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5話 露店見学


 裸同然で、ゲームがスタートすることは珍しい。

 普通は最低限の装備などがもらえるものだし、スタートでもらえないゲームは大抵はチュートリアルで職業にあったものをもらえる。

 ポーションなんかは初心者支援といって、初心者ポーションを大量にもらえることも多い。

 なのにこのゲームときたら、お金ゼロ、装備なしときた。

 職業用のスキルは覚えられるみたいなんだけど、そりゃそうだろう。

 何もなしでは魔法使いとかどうやって戦うんだってことになる。


「なんだかパッとしない」

「そうですか?」

「極振りとか地雷職で最強プレイで俺ツエーとかしてみたい」

「何かはわかりますが、やめてくださいよ」

「ごめんごめん、初期ステータスってあったとしてもたいして割り振れないし、このゲームでは職に合わせて最初は自動なんだな。変なステ振りできないようにって」

「そうみたいですね」

「無職はバランス型だな、で平均的。いわゆる器用貧乏。言い方を変えれば、なんにでもなれる」

「なんにでもなれないの間違いだよね」

「うん……」

「まあ、そのへんにして、草について聞いてみようよ」

「そうだな」


 俺たちは第一陣プレイヤーだと思われる人たちがやってる露店を見ることにした。


「雑草、薬草について詳しい人いますか?」


 俺だってコミュ障といえど、敬語で問いかけるぐらいはできる。

 草がおいてあるので、何かの薬草とかだろう。

 ちょっと話すのは怖いけど、プレイヤーのお兄さんだった。もちろん兄弟という意味ではないです。


「なんだよ、ほれ、これクス草、これがいわゆる薬草。あとはアマアマ草、こっちが砂糖の代わりになる甘い草だよ」

「なるほど。オクシ草、ルーデ草とかは知りませんか?」

「さあ。俺たちは外の草原で取れるクス草、アマアマ草くらいしかまだ知らないよ。そりゃ始めたばっかりだからね」

「そう、ですよね。プレイヤーですもんね。3時間前に始めたばかりの」

「そーいうこって。なんか買ってく? といっても、ウサギの毛皮、ウサギ肉くらいしか他には置いてないけど。俺たちも情報交換と休憩かねて露店してんだ。何か情報あるならそっちからも出してほしいな」

「はい、そうですよね。えっと町中の雑草を取る依頼は500イジェルで、雑草といいつつ、クス草、アマアマ草も1時間で10本ぐらいは取れますよ。あとイチゴ草というのも生えてました」

「なるほど、町中で採取ね。戦闘しないっていうのは一部の人にはいいかもね」

「ですよね。他人の畑はダメでしょうけど、道の草は取っていいみたいです」

「なんか町中にも、東京のイチョウみたいにあるかもしれんな」

「ですです」

「そっちの猫耳姉ちゃんは、あんちゃんの知り合い?」

「はい、僕のAIパートナーです」

「ああ、猫耳ちゃんたちはAIパートナーなのか。道理でどの子も男づれだと思った。かわいい子ばっかりなのに、つまんねーゲームだと思ったら、自前で用意してるんならしょうがないわな」

「そうですね。結構高いですもんねAIパートナー」

「あんちゃんも金持ちなのか。貧乏人にはつらいぜ。かわいい人間かNPCの知り合いがほしいわ」

「あはは、がんばってください」

「おおよ、そっちもがんばれよ」

「はい」


 う、気持ち悪い。一気にしゃべって情報がぐるぐるしてる。

 お兄さんが、早口ぎみに次々しゃべるから、なんか対応するのにぐっと疲れた。引きこもりには辛いわ。


 俺が下を向いていると、そっとアカリが俺に寄り添って、背中をさすってくれる。


「お兄ちゃん大丈夫? ログアウトする?」

「いや、いい。ちょっとしゃべっただけで、思ったより気力使っただけだから」

「そうですか、これは先が思いやられますね」


 俺は噴水のところに行って、飲めるようになっている水が溜めてあるところから、すくって一気飲みする。


「ぷはぁ……ふう、生き返る」

「よかった」


 水は現実の水よりも、なんとなく美味しいような気がする。

 適度に冷えていて、暖かい気候の中、とてものど越しがよかった。


「次はどうしようか。ちょっと肉串のお姉さんの露店で聞き込みしてみるか」

「うん、わかった。次はわたしが話すね」

「おお、頼む」


 プレイヤーは保留にしよう。


「肉串のお姉さん、こんにちは」

「なんだい、お客さん?」

「草について基礎を知りたいんですけど、ちょっとだけいいですか?」

「いいよ、普通の草だよね? それくらいならだれでも知ってるよ」


 おばちゃんによれば、オクシ草は肉を焼くときに使うハーブ。ルーデ草の実は甘くて食べる人もいるにはいるらしい。

 そしてイチゴ草はイチゴらしい。葉っぱは特に使わないけど、根っこごと取ってきたので、土地があれば植えれば、イチゴを栽培できる。

 他の草も何種類か手に入れたけど、あとは雑草で、基本的には家畜のえさ、枯れ草を肥料にするぐらいらしい。後は枯れ草を野菜の根元に敷いたりするそうだ。現実世界でいういわゆるマルチシートみたいな感じの使い方だと思う。

 雑草と呼んでいるけど、他にはサラダにしたりする人もいるとかいないとか。


「ああ、ついでに土地なんだけど、冒険者ギルドで、狭い家庭菜園なら定額でレンタルしてるよ」

「なるほど。ありがとうございました。お姉さん」

「いいってことよ。また買っておくれ」

「はい、ぜひ」


 思ったよりいい情報が手に入った。


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