2000年代から見て、技術の進歩は昔言われているほどではなく、ゆっくり進んでいた。技術的ブレイクスルーというのがなかなかやってこなかったからだ。
それが近年、二次関数みたいに急成長していた。とくにニューラルネットワーク型人工知能、ほんもののAIの進化はすごかった。
最初は猫、犬型ロボットだった。
感情があり、少しの知性があり、お腹をすかせてご飯を要求したり、甘えたり、何かを怖がったり、ドアを開けたりする、ペット型ロボットだった。
それが人間型に発展し、いまでは人工知能は裕福な家庭でも買えるまでになってきていた。
知性だけ存在していても、人型の人間と同じスペックのあるボディはまだ開発途上にあって、昔にあったいわゆる「AIスピーカー」という人口無能に似ているものの、ちゃんと会話が成立して、3Dの仮想キャラクターが表示されて、しっかりとした人格があるメイドさん的な仕事をしてくれるものになっていた。
彼女たちはそこにいるけど、どこにもいないのだ。
俺、
高校には進学したものの、不登校を貫いていて、家からリモート出席のみで進級していた。
そして大ニュースだった。
ついにニューラルネットワークの研究で世界トップシェアを誇るボーブス社は、VR装置、そうフルダイブ型の例のアレを完成にこぎつけたのだ。
医療用の応用装置の話はちょくちょくマスコミで報道されていたのだが、ついに、一般向けに販売がされるという。
そして世界初フルダイブVRMMO-RPG「アナザーワールド」通称、AWが販売になる。
ネット完全予約制、送料無料。販売日前にほぼ必着。ただし離島を除く。
俺はその初回生産分の注文に当選をしていた。
正確には親が怪しいコネを使って、関係者向けの割り当て分から当選したらしい。おやじには逆らえない。
お値段は、この手の商品としては破格の聞いて驚け、25万円なり。
ということで、両親はVRゲームとメイドさんで半引きこもりの俺に社会性を勉強させようということらしい。
OK、それならこっちも、それに乗って、ゲーム三昧しようと思う。
すでにVR機器は家に到着していた。今は6月、外は今日も雨だった。
VR装置はヘッドホン型で、VR、AR両用でいわゆるMRと言われるものだ。
これを頭につけて電源を入れれば、フルダイブモード、AR表示モードなどが使える。
AR表示は自分の目で見たものと、CGを頭の中でインターセプト割り込みして、脳にCGが現実世界に重なっているように表示させることができる。
もちろんもっと視覚情報を改ざんして、異空間にいるようにも見せることもできる。
まぁとにかく、ゲーム開始日は1週間後だった。
一番最初にしたこと、それは、もちろんセットアップとそしてARモードでの「メイドさん」の現実世界への召喚だった。
このAR合成は眼鏡なしで頭の中でやるため、すごく自然なのだ。
「アカリ、ようこそ、現実世界へ」
「ショウ君、現実世界の空間へ、おじゃまします。すごい、本当に部屋の中にいるみたいだよ」
アカリというのが俺のメイドさんだ。
年は加速年齢だけど同じ18歳で、俺より頭1つぶん小さい。そしておっぱいがそこそこ大きい。小さすぎず、大きすぎず。ちょうどいい大きさだった。
腰や手足は細くて、顔は丸顔でかわいい。
服装は普通のワンピース。
髪の毛は憧れの金髪ロングだった。
もし人間だったらだんぜん彼女にしたい、素直でいい子だ。
ほんのちょっと抜けてるところがあって、天然っぽいところも、かわいいから許せる。
「アカリこっちおいで」
「はい」
アカリが部屋の隅からこちら側へとやってきた。
でも、触ることはできない。なぜなら脳内だけどホログラムみたいなものだから。
もちろん疑似感覚を使えば触れるけど、そうすると現実世界があいまいになってしまうということで、特殊な許可がないと通常は有効にすることができないものだった。
「これからも、その、なんだ」
「はい」
「アカリ、よろしくな?」
「もちろんだよ『お兄ちゃん』、わたしにはあなたがすべてなんだからね」
「ああ、そうだよな」
「はいっ」
そう、最初にアカリが来た日に決めた。
俺たちは「年子の兄妹」という関係ということにした。
それから1か月、アカリは俺のことをかなり知っているはずだ。好きなもの、嫌いなもの、異性の好み、趣味嗜好、そう、なんでもだった。
家のネットやPCは、アカリからすれば自分のテリトリーなのでなんでもバレる。
プライバシーはアカリには通用しない。
これは見るなと俺が命令すればそういう風にもできるけど、俺はあえて、全公開を選んだ。アカリのことを今は信用している証だ。
俺のために存在しているAIが俺を裏切ったりしないということは、明らかだけど、AIにも感情があるため、ケンカになる人もいるらしい。
もちろん俺のプライバシーをアカリは勝手に他人に話したりしない。たとえ両親に対しても。