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033.RMT


 ネットの闇は、掲示板だけじゃない。

 よく言われるのが『RMT』だ。


 Real Money Trade、現実通貨取引とでもいうもので、現金でゲーム外での取引を行うものだ。

 MMOで有名なのは、ゲーム通貨取引、レア装備、アカウント取引の3種類だ。

 他にはレベル上げ代行なども存在しているらしい。

 多くは中間業者がいる。


 一番問題だったのは、BOTに関係してくる。

 BOTとはボット、ロボットのことで、自動化されたキャラのことを指す。

 多くのゲームでは非公式のBOTはチート行為を含め規約違反に当たる。

 昔のゲームで業者は大量のBOTを運用して、RMTで売るためのゲーム内通貨を稼いでいた。

 そのためフィールドにはチートを使う業者のBOTが蔓延まんえいして、酷い状態のゲームもあった。

 明らかに異常なので、対応しない運営も非難された。


 RMTのために、稼ぎに来る外国人などもいた。

 マナーなどを知らないために非難の的になった。


 同様にRMTで稼ごうとする廃人もいる。

 こちらもゲーム内で稼ぐこと、レアを取得することしか頭にないため、マナーが悪く非難される。


 アカウント転売問題もある。

 ある日突然、中身の人が変わるのだ。

 交友関係もあるだろうに、買った人はどうするつもりだったのか。

 交友関係がなくても、aekdueksみたいな適当な名前だったら、明らかに業者系かBOTのたぐいで、RMTでアカウントを買ったと思われるだろう。

 そんなんで、楽しいのかは疑問があるが、実際に買う人がいるというのは、紛れもない事実だ。


 VRは恐ろしい。

 アカウントは盗めないし、転売もできない。

 本人以外が操作することができない。

 それはそれで、本人が死亡した後に、家族がアイテムを回収したいなど、問題があることもある。

 発展途上国の人が操作する「肉入りBOT」は防げないが普通のPCのBOTは完全に排除できる。

 RMTの旨味があまりないので、そこまで被害も今のところない。

 まぁまだ始まって3週間なので、今後どうなるかは分からない。


 一方で、公式がRMTのようなマーケットを開いて、事実上の換金が可能なゲームもある。

 多くのゲームではRMTは規約違反だが、こうやって取り込むことも可能なのだ。


 どちらがいい、悪いは一律で判断することはできない。

 公式RMTもお金で強くなれるという公平性の問題がある。

 RMTがないピュアな世界を求めている人も多いが、最初の話で書いたように悪いことをする人はどこの世界にもいるし、抜け道を探す人はいっぱいいる。


 楽して強くなりたい、は世の中の心理だ。


 でだ、今回なんでRMTの話をこそこそしているかと言うと、少し時間がさかのぼる。


 現実の夕方、ログインした俺たちは、朝飯を食べに露店街に来ていた。

 今日の店は中華まん風の店で、なかなか美味しい。

 このエビまん。エビぷりぷりで風味もよくて、凄くいい。

 肉まんも美味しかったから、このお店は当たりだ。

 それはいいが、2軒隣のお店にキンキラの全身鎧でパスタを食べている客が、明らかにVRゲーム素人なのだ。

 まず動きがぎこちない。

 そして飯を食べているのに、メイン装備のキンキラソードを仕舞おうとも思っていない。

 このゲームでは盗難もあるので、あのクソ高そうな剣を仕舞わないのがおかしすぎるのだ。

 マナー違反とも言える。


 あの金。キンキラはオリハルコン特有の光で、数日前に発見されたばかりの最前線での装備だった。

 それを初心者が装備している。


 どっから見ても「RMTだろお前」である。


 ベテランが買うこともあるRMTだが、買う側は初心者でも構わないのがRMTだ。

 なにも努力していないのに、最新装備が買えるとかも、RMTの非難の一部だ。

 ただし、これはガチャゲーやPay to Win、P2Wと呼ばれる課金有利ゲーム一般に言われる問題なので、RMTだけを責められない。


 とにかく、キンキラ君のスクショは取っておいたので、もう少し様子を見よう。

 あんだけ目立つと、装備を売ってしまおうと考えたほうの気持ちも分かる。

 あんなの恥ずかしくて着れない。


 それにレベルが合っていない装備は、ペナルティがあるので補正的にも、あまり彼にはよくないと思う。

 おそらく彼は初心者なので自分は最高装備を着ていると勘違いをしている。

 実際には自分のレベルに合った装備のほうが、その時点では強くなれる。


 あーあ。

 見ている内にベテラン冒険者が声を掛けた。

 これはもう、ダメだろう。

 根掘り葉掘りRMTについて聞かれて、晒し上げか通報ものだろう。


 御愁傷様。


 訓練をしてくれるという甘い理由で笑顔で連れて行かれた。

 どんな訓練が待っているか、見ものだけど、もう関わらないことにする。


「というわけで、治安も悪くなるからRMTはしちゃだめだから」


「師匠さすがです。なんでも詳しいですね」


「お兄ちゃんの言うことは聞くよ」


「ボクだってRMTなんかしないぞ。白けてしまう」


「なるほど、オム子もよく分かりました」


「みんな偉いぞ。そうそう、検索で出てきたRMTの広告はクリックしまくっていいから」


「なんでですか?」


「クリック課金とか言って、クリックすると広告出した業者がお金払うの。個人で出てきた範囲でクリックするのは、問題ない」


「地味な嫌がらせなんですね」


「うん」


 web広告は全自動で行われている。

 現実の広告は広告代理店があって、人間がはさまるので、一定の信頼がある。

 しかしweb広告は違法でなければ、コンピューターが受け付けてしまう。

 RMT広告はそういう、グレーのひとつだ。

 各サイトは、共通の広告プログラムを載せているだけだ。

 広告には、関連キーワードを設定できてそれを検索すると、その広告を同じ系列の広告が表示される別のサイトでピンポイントで表示する仕組みがある。

 サイト管理者はRMT広告を拒否するには、表示された広告を拒否設定に入れる必要がある。

 新しく書かれた広告には意味がなく、イタチごっこになる。

 まとめWIKI運営サイトには、頭の痛い問題らしいが、頑張ってもらうしかない。


「WIKIさんも大変ですね。オム子も応援したいです」


「応援って言っても、できること何もないけどね」


「そうですよね。ぐすん」


 オムイさんは基本いいやつである。


「じゃあさ、冒険者ギルドでゴーレム討伐報酬貰いに行こう」


「「はーい」」


 返事の声も女の子たちは可愛いからいい。

 これが野郎クラブだと、野太い声が響くわけだ。

 俺は本当に運がいいのかもしれない。


 冒険者ギルド中央店に着いた。


 もう初心者の行列はなくなり、外のカウンターも1つだけになっている。

 それでも、遅れてスタートする人がいるのは当然で、何万人ぐらいになると、どうしてもばらけてもらわないと処理できない。


「討伐報酬お願いします」


「はい。ギルドカードをお願いします」


 きれいなお姉さんに言われて、カードを差し出す。

 指が触れてしまって焦る、俺童貞。


「はい、確かにアースゴーレムさんの討伐ですね。特別ボーナスとして100kラリルとなります。他にもクラブ設立の許可を出せますが、みなさん、どうしますか?」


「ちょっと考えさせてください」


「はい。いつでもお待ちしています」


 なるほど、クラブ設立の条件なのか。

 そんなとこまでWIKIを見てなかった。

 そういえば「掲示板見てないの?」みたいなこという小説もたまにあったりするが、膨大な書き込み全部読んでたら、24時間あっても足りなかったりするから、たまに見るだけだ。

 そんなことしてる暇あったら、ゲームか寝てたいだろう普通。


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