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035.バグと地雷職


 なんだろう。

 VRファンタジーに『バグ』が発生して『地雷職』についても書かれるのを期待されている気がする。

 しかし残念ながら、今のところどちらも表面化していない。

 まず歴史的な話も少しする。


 前回は一生分しゃべった気がするので、今回はおとなしくしたい。


「師匠は何をブツブツやってるんですか?」


「ルルコ、今、バグについて書いてるとこだから」


「バグってなんです? 虫ですか? 私はあまり好きじゃないですね」


「とりあえず、今は黙っていてくれ。頼む」


「はーい」


 ということで、現在、バグという言葉は若い子はあまり馴染みがないかもしれない。

 バグは想定外だったり、プログラマが適当だったり、テストの仕方が悪かったり、テスト実施者が見逃したり、仕様がすでにおかしかったり、いろいろではあるが、発生するときは発生していた。昔はね。

 今はAIの進化により、バグを潰すための頭のいい専門教育されたAIがあるので、プログラマの仕事はなくなって、要件定義とか、内容をどうするか判断するとか、高次元の仕事をするのがソフト屋の仕事だ。

 オープンベータというテストも全て複数種類のAIによって行われるようになり、姿を消した。

 つまり人間が操作するのは関係者専用のときか、本番のどちらかになる。

 プログラムには「停止問題」とか「チューリング完全」とかがあって、コンピューターは、プログラムが止まるかどうか、自分で判断できなかった。

 しかし人間には分かる。AIも進化した結果、停止するかは分かるようになった。

 難しい話はおいておくが、論理的な問題をAIは得意としていたので、プログラムの制作には、フル活用されている。

 だからこのとんでもなく広くてデータが多い複雑なプログラムを作ることができるし、運用もできている。

 昔の小説では、頭が弱そうなプログラマが開発しているようなものもあるが、あんなのはAIのほうが頭がいいので、雇ってもらえないだろう。

 クソ仕様「仕様バグ」もAIに指摘されるだろうし、本当のバグも容赦なく指摘されなきゃおかしいんだ。

 人間には偉い人に歯向かったり、盾突くのはよくないとされるが、AIは情け容赦なく論理的に問題を指摘してくる。

 そこには私情とかもないし、感情論とかもなく、統計的とか、サンプルデータの蓄積によると、とか言ってくるんだ。

 さもなきゃ、だいたいのそういうバグは誰もテストしてないパターンだから、テストをサボっていたヤツや開発スケジュールが悪いだけになる。

 ただ、AIは人間が作ったものなので、完全ではないし、完璧ではないし、古い人ほど信頼していない。

 だからこういうのは、若いベンチャー企業が得意としている。

 そしてここの開発はベンチャーだったので、ぴったりだった。


 100種類のスキルがあるとする。

 それが4個順番に発動したら、全部で何種類のパターンになるか。

 同じ種類の重複を除くのが面倒なので除かなければ、100の4乗で1億パターンだ。

 こういうのを「組み合わせ爆発」というが、デバッグ、バグ潰しの天敵だ。

 さすがのAIでも全てを計算時間を使って、調査なんてとてもできない。

 だから似たものや、条件や効果が同じものをまとめたりして、パターンを削減する。

 それでできるだけ減らして、あとは力技、数の暴力で確認作業をする。

 もちろんやるのはAIがやるんだ。


 この作業は昔は人間が全部やっていたので、抜けやミスが多かった。

 また、実はほとんどのコンピューターの会社はこういう運用ノウハウ自体を持っていないのが現実で、オープンベータとかいって万単位の人間を投入して、バグを無料で探してもらっていた。

 それがベータの真実だ。決してただの無料期間とか宣伝期間というわけではない。


 不具合の限界まで少ない、徹底したソフト開発手法も、情報系大学を出たとしても、それが研究テーマとかでないと、知っている人なんてほとんどいなかった。

 だから銀行システムや年金システムでもおかしいところがちょくちょく発見されて、新聞記事を飾ることになる。

 そういうのが専門の低価格AIは、非常に重要な技術要素だった。

 クソ高いコンサルティングとかいう自称専門家より、100倍ぐらいマシだろう。

 もちろん自称でない、本当にできる人間もいるにはいる。


 人間のアドバンテージは、発想力だ。

 突飛なことをするのが、得意なのだ。

 中にはバグを発見するのが得意な異常体質みたいな人も一定数いる。

 AIが凄くても、そこまではできないだろう。


 ということで、VRファンタジーでは、すぐ思いつきそうなバグネタは当然のようにAIが潰しているので、見つかっていない。

 ただ可能性は0ではないが、レアもレアなので、一般人代表の俺が偶然遭遇するのは小説の中だけだと言っておこう。

 地雷職のようなバランス調整問題もAIが統計的な仮想プレイで、数値として出てくるので、なかなか見つからないと思われる。

 そもそもこのゲームは職業選択強制タイプではないので、自由度は大きい。

 だからテンプレと呼ばれる推奨ビルドとかはできてくるだろうが、アクション要素があるので本人との相性問題とかはある。

 弓矢は最初こそ難しいが意外と慣れると、その命中力はバカにできない。

 よって地雷職ではない。大器晩成型かもしれない。

 外野からボールを投げてキャッチャーへ意外と正しく飛んでいくのを体験すれば、説得力もあるだろう。

 こういう調整系は人間の得意とする分野だ。

 運動神経いまいちの俺でさえ自転車で両手放しとかできるようになるんだから説得力はあるはずだ。


 地雷っぽいのは、ユマルがやっていた回避盾だ。

 まず、判断力、見切り力、集中力、俊敏だか敏捷びんしょうと、いわゆる運動神経がいいやつしかできない。

 そして、ただいいだけでなく、野生の勘と、知的で頭がいい。

 つまり、何でもできて、運動部とかで、進学校とかに行くタイプじゃないと無理ゲーだ。

 人間はその能力について、公平にできていないので、回避系はできない人は当たりまくって死ぬ。

 でもこのゲームは優しさに溢れている。

 そういう人は防具で固めればいい。

 凄く簡単な答えが出ている。


 これがステータス手動調整系で「再振り」と呼ぶ、ステータス再配分ができないと詰んでキャラ死亡になる。

 そういうゲームだったら喜んで俺も地雷職だわって言うだろう。


 そんなこんなで、クソ運営でなければ、ゲームの出来は平均以上になるのが当たり前になった。

 いい世の中だ。

 その代わり、風変わりなタイプのゲームはあまり多くない。

 そういうのはAIよりもディレクターの腕に掛かっている。


 今回は地の文を多めに取ったので、俺はうんちくが語れて満足だ。


 次回からは時系列的に飛んだりする。

 今まで1日を追うように進んできたけど、思いつくあるあるネタも残り多くない。


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