目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
003.シナリオ不要論


 普通のゲームにはチュートリアルがある。

 そして、普通のRPGにはメインシナリオがあるのだ。

 しかしこのVRファンタジーにはシナリオやシステム的クエストが存在しないらしい。


 開発の合言葉は「旅人よ自由人たれ」。


 これを『シナリオ不要論』という。


 ちょっとMMOの歴史とかの話をする。

 うんちくがウザイと思う人は読み飛ばしてくれ。


 多くの小説におけるVRゲームは「シナリオ派」だ。

 あたり前と言えば当たり前だ。

 シナリオはストーリーのことであり、ストーリーがない日常のみの創作物語なんてつまらないからだ。

 主人公は、トップを走り、全ユーザーの有名人になり、公式対戦大会で優勝し、攻略組になって、ゲームクリアを目指す。

 誰かに開放されるまで次の町には行けず、最初にダンジョンでボスを倒した人が絶賛される。

 もちろん空想だ。

 これはほとんどの場合、ソロプレイのRPGの考え方に基づいている。


 多くのMMOはストーリー派と不要派の対立があった。

 そしてストーリーがないゲームはユーザーの要望によりストーリーが導入された。

 ストーリーがあるゲームでは、逆にストーリーのアップデートなどがないがしろにされ軽視された。

 ストーリーをクリアするには高いレベルと高い武器防具を要求され、ただ生活したいユーザーから敬遠された。

 そしてMMOはMO風、インスタンスダンジョン周回ゲームに収束していった。

 古参ユーザーの言葉を借りれば、MMOらしいMMOは死んでしまった。

 その後はMMO自体が減少して、多くを語るほどではなくなった。

 SNSゲーム、スマホゲーム、カード風ゲームなどが台頭した。


 クエストも簡略化、簡素化、簡単化が進んだ。

 どこに行けばいいか、システムが道を示してくれる。

 何を何個持っているか、ガイドが表示してくれる。

 その集めるアイテムはどのマップのどの敵を倒せばいいか、画面に表示されて、教えてもらえる。

 NPCは頭の上に「?」マークがついて、クエストの存在を示していた。

 いたれりつくせりの親切を売りにするゲームが出るようになった。

 ゲームをしているのか「させられているのか」分からなくなってくると、一部の人には不評だった。


 これの対極にあるゲームも存在した。

 NPCと会話してクエストが発生すると、その概要だけが「クエスト画面」に表示されるのだ。

 不親切だった。

 マップ内のどこにNPCがいるなんて、分からない。

 何を何個持ってくるとかは書いてあるが、詳細な案内なんてしてくれない。

 でもふと現実を振り返れば、そんな何から何まで教えてくれる親切な仕事のほうが少ない。

 少し現実的だった。

 なぞかけのようなこともすることが可能だが、クエストは全ユーザーで共通であり、謎はすぐ他のユーザーにより解明され「攻略WIKI」で見る、攻略を見るプレイになり下がるだけだった。


 シナリオ不要派の一部に「オープンワールド」がある。

 世界中のマップをどこでも自由に歩き回れる世界観のことだ。

 これには問題があって、折衷案で追加されているメインシナリオが散発的に各所で発生して、正しい順番で見ないと、訳が分からなくなるなどの問題が起きることがある。

 これも旧タイプのPCゲームの話に過ぎない。


 問題はここからだ。

 VRゲームでは、第二の現実をうたって、AIも高度で本物のようだ。

 そういう世界で、AIが個人ごとに「同じクエスト」を発行すると、高度なAIであればAIであるほど、不自然になってくる。

 もちろん「薬草を10個単位で買い取りたい」というNPCが多くの人を相手に買い集めるなら問題ないのだけど。

 例えば「盗賊を倒してきてほしい」と言われた場合、誰かが倒してしまったらそれっきりだ。

 それなのに再び「同じ」盗賊が復活して「再び倒しに行く」と、AIは相手ごとの辻褄つじつまを自分の記憶として保つのが困難になる。

 昔のゲームでは、他人とNPCの会話は当事者以外には表示されないので、問題なかった。

 しかし、世界が一つとなり、共通空間上で会話をする本当のMMOであるVRゲームでは、他の人のクエストの会話を盗み聞きすることが可能なのだ。

 そうなってくると、シナリオの順番も含め複雑な問題が発生する。


 一番簡単なクエストの解決方法は「システムクエストを実装しない」だったのだ。

 ただ、普通の人間と同じように頼み事や仕事が発生するだけで全員共通のクエストの実装は見送られた。

 極端な言い方をすれば、ユニークシナリオしかないということになる。


 それでも職安みたいな場所が必要で、それが冒険者ギルドの役割になる。

 初心者救済用の、常設依頼などが設置されれば、多少は問題ないことになる。


 こうしてシナリオらしいシナリオはなくなり、全員が公平なようで、不公平なゲームになったらしい。

 特にボッチのコミュ障は、相手がAIだろうとまともに会話ができないと、依頼だって信用してもらえない。

 コネが必要な世界で、ソロプレイはマゾ中のマゾ、世捨て人でしかないわけだ。


 システムクエストがないということは、アシスタント的なことをしてもらえないということだ。

 3日前に受けた依頼主の名前を忘れても、誰も助けてくれない。

 ギルド経由ならもう一回聞けば大丈夫だ。

 ただし、期限はあるだろう。

 昔のゲームなら1年前に始めたクエストも平気で続けられる。

 でも生きたAIのNPCたちは、依頼が遅いと取り下げたり、他の人に再依頼したりする。

 普通の仕事と一緒だが、それこそがリアリティというやつだ。

 メモ帳や秘書が欲しくなりそうだ。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?