裸同然で、ゲームがスタートすることは珍しい。
普通は最低限の装備などがもらえるものだし、スタートでもらえないゲームは大抵はチュートリアルで職業にあったものをもらえる。
ポーションなんかは初心者支援といって、初心者ポーションを大量にもらえることも多い。
なのにこのゲームときたら、お金ゼロ、装備なしときた。
職業用のスキルは覚えられるみたいなんだけど、そりゃそうだろう。
何もなしでは魔法使いとかどうやって戦うんだってことになる。
「なんだかパッとしない」
「そうですか?」
「極振りとか地雷職で最強プレイで俺ツエーとかしてみたい」
「何かはわかりますが、やめてくださいよ」
「ごめんごめん、初期ステータスってあったとしてもたいして割り振れないし、このゲームでは職に合わせて最初は自動なんだな。変なステ振りできないようにって」
「そうみたいですね」
「無職はバランス型だな、で平均的。いわゆる器用貧乏。言い方を変えれば、なんにでもなれる」
「なんにでもなれないの間違いだよね」
「うん……」
「まあ、そのへんにして、草について聞いてみようよ」
「そうだな」
俺たちは第一陣プレイヤーだと思われる人たちがやってる露店を見ることにした。
「雑草、薬草について詳しい人いますか?」
俺だってコミュ障といえど、敬語で問いかけるぐらいはできる。
草がおいてあるので、何かの薬草とかだろう。
ちょっと話すのは怖いけど、プレイヤーのお兄さんだった。もちろん兄弟という意味ではないです。
「なんだよ、ほれ、これクス草、これがいわゆる薬草。あとはアマアマ草、こっちが砂糖の代わりになる甘い草だよ」
「なるほど。オクシ草、ルーデ草とかは知りませんか?」
「さあ。俺たちは外の草原で取れるクス草、アマアマ草くらいしかまだ知らないよ。そりゃ始めたばっかりだからね」
「そう、ですよね。プレイヤーですもんね。3時間前に始めたばかりの」
「そーいうこって。なんか買ってく? といっても、ウサギの毛皮、ウサギ肉くらいしか他には置いてないけど。俺たちも情報交換と休憩かねて露店してんだ。何か情報あるならそっちからも出してほしいな」
「はい、そうですよね。えっと町中の雑草を取る依頼は500イジェルで、雑草といいつつ、クス草、アマアマ草も1時間で10本ぐらいは取れますよ。あとイチゴ草というのも生えてました」
「なるほど、町中で採取ね。戦闘しないっていうのは一部の人にはいいかもね」
「ですよね。他人の畑はダメでしょうけど、道の草は取っていいみたいです」
「なんか町中にも、東京のイチョウみたいにあるかもしれんな」
「ですです」
「そっちの猫耳姉ちゃんは、あんちゃんの知り合い?」
「はい、僕のAIパートナーです」
「ああ、猫耳ちゃんたちはAIパートナーなのか。道理でどの子も男づれだと思った。かわいい子ばっかりなのに、つまんねーゲームだと思ったら、自前で用意してるんならしょうがないわな」
「そうですね。結構高いですもんねAIパートナー」
「あんちゃんも金持ちなのか。貧乏人にはつらいぜ。かわいい人間かNPCの知り合いがほしいわ」
「あはは、がんばってください」
「おおよ、そっちもがんばれよ」
「はい」
う、気持ち悪い。一気にしゃべって情報がぐるぐるしてる。
お兄さんが、早口ぎみに次々しゃべるから、なんか対応するのにぐっと疲れた。引きこもりには辛いわ。
俺が下を向いていると、そっとアカリが俺に寄り添って、背中をさすってくれる。
「お兄ちゃん大丈夫? ログアウトする?」
「いや、いい。ちょっとしゃべっただけで、思ったより気力使っただけだから」
「そうですか、これは先が思いやられますね」
俺は噴水のところに行って、飲めるようになっている水が溜めてあるところから、すくって一気飲みする。
「ぷはぁ……ふう、生き返る」
「よかった」
水は現実の水よりも、なんとなく美味しいような気がする。
適度に冷えていて、暖かい気候の中、とてものど越しがよかった。
「次はどうしようか。ちょっと肉串のお姉さんの露店で聞き込みしてみるか」
「うん、わかった。次はわたしが話すね」
「おお、頼む」
プレイヤーは保留にしよう。
「肉串のお姉さん、こんにちは」
「なんだい、お客さん?」
「草について基礎を知りたいんですけど、ちょっとだけいいですか?」
「いいよ、普通の草だよね? それくらいならだれでも知ってるよ」
おばちゃんによれば、オクシ草は肉を焼くときに使うハーブ。ルーデ草の実は甘くて食べる人もいるにはいるらしい。
そしてイチゴ草はイチゴらしい。葉っぱは特に使わないけど、根っこごと取ってきたので、土地があれば植えれば、イチゴを栽培できる。
他の草も何種類か手に入れたけど、あとは雑草で、基本的には家畜のえさ、枯れ草を肥料にするぐらいらしい。後は枯れ草を野菜の根元に敷いたりするそうだ。現実世界でいういわゆるマルチシートみたいな感じの使い方だと思う。
雑草と呼んでいるけど、他にはサラダにしたりする人もいるとかいないとか。
「ああ、ついでに土地なんだけど、冒険者ギルドで、狭い家庭菜園なら定額でレンタルしてるよ」
「なるほど。ありがとうございました。お姉さん」
「いいってことよ。また買っておくれ」
「はい、ぜひ」
思ったよりいい情報が手に入った。