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046.登山部


 立体的な3DマップのMMOではほとんど『登山部』のみなさんがいる。

 標高の高い山や、塔などの立体物を登って写真を撮るんだ。


 メイラン村の住民がザリガニ料理を気に入って、養殖をしたらどうか、という話になった。

 そういうわけで本日は、村の沢から水を引いていき、空き地の場所にせきのような形になるように穴を掘って盛土をして、池を作る。

 クラブ員を総動員して、村人からスコップを借りて手伝う。

 重労働だけど、ゲームだから不快感はない。


「世話になるねぇ。土魔法があれば、一発なんだけんどなぁ」


「まじですか。魔法ねぇ」


 魔法便利だな。

 覚えてくればよかった。


「建物も、建築魔法があれば一発だよ。でもかなりの魔法能力者じゃないと習得できないそうだべ」


「なるほど」


「王都でも何人いるか、ってぐらい少ないだわ」


 エリート魔法使いなのだろう。

 俺たちはまだまだ冒険を始めたばかりの中堅冒険者だ。


「若い娘ばっかり、悪いねぇ」


「いえ、大丈夫ですよ」


「お兄さんは、こんなにいると夜も相手が大変だろう。がっはっは」


「ちょっとおじいさん、変な冗談いうのやめてくださいよ。恥ずかしい」


「ばあさん、いいじゃないか。若いっていいねぇ」


 俺たちはそう言う風に見えていると思うと複雑だ。

 KENZENな関係だぞ。

 いまんところ。

 夜は揃ってログアウトしてリアルでおねんねだ。


 まだ夜狩りとかはしたことがなかった。

 夜は平原でもヘビが出たりと、少し違うらしい。



 後日、用意しておいた生きザリガニを輸送して、池に入れる。

 エサは与えるようだけど、どうなるんだろうか。

 そのうち沢の小魚や小エビなどが移動して、エサになると思う。



「タカシさん、登山っ、登山ですよ」


 いつものオムイさんである。


「どうしたの、急に」


「村の人が頂上のほこらを見てきてほしいそうです」


「あー、祠ね。うん、まぁいいよ」


「よし、いつ行きます?」


「いつでもいいよ。途中でログアウトすれば、外泊も必要ないし」


 このゲームではフィールド上でログアウトが可能だ。

 どうせ街中でもPKは襲ってくるし、セーフティーエリアという概念がそもそもない。

 町は「比較的」安全だよ、っていうだけに過ぎない。


「では、リアル時間で明日の午後6時出発でいいですか?」


「うん。いいよ」


「ではメイラン村集合、来れない人は置いていくで、参加は任意で」


「それでよろしく」


「分かりました。メールしておきますね」


 通信兵はオムイさんの担当だ。

 俺は、コミュ障なのでよっぽどのことがないと、女の子たちとメールなんてしない。

 会話アプリだってほとんど使用したことがない。

 ただクラブマスターなので、連絡先は知っているというだけだ。



 翌日。出発時刻になった。もちろん復活ポーションもいくつか用意してある。

 山は意外と敵が強いらしい。

 上に登ると敵のレベルも上がってきて、違う敵も飛んできたりする。

 そう、飛んでくるらしい。


「では、参加者はこれで全員ですか」


「「「はーい」」」


「出発します」


 オムイさんの号令で、森を進む。

 キノコなども見つかるが、ほとんど取らないで進む。

 どうしてもほしいときだけ、ちょっと取ることもある。

 アイテムボックスに入れておけば、腐ったりもしない。


 キノコ以外にも、ブルーベリーや野イチゴなども時折見かける。

 オムイさんが新しい種類を見つけるたびに、止まって収穫するので、待つしかない。

 オムイさんの権力は強いのだ。


 今日のメンバーは、俺、オムイ、ルルコ、ユマル、セリナのルルコ組だけだ。

 他のメンバーは来たいほどではなく、誰々が行かないなら私も、と言う感じで今回はお休みになった。


 このメンバーがいれば十分なので、問題はない。

 むしろ人数が多いと、小回りが利かないので、問題になることもある。

 まぁ最悪でも、帰還石で帰ってもらえばいいので、ついて来てくれた場合でも問題はなかった。


「だんだん斜面になってきましたね」


「おお」


 山道になってきた。

 登山道のような、かすかな道の跡があるので、それを辿って進んでいく。


「山は男ですよね。男体山とかいいますし」


「ああ、そうだな」


「うっほ。男の聖地、山登り」


 セリナがいたな。

 今日も腐女子力をやや発揮している。


 ゲームなので、女の子たちでも体力も十分で余裕がある。

 歌とか歌いながら登っていく。

 女の子の声だと、なんでも許せるから不思議だ。

 これがおっさんだとうるさいなぁとか思うかもしれない。


「高い木がなくなりましたね」


「ああ、森林限界だな」


「そういいますね。タカシさんはなんでも知ってますね」


「なんでもじゃないよ、知ってることだけ知ってるさ」


「あはは」


 森林限界は登山部なら知ってて当然だろう。

 この辺は、それほど高緯度ではないので、森林限界はかなり高い。

 具体的にいうと標高2500mぐらいだ。

 かなりの高山なのではないかと。


「凄い、よく見えます」


「ああ、王都が見えるな。離宮島、戦艦島も見える」


「本当です。マクルリアン全域が見えるのかな?」


「かもな。俺も地理にはあんまり詳しくない。本当はそろそろ調べておかないといけないんだけど」


「ミニマップとかなくて、WIKIも文章と文字だけの表みたいのですもんね」


「ああ、誰か絵にしてくれると助かるんだけどね」


「ですよねぇ。まっぱーさんって言うんでしたっけ」


「そそ。シーフ系職業、マッパーさん」


「真っ裸みたいですね」


「露出狂じゃないんだからねっ」


 俺のギャクは受けなかった。悲しい。

 たまに敵も出てくる。


「高原ウサギだ、囲め」


「可愛いっ、きゃっ」


 オムイさんのハートを掴んだようだ。

 しかし敵である以上、戦わなければならない運命だった。

 槍でペチペチしたら死んでしまった。


 高原ウサギのドロップの皮は、断熱に優れ、高値で取引されるようだ。


「ということで、マフラーか何かにするといいよ」


「私のうさちゃんが、死んじゃった」


「死んでもこうして役に立ってくれるじゃん。いつかテイムが普及するのを待とうな」


「でも死んだうさちゃんは生き返ったりしませんもん」


「まあそうだけど、南無三」


 やっつけないと、延々と後ろを追いかけてきて攻撃してくるんで、倒すしかなかった。

 ひょっとするとテイムできるのでは、と少し思って手を出したらガブリとやられたよ。


 いい景色とか、女の子たちが楽しそうなのを撮影しておく。

 撮影は意識操作だけでできるが、手を四角くクロスさせて枠を作る動作でも撮影できる。

 枠を作っての撮影は、人物を撮るときのマナーみたいなものだ。

 隠し撮りも可能だけど、運営による検閲があるとただし書きされている。

 好きな子の写真くらいは見逃してくれるらしいが、ストーカーになっているのは、検閲で一発BANもあり得るという噂だ。


 着替えは一瞬で裸にはならないし、トイレは存在しない。

 ホテルでなんかするのは、自己責任だ。

 もちろんそのときの撮影も含めてということになっている。

 犯罪で拘束されると、撮影ポーズなんかとれないので、こういう仕様らしい。

 ちなみに撮影しなくても、ユーザーの行動近辺はログも記録されているので、ある程度は過去を辿れるらしい。

 プライバシーは、という問題もあるが、運営が把握していないというのも困るので、運営が情報を公開しない上で記録するしかない。


「なんか黒いの来てるにゃん」


 ユマルの警告だ。

 前衛さんは野性の勘が結構いい。


「オオガラスだな。モンスターだ。投石いってみよう」


 俺たちはみんなで小石を投げる。

 玉入れみたいになった。

 カラスは投石を避けつつ攻撃しようと、近づいてくる。

 近づけば、命中しやすくなるので、何回かヒットした。

 そのうち逃げていった。


「逃げましたね」


「WIKIには書いてなかったけど投石有効だな」


「魔法は当たらないと、MP切れに注意と書いてありました」


「矢も拾うのが面倒なので推奨しないと書いてありましたね」


「そんなもんさ。石投げがスキルとして認知されてないのが悪い」


「まあ、投石鍛えてる人はうちのクラブぐらいでしょうね」


 世の中、変な人は多いので俺は結構いるとは思う。

 このオオガラスはレベルも結構高いので、接近戦になったらキツいかもしれない。


「つっきまっしたっ」


 オムイさんは嬉しそうだ。

 テーラル山山頂、360度、ビューイング。

 マクルリアンも一望できるだけでなく反対側もよく見える。


 近くには森が広がり、草原、山、さらに向こう側は分からない。

 町らしきものも何か所かある。

 違う方向にも森があり、山、そして少しだけ砂漠のようなものも見える。


 山頂のすぐ横にほこらがあるので、日本式だけど両手を合わせておく。

 村人に預かったお供え物のパンみたいなものを置いておく。

 記念撮影をした。

 風が強いので少し下ったところに移動して、そこで簡易的な夕ご飯を食べる。

 ログアウトをして、翌日、再ログインして歩いて戻ってきて任務終了になった。


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