というわけで、本日は北部山岳地帯、テーラル山に来ている。
メンバーは俺、オムイ、リリー、ルルコ、ユマル、以上敬称略。
いままでMMORPGでもキノコはたくさん出てきた。
なかには栽培できるゲームもあった。
しかしVRではないので味は分からなかった。
非常に悔しい思いをしてきた。
今の俺たちは違う。
VRでは味覚再現はしっかりしている。
いつものハーフアーマーを着込んで、山の森を進む。
キノコにも季節はあるが、年間を通してなんらかの種類は生えている。
ゲームだから一年中生えてても問題ない。
メイラン村、ポータルから北へ進み、山を登る。
現実世界なら、キノコの判別は至難の技だが、ゲームには鑑定機能がある。
イージーモードだ。
イージーでないのは、敵が出てくるので、死ぬ可能性がある。
でも大丈夫。みんな強いから。
ちなみにこのゲームでは鑑定はスキルではなく、いち基本機能として実装されている。
レベルとかもなく、みな平等だ。
北欧では原生林が残っていて、ブルーベリーやキノコがたくさん生えている。
国民は森のそれらを取る権利が明記されていて、自由に採ることができるそうだ。
俺たちの国では原生林はほとんど残っていない。
スギ林ばかりにしてしまい、生物多様性も怪しくなっていた。
広葉樹林にキノコは多い。
異世界ではどうかというと、注意して見ていると、たくさん生えている。
シイの木にはシイタケ、マツにはマツタケ。
エノキタケにマイタケ。
名前も知らないけど食用キノコは多い。
もちろん毒キノコも用意されていて、鑑定は必須だった。
「シイタケは倒木に多いですね」
「ホダ木と一緒だからね」
「マツタケは生きたマツの木の周辺の土の上に生えるんですね」
「そそ。キノコによって植生が違うね。同定の参考にもなるし、鑑定があるから不要だけど、鑑定前に見ただけである程度判別できると便利でそ」
「はい」
キノコによって生える木が違う。
地面に生えるタイプ、生きた木に生えるタイプ、朽木に生えるタイプなどがある。
それで、キノコの種類を確定することを「同定」という。
しかしプロでも間違えることがあるくらい、かなり難しい。
現実ではマツタケそっくりのバカマツタケというのもある。
シメジにもイッポンシメジなど似ているキノコがあり、さらに強い有毒だったりする。
色形は毒性の参考にならない。
真っ赤やムラサキでも可食だったりする。
実際にムラサキシメジは美味しいらしい。俺は取って食わなかったが見たことはある。
ここはマクルリアンという国で黄色いマクルタケというキノコが地面によく生えていた。
鑑定君いわく、食用で美味しいらしい。
ただこの辺の土地は、アベルボアに加えて、アベルベアも出る地元民にとっては危険地帯なので、あまり流通していない。
村人の中でも、レベルが高い感じの人たちがチームを組んでやっと山のキノコなどを採りに行ける。
NPCは俺たちと違って、死んだら生き返らない。
文字通りの命がけだった。
現実の話をする。
キノコに詳しい人のホームページを見ると、種類が不明というキノコが結構ある。
かなり詳しい人でも謎の種類があるっていうのに驚く。
魚もサンゴ礁とか深海の映像だと「○○ウオの仲間」という風に紹介されていることがある。
仲間ということは別種だけど、よく分からないということだ。
哺乳類や鳥類はあまりそういうことはないけど、魚とキノコは不明種が結構ある。
次はゲームの話をする。
鑑定君は、誰も知らないキノコを何と言う名前で紹介してくれるだろうか。
「不明のキノコ」とか鑑定されたら面白いけど、それでは鑑定になっていない。
全知全能の神様がいるんだろうか。
発見者が名前を付ける権利が貰えるとかあると、面白いかもしれない。
これは装備とかの製造でも言えることだ。
俺も密かに、可愛いローファーを「オム子ローファー」と呼んでいるし。
何はともあれ、不明なキノコを食べるのは危険だ。
美味しいなら名前が知られている可能性が高い。
名前がないのは、不味いか誰も知らない毒キノコのどちらかだろう。
「結構採れたね」
「マツタケなんて、匂いのいい国産とか食べたことないです。親も食べさせてくれなかったし」
「焼いて、醤油掛けるのが最高なんだけど、醤油がない」
「ううう。醤油。今すぐ作ってください」
オムイさんも悲しそうだ。
魚や貝や甲殻類もそうだったが、焼いて醤油だけでもかなり美味いのに、それができないのは、残酷だった。
これは早く世界を開拓せよという、運営からの無言の圧力だろう。
日本人への開発元の同胞からの圧力に他ならない。
よし決めた。
早く醤油か魚醤、探すぜ。
「俺、醤油探す旅に出るよ。ぐずぐずしていられないな」
「はい。私も付き合いますね」
「おお、攻略組はダンジョンとか探索して世界マップを広げるより、お宝探しに忙しいみたいだし」
「そうなんですか。私たちはフィールド探検ですね」
「そうだね」
中期目標が決まった。醤油探して、世界を旅しよう。
ちょっと小ネタを紹介。
マッシュルームは、そういう名前のキノコのこともさすが、キノコ一般全部の英語名でもある。
そのマッシュルームは、ものによっては現代でも馬糞に生えるのを収穫している。
だから、マッシュルームはウンコでできてる。
これ本当。
ただし糞を一切使わない、
「ウンコネタ好きですね。最初も馬糞の話してました」
「そうだったな。あれから1か月ぐらいか」
「はい。早かったですね。まだまだしてないことたくさんあります」
「ああ、早く世界を飛び回ろう。クリスタル転移でね」
「転移無効アイテムの行商人も面白いって言ってましたよね」
「うん。機会があったら少しやってみてもいいな。でもまだ噂しかないんだよね」
「そうでしたね」
のんびり、戻ってくる途中、アベルベアに出くわした。
現実でキノコ狩りでクマに襲われたら、新聞記事になってしまう。
ここは異世界、よくあることだ。
「おっと、戦闘態勢、正面ユマルよろ、バックアップはリリー」
「ユマル了解にゃん」
「リリー了解です」
大きなリリーと、すばしっこいユマルでクマの相手をしてもらう。
俺たちは隙を見つけて、殴りつける。
もちろん「殴る」は戦うという意味で、本当にこぶしで勝負するわけではない。
俺は槍で誰よりもリーチがあって、少し卑怯だが、モンスター相手に卑怯もへったくれもない。
ぐああおおお。
クマさん大迫力。
モンスターだけあって、大きさもかなりでかい。
この辺の通常MOBの中では最大級だ。
普通に地道に攻撃を繰り返し、なんとか倒すことができた。
え、もっと戦闘をかっこよく演出しろって?
これは、あるあるを紹介する話であって、VRゲームの戦闘描写は苦手と書いたはずだ。
避けたり、得物で受けたりして、ちくちく剣先、穂先で攻撃するだけだし。
魔法系もアタックとダブルアタック、ファイヤエンチャントなどを使うだけだ。
わりと地味なので、書くほどでもない。
このゲームは身体的に自分が制御できないことはできないので、派手な動きもあまりしない。
派手なはずのファンタジーで、地味な戦闘描写をしてもしょうがない。
村に戻ってきて、村人とキノコパーティーを開催してみた。
合成調味料もいいが、シイタケはありがたい。
昆布とカツオ節がないので、出汁を取りにくい。
魚のアラとかエビカニと貝類でもいい出汁は出るけど、結構自己主張が強めなのだ。
シイタケと塩とレモンのお吸い物とかも美味しかった。
マツタケは焼くに限る。
マツタケご飯も美味しいが、醤油も出汁も米もない。嫌がらせに思えてくる。
天ぷらは可能だった。
アラ塩で食べると最高だった。
天つゆもないんでね。
カエル肉の天ぷらも出しておく。
ザリガニスープも村人に振る舞ったけど、好評だった。
村長に名誉メイラン村民の称号を頂いた。
称号は肩書きで、システム的なものでもあり、この世界の文化の一部でもある。
人口は50人いないぐらいで、本当に小さい村だ。
転移水晶があるので、それの管理をしているのと、周りで畑をしているくらいだ。
街のごみごみしているのが嫌いな人が集まっているらしい。