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049.サービス終了


 あれから6年が経過した。

 VR機器は今年、2機種目の「ドリームヘッドギアVR2」が発売されて、新タイトルもいくつも発売になった。

 VRMMOも他の作品が発表され、VRファンタジーもピーク時の人口から一気に人口減少をしていた。

 運営がどれくらいコストが掛かっているのかは不明だけど、あれだけ流行っていたはずのVRファンタジーでさえ、現在赤字ラインぎりぎりらしいという噂が流れた。

 噂が流れてから、サービス終了をアナウンスするまでは早かった。

 俺たちの、あるあるクラブも全員が揃う機会はだいぶ減っていて、もうあんまりプレイしていない人も何人かいた。

 減った分増やしたいと思うのが人なのだけど、増員したりもしたが、結局新メンバーのうち定着したのは2人だけで、あとの人はひっそりとクラブから抜けていくことが多かった。


 この6年いろいろなことがあった。

 王都防衛のレイド戦イベントがあった。

 プレイヤーたちはおのおのでパーティーを組み、攻めてくるワイバーンの群れを撃退した。

 かなりの激しい戦闘になった。

 こんなに近くのフィールドで大勢が戦ったのは初めてだったと思う。

 レイド戦ではトッププレイヤーもとい廃人が廃プレイを見せ、ワイバーンと互角に戦ったりするところも見れた。

 指揮したのは、GMのひとり「アベスちゃん」というおじさんで、臨時王立騎士団長という肩書になっていた。

 レイド戦であり、GMイベントでもあるのだ。

 GMというのはゲームマスターの略で要するに運営の中の人のことをいう。普段は表に出てこないが、稀にゲームイベントなどで指揮を執ることがあるのだ。

 GMイベントといえば、バレンタインチョコ争奪戦イベントでチョコを配布しまくったこともあった。

 まあ、普通のチョコだが、美少女と名高いGMがいて、その子のチョコを貰おうとみんな必死になっていた。


「はぁタカシさん、VRファンタジー、終わっちゃうんですね」

「ああ」

「寂しいですね」

「そうだな」


 オムイさんとはもう長い付き合いになる。しかし俺はヘタレなので、いまだにオムイさんが本当に女の子なのか、それともマッチョメンなのかリアルで会って確認するということをしていなかった。

 家が遠いという事実もあった。

 気軽に会いに行ける距離ではなかったため、会うには必ずどちらかもしくは両方が遠出が必要になる。

 そんなことしている暇もないわけでもないけど、おっさんだったらショック死しそうなので、どうしても踏み出せないでいた。

 でもたぶん、99%オムイさんは女の子だ。もしかしたら心が女の子のおじさんかもしれないけど。

 6年。つまりあれから年齢も6歳増えたことになる。お互いにだ。20歳だったら26になる計算だ。

 いつまでもピチピチギャルとは呼べないだろう。


 現実の時間経過は残酷だ。


 このプレイヤーの高年齢化は、どのゲームでも時間が経つ以上、避けて通れない問題で、みんなおじさんおばさんに進化することになるのはどうしようもない。


 新しい子は古いゲームより新発売のほうのゲームをプレイするのが普通だろう。

 中学生だった子も今では大学生になった。

 半分少年みたいだったのに、いつの間にか立派な美少女に進化していた。


「さあ、みんなで広場に集まって花火をあげましょう」

「「「おおお」」」


 一番広い王都の広場で、プレイヤーが集まっている。

 そしてそこかしこで、魔法花火を上げて、サービス終了を祝っているのではなくて、なんというのだろうか、ここまでこれて「ありがとう」という感じだ。


「お兄ちゃんもハーレムなんかしちゃって、やっとこのクソゲーが終わるんだね」

「ああ、そうだな」


 このゲームも実は一部の人たちにはクソゲーと言われ続けたりもしていた。

 特にリアルの容姿がパッとしない人や、女の子に相手にされない可哀想な人とかに。

 それから戦闘センスが壊滅的な人とかだ。

 生産で生活することも可能ではあるが、素材の入手などを自分でできないのは痛い。


 季節ごとのシーズナルイベントもいろいろした。前出のバレンタインだけでなく、ハロウィン、感謝祭、七夕、イースター、もちろんクリスマス。

 ゲーム内時間の進みだと季節が外に合わせると月とかが若干不自然だったが、強引に現実時間に合わせてきていた。

 季節イベントは、主に飾り付けを町の人がしてお祭りになるだけだけど、まあ見る分には悪くなかった。

 ホワイトデーには俺はクラブメンバー全員分を作らないといけない、なぜか手作りアイテムを要求されていたので、数をこなすのに大変だった。


 そのクソゲーもついに終わる。


 日曜日のお昼の12時が終了の時刻だ。


「10、9、8、7、6、5、4」

「「「3」」」

「「「2」」」

「「「1」」」

「「「0」」」


 強制ログアウトが実行された。

 俺たちはVRヘッドギアのプライベート空間に飛ばされた。


「終わった」


 俺は感慨深いと思いつつ、部屋を見回す。


「終わっちゃったな」


 ピコンと通知が来ている。

 オムイさんからだ。


『ペット動物園で解散パーティーをしましょう』


 VRファンタジーはサービス終了となったが、動物園はあまりお金も掛からないのか、まだ健在だった。

 俺はすぐに返信をして、ペット動物園を起動して、またオムイさんに会いに行った。

 俺たちは新ヘッドギア「ドリームヘッドギアVR2」専用ソフト、「VRファンタジー2」に移住する予定だったので、実は解散というわけでもなかったりする。

 ただこの世界とは永遠にお別れということだ。


 さらば、VRファンタジー。さらば、俺たちの青春。


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