暗くなってきたけど、露店はいくつも出ていた。
むしろ昼間戦闘して戻ってきた人たちが、この時間から露店を開くらしく、新しくできることすらあった。
「なんか幻想的できれいだよね、お兄ちゃん」
「ああ、さすがファンタジー。こうでないと」
俺はアカリといい感じだった。
ははは、いい感じとか笑っちゃうけど、俺だって必死だ。
ただでさえ人が多いところに長時間いないといけなくて、ストレス値が高いんだから、せめてアカリの癒し成分で回復しないと、すぐ参ってしまうぞ。
所持金は1,250イジェル。
露店を見て回る。
ポーションが売っていた。
「初級ポーションだ」
「そうですよ。まだ見つかったばかりで数がないんですけどね」
「やっぱり、水とクス草で作るのかな?」
「そうですよ。予想通りですね。あぁ瓶は勝手に現れたりしないんで、別に必要ですよ」
「ガラス瓶の破片、結構拾ったからなぁ」
「そうですか。それらは売ってもらっても?」
「あ、どうしようかな、自分たちで使うっていうのも考えてたんだけど」
「それなら無理にとはいいません」
「どうしようかな」
「お兄ちゃん、別に売っちゃってもいいよ」
「まぁそうだな、じゃあ売っちゃうか」
ガラス瓶の破片をあるだけ、クス草をほぼあるだけ、全部売ってしまった。
全部で3,600イジェルで買ってもらえた。
高いか安いかは知らない。
「まいどありっす」
今度は落ち着いて会話ができた、よかった。
「じゃあお兄ちゃん、もう暗いし、宿に行こっか?」
「え、えええ、宿? ね、寝るの?」
「はい、もちろんですよ」
宿屋も何軒も見つけてある。
だいたいは一階が食堂になっていたりする。
俺たちは裏通りにある、流行ってなさそうな宿に向かった。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ~。お連れ様2名ですね。ダブルでいいですよね?」
「ああ、いいですよ」
「おい、ちょ」
「一泊一部屋1,000イジェルで先払いです」
「はい、わかりました」
アカリがどんどん手続きしてしまう。
階段を上がって個室206号室へと入っていく。
部屋の中は、ベッドが1つ、テーブルが1つ、椅子が2つ。
シャワー室とかトイレとかないシンプルな作りになっていた。
「あ、あの、アカリさん。ベッドが」
「ええ、ダブルっていったじゃないですか」
「1個しかない」
「そうですね。一緒に寝ましょう。夢だったんですぅ」
「甘えた声とか出してもなぁ」
「まあいいじゃないですか。どうせ仮想世界ですよ」
「そういえばそうだな、なんか騙されてる気がする」
「わぁ暖かい。少しだけふわふわしてますね、ささ隣どうぞ」
アカリが1人でベッドに入って、誘ってくる。
ぐっとくるものがある。俺は唾をごくんと飲み込んで、そして決意してベッドに入った。
「お、思ったより、寝心地はいい」
「でしょう、はい、おやすみなさーい、お兄ちゃん。また明日」
「ああ。お、おやすみ」
アカリと一緒にベッドだなんて。
まぁしかたがない。甘えたい年頃なんだろう。
ドキドキするけど眠れるだろうか。
とかなんとか思っているうちに眠りに落ちた。
ゲーム内でも普通に眠れるらしい。
眠りこけているうちに朝になった。
「なあアカリ」
「なんですか、お兄ちゃん」
「これ、実は夜はログアウトすればいいだけじゃないの?」
「え、そうですよ。何言ってるんですか。プレイヤー全員が寝たりしたら宿屋がいっぱいになっててんてこ舞いになっちゃいますよ」
「そうだな。つまり俺たちは無駄なことをしたと」
「そんなことないでーす。わたしはお兄ちゃんと一緒に寝れてうれしかったです」
「そっか」
「はい」
「とりあえずおしっこしたい。ゲーム中はトイレは不要だったはずなのに」
「それ、現実のほうですよ。ログアウトしたほうがいいです」
「ああそういうことか、わかった。ちょっと行ってくる」
俺はログアウトする。
そうすると、目の前にアカリがいた。
「あれ?」
「はい。プレイヤーがログアウトするとサポートAIもログアウトになるので」
「ああ、そっか」
「はい」
部屋から出てトイレを済ませて再ログインする。
最初からゲーム内で19時間経過、現実は午後5時前ぐらいだった。
なんかすでに寝て起きたので、すっきりしている。
朝ごはんを下の食堂で食べて、今日も活動開始だ。