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019.魔法と魔術


 前回魔法の講習会の話をするつもりが、またうんちくで埋まっていた。申し訳ない。

 だが自重する気は一切ないので、今後も話が全然進まなかったり、飛んだりすると思う。


 それで魔法の講習会だ。

 この世界では『魔法』と『魔術』がある。

 魔法は、自らの魔力をにえに、奇跡の力を呼び起こすものの総称とされる。

 魔術は一定の儀式に則り、魔石などを贄として発動させるものをいう。

 この世界では魔道具や魔法的エンチャント武器も魔術にカウントされる。


 魔法を使用するには、スペルが必要とされる。

 スペルとは呪文のハイカラな言いかたのこと。

 魔法名と祝詞のりとがある。


「我、紅蓮ぐれんの炎を呼び覚まさん。ファイヤバレット」


 ファイヤバレットが魔法名、魔法の固有名だ。

 その前に何かそれっぽい台詞を言うのが通称、祝詞である。

 言霊ことだまという場合もある。

 こんな感じであるが、この世界では、無詠唱も可能らしい。

 祝詞部分は必要なくて、雰囲気、ロールプレイの一種とされるようだ。

 魔法名なんだけど、連携する場合、同士討ちを避けるため、魔法名を唱えるのが半ば常識になっていて、この世界の冒険者たちは、普段から口にするようだ。


 なおこのゲームにはいわゆる安全圏、セーフティーエリアという概念がない。


「どこでも安全です。あなたが強ければ。どこでも危険です。あなたが弱ければ。町でもフィールドでも市場でも同じです」


 だそうだ。現実的である。

 PKがはかどると思うんだが、PKしてアカウントばれになれば転生できないので、犯罪者として幽閉される未来が待っているのは本人の自由だ。

 サブ垢も、サブキャラもこのゲームにはない。

 サブステータスはある。

 どういうことかと言うと、名前も容姿もそのままで、ステータスが完全に分離した別のキャラクターになれる。

 戦士モードや僧侶モードみたいに、別人のように振舞える。

 ただし1時間に3回までしか変身できない。

 普通サブキャラは倉庫か、他の職種をやるために存在しているので、サブステでそれが賄える。

 他種族、レアスキル持ち、みたいな概念はないので、そういうものを必要としていない。

 これも種族が選べない理由の一つのようだ。

 男と女を切り替えたいとかはあるかもしれないけど、現実で無理なのでゲームでも無理の方針らしい。

 複数キャラで複数のクラブを掛け持ちしたり、スパイしたりするゲームもあるが、そういう行為は現実風ゲームとしては、できなくなっているらしい。


 そして、プレイヤーバランスという言葉を教えてもらった。

 プレイヤーには「攻撃-回復」と「物理-魔法」という二つの指標がある。

 あともう一つ「遠距離範囲-近距離」がある。

 この3種類は最初中央のバランスのステータスが設定されていて、攻撃したり回復させたりすると、それがだんだんずれていく。

 相反する概念は、片方が得意になると、もう片方が苦手になる。つまりマイナス補正が付くようになる。

 俺は「攻撃、物理、近中距離」で、天使オムイさんは「攻撃、物理、中距離」らしい。

 距離が遠距離ではなく、中距離なのは、メイスとか槍で攻撃しているからだ。

 魔法の近距離は、魔法剣とかマジカルパンチとかそういう近距離技があるらしい。

 ヒールも「手当」なる手を当てて回復される、強化版ヒールがあるそうだ。


 属性世界の概念も教えてもらえた。

 火、水、土、風の四大属性だ。

 他に無、時空、光、影、回復、氷などが補助属性と言われているらしい。

 相性的なものもあり、火が全く効かない、火炎竜や火炎人形などがいるそうだ。


 魔法の習得は、スペルを覚えるところから始まる。

 魔法の習得スクロールを読み上げると、初めて魔法が使えるようになる。

 使用したら、スペル一覧ホログラムに記録として残り、そこにスペルレベルが記載される。

 このレベルが発動の最大値で、プレイヤーの発動時のイメージでレベル調整が自動的に行われる。

 だから、無詠唱で発動させる場合は、完全に思考操作になる。


「では、最も基礎の魔法、リカバリーをお教えします。スクロールをどうぞ」


 俺とオムイさんにスクロールが配られる。

 他の参加者の皆さん、10名ほどにも同じようにスクロールが配布された。


「では、魔法名を暗記したら、呪文を唱えてください。リカバリーは他の人を回復させる魔法なので、手が光ったら相手に触れてください」


「心身の根源、復元力を呼び覚まし癒しを与えよ。リカバリー」


 ぼわーと、手のひらに光が集まって、とどまっている。

 オムイさんに手を押し付けたら、光がオムイさんを包みこんだ。


「わー、何か気持ちいいです」


 俺の手も気持ちよかった。柔らかい場所を触っていた。

 いけない、すぐに手を放した。


 今度はオムイさんが俺に手を伸ばして鎖骨の下あたりを触ってきた。

 俺も光に包まれて、傷が回復していくらしい。

 なんとなく疲れが抜けていくような気持ちのよさがあった。


「おおぉ」


 MPが減った。

 光は1分ほどで治まって、何事もなかったかのようになった。


「次は魔術です」


 魔術は魔法の親戚で、MP消費がない代わりに、モノを消費する。


「ここにヒールを込めた魔石があります。手に持って魔力を最小限流すと、発動します」


 説明するお姉さんの手が青白く光り、体を包み込んだ。


「魔石は最もポピュラーなにえです。普通の石であっても、魔力を込めて準魔石化することで、威力は劣りますが魔術石にすることができます」


 魔法を込めた石を魔術石と言うらしい。

 ゲームによっては、魔法陣と呼ぶ、魔法陣の紋様を紙に記載した魔法発動手段がある場合もある。

 その場合、制作者は該当魔法を発動できなくても魔法陣を作れたりする謎仕様の場合すらある。

 使用者は魔術石、魔法陣を使うのに、該当魔法が使えなくても発動できるのが普通だ。

 それでないとアイテム化の意味が半減する。

 半減なのは魔法が使えても魔術石にしておけば、MPの節約にちょうどいいと思う。


 俺は暇な時に、リカバリーを投石に込めることにする。

 ところでリカバリーの魔術石を敵に投げたら敵が回復するのだろうか。

 そうだとしたらオムイさんに魔術石を投げつけることになるけど、痛くないのだろうか。

 ちょっと想像して、可哀想だから絶対にオムイさんで試したりしない。

 マゾい男の知り合いができたら試してみよう。


「基本的な魔法スクロールは、当ギルドでも販売しています。また魔法スクロールの作成は魔法レベルが20に達すると、使用できるとされています。魔法スクロール作成魔法、メイクスクロールも必要です。では以上です。ありがとうございました」


 残金23.6k。

 スクロールを物色していきたい。

 魔法メインの人は、魔法が強くなる。

 物理メインの人は、物理が強くなる。

 だから役割分担したほうが、将来的にはお得だ。


 どれくらいの差が出るかは不明だけど、WIKIで調べたところ最大でも20%ぐらいではないか、という予想になっていた。

 根拠は不明。

 運営の中の人がひっそりとヒントでWIKIに書いてくれた可能性もゼロではない。


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