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2話 ファーストログイン


 とにかく部屋の中にはアカリがホログラムだけどいる生活が始まった。

 今までは、特定の位置にディスプレイとして表示されていたけど、今は違う。そこにいる。


 しかし、お茶くみもベッドを直したりとか、なんでもできるようでなんにもしてはくれない。

 実際にはいないというは、結構悲しいことだと思う。

 両親は都内のマンションから一緒の会社に通っている。家に戻ってくるのは週に1回ぐらい。

 俺の食事は主に栄養バランスを考えられた献立になっている冷凍食品だった。

 つまり、この一軒家には事実上ほぼ俺とアカリだけで住んでいる。


 それから1週間、ついにアナザーワールドのゲームサービス開始日になった。


 学校は録画にして、お昼を早めに済ませて12時ちょうどを待った。

 俺はヘッドホンを装着したままベッドに寝る。念のため電源ラインをつなぐ。


「リンクスタート、アナザーワールド」

『フルダイブモードに移行します』


 ゲーム画面のタイトルロゴの表示の後、古い木のシンプルな部屋にいた。


 すでに事前のIDの登録やキャラクターメイキングなどは終わらせてあった。

 といっても、見た目なんて現実の自分で髪の毛を青く、瞳を緑にしただけだった。

 別に可も不可もない、普通の顔だ。

 種族は人族。プレイヤーは人族で固定らしい。

 性別は原則、戸籍上のものが適用されるとのこと。つまりネカマプレイ、はるか昔に流行ったバ美肉おじさんプレイとかもできない。


「ようこそアナザーワールドへ、ステファン・マッサンさん」

「ああ、そんな名前にしたんだっけな」

「はい、そうです。こちらは、ガイドを務めます、ミエルです。よろしくおねがいします」

「ああよろしく。ところでアカリはどうなってるの?」

「アカリさんは別の空間で同じく説明を受けています」

「それならいいよ」


 そう、このゲームではよく小説などで話題になるVRMMOとは違った特徴がある。

 それは現実世界で使用しているAI人格をプレイヤー1人につき1人、同伴することができるようになっていた。

 AIはプレイヤーがログインしている時しか、ログインを許されていない。だからAIにだけ勝手にプレイさせて自分はログインすら何もしないというわけにはいかないそうだ。

 旧世紀にはAIならぬbot、ボットと言われるプログラムプレイヤーが猛威を振るったと文書で見たことがあったけど、それの二の舞を踏むつもりはないらしい。


 今のAIはそれなりに賢いが、それは現状では「人間とほぼ同じ」であり、それはそれ以上でもそれ以下でもないことを表していた。


「はい。ではまず、初期職業を決めてください。職業はゲーム内でいつでも冒険者ギルドで転職可能です。別に初期職業に選ばなかったとしても不利にはなりません」


 剣士、魔術師、治療術師、錬金術師、農家、鍛冶師、無職、などなど20個ぐらい並んでいる。

 というか無職? それは職業なのか。

 1000個以上の職業から最初に選ぶなんていうラノベとかの架空の話もあるけど、最初に大量の中から選ぶなんて無理すぎるから、数が少ないのはありがたい。

 それに変更可能なのも、ゲームの難易度、後でもカバーできるから大変プレイヤーフレンドリーだ。


 機器も出回っていないのだから当然のようにオープンベータみたいなものはなかったので、攻略情報などは現時点では何もなかった。


「じゃあよくわからないので無職でいいです」

「了解しました。職業選択『無職』実行します」

「次は」

「えっとスキル選択などの初期設定はございません。以上で終わりです」

「そうなんだ。簡単だね」

「はい。ですが、その代りゲーム内でスキルの取得クエストなどを行っていただく必要がございます」

「あー、なるほどね」

「では、サポートAIとご相談の上、サポートAIの職業などを決めてください」

「一緒に行動するんだから、そりゃそうか」

「はい」


 木の部屋に、アカリが転送されてきた。


「お兄ちゃんただいま」

「おかえりアカリ」

「えへへ、どう?」

「ああ、メイド服だな、かわいいよ」

「あはは、やったっ」


 アカリがちょっと古い感じのメイド服に喜んでいた。


「それでその猫耳は?」

「これはですね、サポートAIは、犬耳か猫耳をつける決まりなんです。AIとプレイヤーを区別するために必要な処置なんだそうです」

「なるほど」


 多くのゲームではキャラクターの上に出るマーカーの色などで判断するけど、このゲームでは違うらしい。

 もしかしたらゲーム内でマーカーが出ない、もしくは区別がつかないのかもしれない。

 AIが発展している以上、NPCもプレイヤーも違いが判らないということもあり得る。


「アカリはそうですね。じゃあ治療術師にしようかな」

「そのこころは?」

「お兄ちゃんを癒してあげたいなって思って。いつも捻くれてるから」

「どうせ俺は捻くれているよ」

「まぁまぁ、でも、心の中まで癒してあげたいってのは本当」

「そっか」

「うん」

「じゃあそれで決定な。ヒーラーだね」

「はいっ」


 こうしてアカリだけヒーラーで開始となった。

 俺はもちろん、無職すなわちニートだ。


「お決まりですね。それでは、始まりの町フォーティーンに転送いたします。ご足元にご注意ください。それではさようなら」


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