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036.安定期


 MMOをやったことがある人なら分かると思うが、いわゆる『安定期』みたいな期間がある。

 凄く面白いというほどではないが、なんとなく続けてしまう。

 そんな期間だ。


 最初のチュートリアル期間を終えると、固定パーティーやソロでのレベル上げ期間になる。

 敵を倒して、お金を稼ぎ、武器防具を更新する。それの繰り返しだ。

 新マップに移動すれば敵が変わるので、多少の新鮮味もある。いままで勝てなかった敵に勝てるようになると、成長も実感できるものだ。



 万単位のプレイヤーで誰でも知ってる有名人なんているはずもなく、自分たちの中では、わりと有名とかいう狭い世界はある。

 公式タイアップのアイドルでさえ、興味のない人には見向きもされず「そんな人知らない」の一言で終わらされる。

 世の中そんなものである。


 小説の登場人物は有名人とか、出てきたり、主人公本人が有名だったりもするけど、知らないプレイヤーが多数派だったとしても、何も驚きではないっていうことだ。

 公式の対戦でさえ、興味のない人や、悪目立ちしたくない人はスルーするし、その間にレベル上げしていたほうが本人のためにもなる。

 人の興味なんてその程度だから、全員が知ってる人は「かなりの変人」である可能性が高い。

 そして嫌われている確率もかなり高い。

 誰からも嫌われないキャラなんて、空想でもおかしいだけだ。

 飛び抜けて強い人は「チーター」「バグ利用者」「RMT」「廃人」「廃課金厨」のように、非難の格好の餌食にされる。

 当たり前中の当たり前のことだ。

 擁護しようものなら「信者」「本人乙」「取り巻きうざい」である。

 本当の実力者であっても、誹謗ひぼう中傷は避けようがないんだ。


 またなんでこんな話をしているのかというと、俺が「美少女ハーレム野郎」として晒しスレに晒されて、プチ祭りになったからだ。


 勇者気取り。

 リア充は死すベシ。

 PKしようぜ。

 別にイケメンでもないのになんでこんなやつ。


 色々あること、ないこと、書かれていた。

 ちなみに、ほとんどは憶測による、ないことだった。

 知り合いは、みんな苦笑いだ。

 俺たちのクラブはあれからもオムイマジックに女の子たちが集まって倍の10人になっていた。

 どの子も可愛いし、中には身体スキャン組の若い子もいる。

 そして俺は少しいじられるキャラで、リーダーではあるが、まとめているのも人望もオムイさんにある。

 もしオムイさんが辞めたらバラバラになるかもしれない。

 だから実態を知っている人は、みんな苦笑いなのだった。

 そしてここ最近は安定期で余裕があったのに、この仕打ちである。

 悲しい。


「マスター苦労してるね」


 と新入りの子にさえ言われた。


 クラブといってもハウスもまだなく、複数のパーティーに別れて普通に活動していた。

 そして、新人が増えたので、紹介のために冒険者ギルド中央店に集まっただけで、この騒ぎになった。


 確かに俺が仕切っていたし、一見ハーレムだが、スクショじゃあ分からないかもしれない。


 あと正確に記すなら8人の女性アバターとひとりの男の子アバターだ。

 オムイさんは本当に男の娘を連れてきてしまった。

 裸にひん剥いてはいないが、中身女性で外見男の娘だそうだが、確かに少し男かもっぽいけど、女の子と紹介されても信じそうな可愛さだった。

 色白で線の細い子だ。


「2人組で中身女の子で、タカシさん好きそうなタイプだよ」


 そのようにオムイさんが紹介してきた。

 確かに性格も丸い感じの優しそうな、俺のタイプだった。

 俺はオムイさんの俺への洞察力に戦慄した。


「男の娘なんだ? なんで?」


「なんでって、この可愛さ分かりませんか? リーダー」


「分かるけど、分かっちゃダメな気もする」


「正直でいいですね。そういうところ、好きですよ」


 男の娘は、そういってウインクを決める。めちゃくちゃ決まっていた。


 そうやって新入りとコミュニケーションを取っていただけだったのに。

 やれやれ。


 先に加わった3人は身体スキャンだ。

 長身のリリー。

 ザ・普通のタナカさん。

 2人目の巨乳ニーナ。

 今回加わった、男の娘カロン。

 カロンの妹の中学生、カンナ。


 どの子もそれなりに可愛いよ。


 クラブ設立後、俺たちは普通に冒険を進めた。

 北森の先にあるメイラン村に行った。

 王都から西へ進んで、草原を越えた先にもマルクーン村があった。

 南を進むと、沼地地帯を必死に越えて、トロリン村だ。


 小説によっては、最初の国のエリア位しか活動しない場合があったりする。

 現実のMMOも、最初実装されたのがひとつの国の範囲ぐらいで、正式サービスになってからの長い開発をして、数か国を実装できたみたいなものが多かったようだ。

 理由は簡単だ。開発メンバーも足りないし、予算もない。

 2Dゲームならそれほどでないのだけど、3Dの超高画質グラフィックとかいう、見た目至上主義により、多くの予算が狭いマップに投入されたのだ。

 人間がやるには、世界は広すぎたのだろう。

 そこでAIの登場だ。世界地図と、いろいろな特徴をディレクターの人が考えておく。それをAIが作り上げていけばいいだけだ。

 必要なのはAIの数と膨大なデータを保管して、そして分割して開発した地図をうまく繋げる作業ぐらいだ。

 世界の設計は、ストーリーがなくともある程度の物語感を必要とするだろう。

 例えば、エルフの国、魔界、魔王の国、ドワーフの国、妖精、ドラゴンなど、どれぐらい世界を旅したら出会えるか設計に盛り込む必要がある。

 そういう要素がない、ただの中世再現ゲームなら別だけど、他種族との交流だって、ファンタジーで体験したいことのひとつだから、ないとユーザーに文句を言われても仕方がない。


 今のところ、新しい敵、新しい装備、新しい村というの以外、特別に触れておきたい要素はなかった。

 普通の小説ならそれらを順番に並べて、次々紹介していくものだけど、この話はあるあるを紹介するのがメインで、ゲーム攻略をする話ではないので、割愛させていただく。


 東方面について、まだ触れていなかった。

 東には港があり、海が広がっている。

 すぐ沖には島があり「戦艦島」と呼ばれていて、要塞化されていた。


 要塞の内部は、鉄鉱石の地下採石場があり、現在は半ダンジョンと化しているが、冒険者が鉄を求めて現在も往来がある。

 俺たちはまだ船に乗ってここまで行ったことはない。


 戦艦島の隣には王宮の離宮島もある。

 映像なしで観光旅行しても、なかなか寂しいものがあるので、あるある的にはあとどんなことを紹介すればいいか悩むところだ。


 ちなみに、3日経っても1週間過ぎても、PKはされなかった。


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