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027.生産考察と森


 俺たちは夕方までイノシシ狩りをして終了した。

 倉庫に入れておいてもらう予定だったけど、直接俺がまとめて受け取る。

 ルルコたちはあまり生産をする気は、まだないらしい。

 戦闘の体の動きを最適化するのは、本人の勘と訓練による。

 VRでソードスキルによる強制的な動きが可能なら話は別になる。

 このゲームでは今のところ、そういうのはないので、リアルスキルでフォームの訓練と修正という鍛練をするしかない。

 女子は生産一直線みたいな雰囲気がある話もあるが、そんなこと全然なかったな。


 串焼き屋に行きお肉を買い取ってもらい、さらに女の子たちを紹介した。


「タカシさんって女の子ばっかり集めて刺されますよ、物理的にね」


 お店のねえちゃんに言われてしまった。


「怖いゲームだな。やめちゃおうかな。動物園でウリボウとかけっこして遊ぶんだ」


「ペット&動物園って、ネット機能あるんですか?」


「あーあるらしいよ。なんかリア充とスイーツと子供たちで、お一人さまのおっさんは耐えられなくて、オフラインで遊ぶんだそうだ」


「悲しい世の中ですね」


「うん」


 独身彼女なしのおっさんに市民権などというものはなく、非常に冷たい世の中なのだ。

 ゲームの中でもハブられて、辛いだろう。


 お肉のお金が貯まって俺は満足だ。

 5人で分けたから、少し少ないけど誤差みたいな範囲だ。

 それより溜まった皮を売り飛ばしたい。

 ヘルメットの手売りもいいけど、NPCが買い取ってくれれば、露店で売る時間を稼げるのだけど、いい店ないだろうか。


「というわけで、いい店知らない?」


「知らないけど、知り合いに聞いてみるよ」


「サンキュー」


「じゃあ、私たちは落ちますね」


 ルルコたちだ。


「おお。お疲れ。おやすみ」


「師匠、魔法かっこよかったです。おやすみ」


「お兄ちゃん、また遊んでね。おやすみなさい」


「師匠、おやすみ。このあとデートですか。それとも屋台の親父とガチムチ飲み会ですか?」


「そんなことしねーよ。寝ろ腐れ女子」


「ボクは相手にされなくて悲しいな。そんじゃ、おやす」


 ルルコ組が落ちた。

 ああ「落ちる」とはログアウトするという意味だ。

 俺に惚れて、恋人的な「落とす」とはまったく、これっぽっちも関係がない。

 連続して落ちるのを「雪崩なだれ」動詞化して「なだれる」と俺たちは呼んでいた。一般的かまでは分からないが、知ってる人はいると思う。

 サーバーがダウン異常停止する、モンスターのドロップ、ファイルのダウンロードとかも落とす、落ちるという。

 多義的な言葉だね。


 お店を後にして、フリーエリアに移動する。


「なんだか2人だと寂しいですね」


 オムイさんだ。


「うん。俺は別にそうでもないかな。一人も慣れてる」


「自称コミュ障なんでしたっけ」


「自称も他称もないよ。俺はコミュ障だ」


「私とはしゃべれてるじゃないですか。ルルコ組とも仲良くできてます。迷惑でしたか? あの子たちを連れてきて」


「いや、別にいいよ。2人だけでずっとなんて、無理に決まってる。MMOはそういうもんだ」


「あるあるですか」


「そ、あるある。パートナーに頼り過ぎて一人では何もできないゴミキャラになる。そんなんダメだ」


「そうですね」


「オムイさんが下の子の世話ができるみたいで、俺は嬉しかったさ。成長したみたいに見える。そうやってプレイヤーが支え合って生活するのが、俺たちが求めてきたMMORPGの姿だよ。WIKIと匿名掲示板しか頼れないソロプレイとか、どこがMMOなんだっていうんだ」


「あはは。理想とかあるんですね」


「そりゃあね。人のシステムによる強制ではない緩い交流。それがMMORPGだ。強制はギスギスオンラインだかんな。自主性にも意味がある」


「強制マッチングの地雷プレイヤーをブラックリストに入れるリスト育成ゲームなんでしたよね」


「そそ。よく覚えてたね」


「それは覚えますよ。多少は衝撃ですし。同じジャンルでも色々なんだなって思いました」


「VRはそれなりに快適だな。今のところ。PKできても収監されるの知ってるから、みんなしない。平和なもんだ。それでもフレンドリーファイヤの緊張感もある。ぬるゲーではないけど、マゾいわけでも今のところない。最強目指すなら別かもしれんがね」


 フリーエリアに到着。

 オムイさんと二人でヘルメットと靴を量産することにした。

 ヘルメットを20個。革靴を10個。オム子ローファーを10個作る。


 今日も対面販売をして様子を見る。

 日の入りまでに全部何とか売り切った。

 あぁそうそう、縄文パンツはまだ売れ残ってる。悲しい。不良債権だった。

 需要がないアイテムはとことん売れないことが多い。

 逆に稀になぜ売れるのか分からないアイテムが売れることもある。

 他人の思考までは理解できないもんだ。

 そういうこともMMOあるあるである。


 ABC分析、パレート図というものがある。

 2割の製品が8割の数出ていて、利益の8割を出しているという図だ。

 Aがよく売れるもの。Bがまぁまぁ。Cが全然売れない。

 Cはコスパが悪いので止めたほうがいい。

 標準偏差も考え方としては似ている。

 ピークの部分が特に多くて、左右の隅のほうは値が特に少ない。

 比例関係みたいに真っ直ぐな分布にはならないのが自然の法則だ。

 まさに縄文パンツはこのCに当たる。

 ただし大量生産の考え方なので、個人レベルではニッチ市場という考え方もある。

 100万個売れるなら1万個は誤差だ。

 生産数が少なくて100個売れるという話なら、1万個売れるならそっちのほうがいい。

 ニッチの中のニッチが縄文パンツに当たるということになる。

 選択と集中という。

 だから人気がない新製品は一瞬で市場から消える現象が発生する。


 ただしこれは20世紀的、大量生産側の考え方だった。

 多品種生産はコストが高くなりやすいからだ。

 ロングテールという言葉もある。

 これはさっきのCに該当する製品でも多品種を少しずつ買う層がいて、合計すると結構な数になるという話だ。

 だから大量の少ししか売れない品を少しずつニーズにあった種類並べても利益になることがある。

 これは陳列コストなどが安い場合にできる手法でネット通販の考え方でもある。

 まさにニッチ市場で大儲けの考え方がロングテールだ。


 オムイさんとお金を半分こして、所持金は一気に400kになった。

 利益率の高い材料が手に入ると売れさえすれば、かなり儲けが出る。

 それが生産だった。

 店売りの材料の生産品で売れるのは、生産手段がレアスキルとかレシピが必須で貴重とか、いくつか制限がある。

 一部のモンスター素材の生産品は、ドロップを取ってくるのに時間が掛かるため時給換算だと儲けが少ない。

 経験値上げと同時に素材集めになると一番楽でいい。

 ドロップ品も面倒くさいなど様々な理由でNPCに売却されるのが普通だと、プレイヤーの生産に回ってこないので、競合が少ない。

 そういう場合は需要も少ないので、たくさん作っても売れ残ることがある。

 ただし、プレイヤーがたくさんいれば、意外と売れる機会はある。

 しょっぱな6日目に生産しまくるのは、初心者ではない。

 ファンタジーは「戦闘ありき」だと思ってる層も結構いる。

 逆に生産こそがMMOだというやつも当然いる。

 ただし材料の都合で大量生産はできないから、ちょっと作って終わりで、需要を完全カバーしてない。

 そんな感じで回ってる。


「じゃあ、今日も売れてよかったですね。また明日。アディオス、トメロ」


「うん。アディオス、トメロ?」


 本日の冒険の書の言葉は「トメロ」だそうだ。

 オムイさんは粒子になって消えていった。



 次の日、俺たちは午後6時、ゲーム内の日の出時刻に集合した。

 イノシシとはお別れだ。さらばだ諸君。


 本日は北側、森を目指す。

 上からヘビが落ちてくるらしい。

 ヘルメットは必須ではないが、あると少しだけ気分がいい。

 安心できる。

 HPという概念のため、どこでくらっても防御力補正があるとはいえ、多少はダメージを受けた部位ごとの防御力も反映されることが分かっている。

 だから頭への攻撃は、ヘルメットがあるといいのは明らかだけど、あんまりカッコよくないという理由で人気は高くない。

 実利を選ぶタイプの人には大人気装備なのがヘルメットということだ。


 森の中では、確かに大きなヘビが出てきた。

 みんなで殴りつけて攻略する。

 数は今のところ暴力だ。


 そしてデカめのイノシシが出てくる。

 ここのイノシシが標準サイズで、どうやら草原側のはウリボウらしい。

 こっちのお肉のドロップはでかい。


 ウリボウはまだ可愛かったが、こちらは恐怖心が少し出てくる。

 女の子たちはギャアギャア言うかと思ったら、そんなことなく、逆に闘争心を燃やして果敢に殴りつけていた。

 女子って怒ると怖いから、強いんだよな。

 むしろ男の俺のほうがビビってる。

 男女差別の偏見ではあるけど、清楚せいそな女の子なんて幻想なんだと知ったよ。

 かあちゃんは誰より強いもんな。


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