明書にも載ってるけど、ここは孤児院を兼ねてる教会なんだ。それで貧乏っていうよくあるやつね」

「よくあるんだ」

「異世界ものではそうだね」

「ふーん」


 入口前まで来たけど、出入りするプレイヤーの姿は見れなかった。


「お邪魔します」

「お邪魔します」


 教会に入っていく。神父さん含めて、人は誰もいない。

 後ろが左右に分かれてて椅子が並んでいる。


 正面には偶像崇拝してもいいらしい。偉人の像らしいものが建っていた。


「これが神様の像かな」

「たぶんね」


 神様の像の前には、果物などが積んである。

 そして俺たちの前には、どう見てもさい銭箱がある。日本にもある普通のタイプだった。


「無人だけどさい銭箱ということは」

「そういうことなんでしょう」


 ちゃりんちゃりん。


 俺たちはお金を実体化させて、放り込む。

 えっとたぶん、3銀貨だと思う。300イジェルだ。


 1銀貨なのもけち臭いかなと思って。


 お参りの仕方がわからないけど。


「どうしたらいいのかな、お兄ちゃん」

「わからんから、頭を下げていこう」

「はい」


 2人で腰を折って頭を深く下げる。


(ゲームの中では幸せになれますように)


 アカリは、AIは、何を祈ったりするんだろうか。

 人工知能にとって神は信じるものなのだろうか。

 人間とほぼ同じといっても、人に作られたものであることには違いがない。

 人工知能は夢を見るのかみたいな話というか、なんというか。


 まあいいや。


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