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018.作業とユーザー固定要素


 まあとにかく、このゲームはPK「あり」だ。

 普通ならフレンドリーファイヤはパーティーメンバーのみ無効になるようにするのがゲームなんだから当たり前なのだが、このゲームでは、普通に当たるらしい。

 それで天使オムイさんには、撲殺天使をしてもらう。


「おりゃあ、よっこいしょ」


 オムイさんが掛け声をかけてメイスをイノシシに振り下ろす。

 俺も横で槍を突き出して攻撃を加えた。

 なんかイノシシを虐めているように感じて、可哀想になってくる。


 イノシシは倒れて消えて、毛皮とお肉がドロップ、地面に落ちている。

 あとなぜか、魔石が落ちている。

 微レアドロップだ。


「勝ったな。魔石あるよ」


「マセキ?」


「魔術の石だよ。魔力の結晶」


「ファンタジーぽいですね」


「うん」


 魔石は魔術で使用する、消費アイテムまたは、魔道具を作る触媒になる。


「たくさん集めたいな」


「いいですよ。動物虐めてるみたいでアレだけど、お肉ですもんね」


「うん。現代人にはリアルな撲殺とか精神的に辛いね。見た目酷くならなくても、悪いことしてるみたいだ。これ流行る前に、プレイヤー逃げそうだよな」


「はい。ペット&動物園のほうが向いてるんじゃないかと、思いますね」


「殺伐としたゲームって言うんだろうな。ジビエとかも可哀想、ヒドイって言われるからなぁ」


「ジビエですか。似たところはありますね。好きな人は好きなんですよね。ペット愛玩感覚とお肉、敵感覚で違うんだろうとは思いますね」


「そういう認識の違いか。ネズミだってハム公とドブネズミじゃペットか害獣の違いがあるよな」


「はい。難しい問題ですね。お肉だって可哀想で食べられない人、お魚触れない人もいますからね」


「人の感性、考え方はそれぞれだってことだな」


「はい」


 オムイさんの最初の矢は折れてしまい、電子の粒子になって消えていった。ヤジリだけ残っていたので回収してある。

 俺は今まで、描写していなかったが小石を拾いながら薬草採取とかしていたので問題ないほど小石をアイテムボックスに溜めてある。

 青くてきれいな石も一個拾ったので、大事に取っておく。


 ちなみにジビエはフランス語。英語だとGameという。そのものずばりゲームだぜ。

 獣臭いのをGamyと呼ぶそうだからゲーム自体がハンティング系統の用語っぽいらしい。

 狩りに成功するか、逃がして失敗するか明確な合否がある。まさにゲームだ。

 紀元前から続けてるだけはある。


 敵と戦うのも同じ敵だと、だんだん作業のようになってきてただのゲームでは実際に『作業』と呼ばれている。

 特に敵を倒してレベル上げをするのをレベリングと言って「レベリング作業」はコンピューターRPGの伝統でもある。

 マンネリ化、飽きる、つまらない、苦痛、とRPGを嫌う人の主要原因だと思う。

 あるあるだけど、悪しき伝統だ。


 新しいイノシシと戦闘を続ける。

 ヘビはよく分からないが出てこない。


 イノシシへの投擲とうてきダメージは、あんまりないようだが、やらないよりはややマシに見えるので続けている。


 俺たちは、倒し方を如何に工夫するかとか、石投げなしでどれくらい違うかなど、研究をしつつ戦闘を続けた。

 クリックするだけだと飽きるのは当たり前だけど、キャッチボールとかもすぐ飽きるかと言われると、そこまでではないのでVRでの作業は手足も頭も使うので意外と飽きにくいということが分かる。

 ウサギ相手の時は新鮮さで浮かれていたので、少し違った。

 イノシシは突撃してくると当たったら、俺らがダメージを喰らう。

 イノシシのサイズもそれほどではなかったので、ダメージも多くはなかったけど、多少痛い。

 おそらく、初心者用の最初の攻撃される練習なのだろう。

 チュートリアルはなくてもフィールドが訓練場ということだ。

 武器も露店や店で、アドバイスを聞きながら選ぶことができた。

 とりあえず、お金があれば予備の剣ぐらいは用意しておくといいかもしれない。


「戦闘お疲れさま。今日は魔法使いギルド行こうか」


「はい。魔法ですか。RPGあるあるですけど、魔法がないRPG的な話もあるんですよね」


「あるよ。ファンタジーってくくりでは魔法は実は必須じゃないんだよね」


「でもあるほうが多い気がします」


「補助魔法とか仲間と協力してる感が欲しいし、回復するのにはやっぱりヒールが欲しいわけですよ」


「そうですよね」


「範囲魔法も魅力的だよね。このゲームだと、仲間も死ぬけど」


「あ、それは困りますね」


「うん。使い勝手が悪い気がする」


 この日は戦闘を少し早めに切り上げて、町に戻る。


 魔石は小さいのが2人で8個、手に入った。

 今は4個ずつ持っている。


 魔法使いギルドに到着した。

 場所は西側中央付近の通り沿いだった。

 ギルドとは本来、冒険者集団とか冒険者協会とかでもなく、職業集団のことだ。

 現代で近いのは農協とかだろうか。


 ドアを開けて中に入る。


「魔術の基礎を教えてほしいんですけど」


「そうですね。分かりました、お話ししましょう。手数料1kラリルになりますが講習を受けていきますか?」


「お願いします」


「講習は30分ごとですので、もうしばらくお待ちください」


「はい」


 魔術の初心者講習会に参加する。

 隠れ家の魔女とかに弟子入りして、ひっそり覚えるのかと思っていたが、この世界では普通に自動車みたいに講習会があるようだ。


 異世界ファンタジーでは魔法は貴重な才能や血が重要だったりするので、希少性が高いことがある。

 でもここはゲームの世界だ。

 プレイヤーの魔法適性とかが「ユーザー情報で成否が異なる」とか「人によって強制的に適性や属性が決定される」みたいな「運ゲー」では非難の的になるのは目に見えている。

 プレイヤーの行動の結果ではなく、パーソナルデータに基づいた強制的なガチャ要素、『ユーザー固定要素』は、最大の禁忌と言ってもいい。

 そんなのはクソ中のクソゲーなので、考えかたを改めてほしい。

 それでは親や血液型を自由に選べないのと同じでゲームとして「フェア」ではない。

 O型の人はAB型に必ず負けるゲームとか、あなたはやりたいだろうか。

 もちろん本人がAB型ならやりたいかもしれないが。

 それで何人のAB型のプレイヤーが集まるのだろうか。過疎まっしぐらだろう。

 ゲームというのはある程度の公平性があることで成り立っているわけで、そうでないワンサイドゲームは卑怯の代名詞だ。

 国際的な理解とかゲームとしての理解は得られるはずがない。

 それならリセマラならどうかと言われると「うーん……」としか言いようがない。

 リセマラは総ダウンロード数水増しのために存在しているに過ぎない。本当にプレイヤーのためを思っているなら、ガチャではなくプレイヤー自ら自由に選択できるようにするべきだ。


 ましてや、そう言うゲームをeスポーツにするとか、お笑いもいいところである。

 eスポーツは基本的には、プレイヤーの能力が試されるゲームで行われるもので、運を競うゲームじゃない。

 探してみると、そういう笑い話が実話だったりして世の中の闇を垣間見た気がして、何とも言えない気持ちになった。


 このMMORPGも公平かというと運要素はそれなりにあるので、もちろんeスポーツではない。

 ただ、一部のプレイヤーが無差別級や魔法なし級、そして剣一本スキルなし級とか言って格闘技大会をしようという流れはあるらしい。

 まだ始まって2週間なので全員初心者で、手探り状態だとか。

 日々剣とか魔法の良し悪しとかを掲示板やゲーム内で戦わせていた。

 運営はあまりゲーム内を掻き回す気はないようなので、期待できないそうだ。


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