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026.クラブとGvG


 言われるがまま、パーティー倉庫を借りに行った。

 場所は冒険者ギルド。カードを作ってもあまり使っていなかったのが、役に立った。

 倉庫開設料を取られたけど、今は余裕があるから大丈夫。

 大きさは一番小さい10マスのもの。

 もっと大きい倉庫は値段も高い。あとで拡張することもできる。

 倉庫へのアクセスは、その時のパーティーメンバーではなく開設したときのメンバーが継続して使える。

 パーティーを解散しても問題ない。倉庫のメンバーの追加や削除はリーダーの仕事だ。

 クラブ倉庫の機能をくっているが、クラブではもっと重要な機能がある。


 1つ目は「クラブハウス」だ。メンバーが自由に出入りできるシェアハウスになる。

 同様に「クラブショップ」というのもある。ハウスをお店に使用したものだが別に借りることも可能だ。

 もちろんハウスを借りるには、かなりの金額を必要とする。

 購入だともっと掛かる。


 2つ目このゲームでは全フィールドPK可能なので実装はされていないが、GvGという対人要素があるゲームも多い。

 Gはギルドの頭文字だ。

 土地や町、要塞などを一定期間所有できる「争奪戦」とか「占領戦」と呼ばれる要素になる。

 墓地のミニダンジョンを黒竜騎士団が占領中だが、こういうのもシステム外の争奪戦要素と言えるかもしれない。

 他のクラブが実力行使で、占有権を奪おうとすることができるはずだ。

 そうなればクラブ同士の戦争状態になる。あぁこの要素を「戦争」と呼ぶゲームもある。

 その場合、GvGよりも大規模な、2陣営方式が多いと思われる。

 プレイヤーはキャラメイクでどちらの陣営にするか決めておくんだ。

 友達と一緒にプレイしたいなら、最初に陣営とサーバーを確認しておく必要があった。

 それを怠ると協力プレイができなくなるぞ。

 なお、クラブ、ギルドの戦力が足りないときに人を雇うことがある。異世界ではお馴染みの職業「傭兵ようへい」だ。

 しっかりと傭兵がシステムに組み込まれているゲームもあった。

 ゲームでは死んでもたいしたことがないので、そういうプレイも盛んだ。

 今回の前半のうんちくは以上だ。



 オムイさんは、先輩、お姉さん、お姉さまと呼ばれていた。

 頼りにされているけど、実際は可愛がられているみたい。

 みんな楽しそうでなによりだ。

 そして師匠扱いの俺。女の子の花園で、男ひとりで肩身が狭い。

 傍から見ればハーレム野郎だが、実際は隅で縮こまっているだけである。


 みんなで楽しく、その辺の屋台で朝ご飯だ。


「師匠、全員分、ヘルメット欲しいです」


 そうルルコに言われたら、作ってやるしかないだろう。オムイさんの分ももちろん心を込めて作った。


 みんなのレベルと戦闘経験を聞く。

 昨日、オムイさんがイノシシ狩りに連れて行ってくれたそうだ。


「今日もイノシシ狩りでいいか? それとも森方面行く?」


「とりあえずイノシシで、お願いします」


「分かった」


 俺は念仏を心の中で唱える。

 ルルコ、ユマル、セリナ。

 ルルコ、ユマル、セリナ。

 ルルコ、ユマル、セリナ。

 間違って同じ行を書いたわけじゃない。


 実名ならもう少し覚えやすいが、プレイヤーネームは覚えにくいこともある。

 同時に3人も女の子が増えて、頭がこんがらがってくる。

 呼び間違えそうになるし、それ以前に名前が出てこない。

 名前だけ覚えたら、顔と名前が一致しない。

 コミュ障あるあるだった。


 これがギルド、クラブとなるとさらに酷い。

 既存クラブに入部すると、元からのメンバー「クラメン」がいる。

 ギルドであるなら「ギルメン」だ。

 10人以上の、一度も会話したことないメンバーが好き勝手に会話しているところに放り込まれるのだ。

 昔のPCのMMOは「ゲーム付きチャットツール」みたいに呼ばれることもある。

 中にはチャットのためだけにゲームに参加する「チャット勢」もいるぐらいだ。

 通称、白チャと呼ばれる周辺の人との会話。

 パーティーチャット。そしてギルドチャットだ。

 さらにチャンネルチャット、全体チャットがあるゲームもある。

 それぞれの入力を切り替えて、発言するわけだ。

 そしてその対象者全員にメッセージが届く。

 それでクラブチャットで顔も性格も性別も年齢すら分からない人たちがたくさんいて、すぐに名前が憶えられて、顔が一致するはずがないんだ。

 そういう状態だと「疎外感」を強く感じて、楽しめなかったり、クラブを辞めたりする。

 楽しくないからゲーム自体から離れることもある。

 そう言う人が、様々な「いつか自分に合うクラブがある」と信じてクラブを渡り鳥のように渡り歩くんだ。

 MMOあるあるだった。

 クラブに定住できない人はおおむね寂しい思いをする。

 逆に結果として交友関係が広がることもあるが、それはほとんど浅いゲームだけの付き合いになる。


 あとは、辛いのはレベル差のあるクラブに入る場合だ。

 一緒に遊べる仲間もいなければ、ゲーム内の話題もついていけなかったり、話がかみ合わなかったりする。

 最初はお客さん的プレイとかして遊んでくれるが、いつまでも構ってくれるわけではない。

 レベルが追い付けないなら、チャット勢になるぐらいしか、一緒に遊べない。

 ゲームとしての「レベル制」がプレイを妨げる原因の一端になっていた。

 身の丈と、自分のゲームポリシーに合ったクラブに入らないと、ツライ思いをすることもある。

 こういうのもMMOあるあるだ。


 ということで全員でイノシシ狩りをする。

 5人で囲むとまるで集団虐めのヤンキーのようだ。

 残滅速度はかなり早い。

 人数で割った効率は最高とはいえないようだけど、効率厨ではないので、気にはしない。

 イノシシも俺ばっかり狙ってこないので楽だ。

 彼女たちも全員お揃いの革鎧にヘルメットだ。靴はお揃いのオム子ローファー。

 イノシシに攻撃されるとオムイさんがリカバリーで回復させている。

 みんなはまだリカバリーを覚えていないようで、アタックしか使っていない。

 初心者丸出しだが、仕方あるまい。

 まだ開始6日目だ。

 成長具合には個人差があって当然だった。


 三人はリア友のようだった。

 少し観察してみる。


 ルルコはリーダー格だ。

 普通に可愛い感じの子でわりと真面目系。

 武器はなんと「棍棒こんぼう」。まさか棍棒とはね。

 棍棒とは、木の棒、野球のバットではない何かだ。

 RPGの初心者装備あるあるだ。


 ユマルは妹系。

 体もミニマルで可愛い系。

 俺のことをお兄ちゃんと呼ぶプレイをしてくれる。

 武器はハンマー。正確に言うならアイアン・ウォー・ハンマーだな。

 ピッケルみたいな感じに先がとがっている。

 ヘッドもそれほど大きくない初心者用だから使いやすそうだ。

 ただ棍棒とかと比べるとお値段が高めだと思う。

 買い物上手で、掘り出しものかもしれない。


 セリナはオタク系。

 話し方はボクっ娘のボーイッシュを目指しているようだが、どう頑張っても男の子には見えない。

 顔はかなりの美人。背は普通。

 そしてお胸様が大きく発達しているのだ。

 それでレザーアーマーが窮屈そうに、ぱっつんぱっつんで、目のやり場に困る。

 なんか俺に向ける目線がエロっちいんだが、雰囲気は恋してる感じではない。

 ゲーマー的な勘からすると、腐女子、腐ったニオイが漂ってくる。

 何はともあれ、彼女がこのゲームを友達に勧めて、段取りをつけたようだ。

 その出会いには感謝したい。

 腐ってもたいならぬ、腐っても女の子である。

 軽度の腐女子程度なら慣れているし、何も問題ない。むしろゲームやサブカルに詳しい分、一番話が合う可能性が高い。

 忘れていた。武器はステッキだ。

 ヘッドのほうを殴りつけるのではなく、下の先のほうが金属製になっていて突き刺すように攻撃している。

 杖にはメイス、ワンド、バトン、ロッド、スタッフと種類がある。

 攻撃方法はシンプルだが、ちょっとマニアックな武器だと思う。


 さまざまな鈍器に攻撃されて、すぐに消えていくイノシシちゃんが哀れである。


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