電源を入れたら、ネットの接続確認をされて、そのままファームウェアの更新になった。
データセンターが混んでいて、なかなか終わらない。
30分掛かってやっと終わった。
初回、および二回目の出荷台数は発表されていないため、分かっていなかった。
関係者筋によると、国内で初回が4万台。今回が8万台。合計12万台の出荷になったようだ。
この関係者筋だって、本当かどうかなんて誰にも分らない。
全世界、同日発売で他国ではもっとたくさん販売しているらしい。
初回セットアップの設定などをした。
脳波キャリブレーションという、身体との調整もする。
身体スキャンも行われた。
これに、さらに30分必要だった。
俺がやりたいのはMMORPG「VRファンタジー」だ。
それのセットアップに1時間必要だった。
ソフトウェアのパッケージなるものは、この世の中、販売されていない。
『ダウンロード』と最適化作業とかで時間が掛かるらしい。
最初から入れておいてほしいけど、そうもいかないらしい。
こんなに掛かるなら、ソフトウェアという旧世紀の代物でもいいから、ハードにしてほしい気がする。
ソフトが本当に「データだけ」になったので「ゲーム屋」も死んだんだ。
それが進化なのか退化なのかは、一言ではとても議論できない難しい問題だと思う。
ゲームができるまでに、2時間を要した。
これは酷い。
ベッドでスタンバった俺がバカだった。
頭から外して、セットアップだけやって他のことをしていればよかった。
注意書きというか、時間が掛かるなら言ってくれれば、他のことぐらいしたよ。
VRファンタジーを起動。
タイトル画面を眺める。
文字の後ろでは、世界の風景が流れていた。
タイトル音楽も流れている。
西洋の民族楽器風の音楽で、クラシックではなかった。
これはこれで、雰囲気があっていい。
特にこのリュートみたいな素朴なギター系の音が好きだった。
演出方法はPCゲームと同じだけど、リアリティ、臨場感が凄かった。
すでにゲーム内にいるみたいだ。
10分ぐらい「タイトル画面」を眺めた。
それぐらい凄かったんだ。
幽霊で世界中を旅しているみたいに感じる。
その後は『キャラメイク』をする。
身体スキャンの結果を使用して、俺っぽい見た目にした。
ランダムチェンジを5回、イケメン補正機能を2回押した。
キャラメイクはリアルの体は無関係にして、サンプルとかから作ることも可能だ。
種族、え、そんなのないよ。
人間しかなかった。
掲示板情報によると「人間たるもの、人間たれ」だそうだ。
確かに身体的特徴が、自分と
キャラメイクは10分で済ませた。
場所は首都セントラルシティーのよく分からない広場。
とりあえず新規組の観察をする。
周りでは「自分と同じような容姿」の黒髪、黒目、東洋顔のおじさんたちが、何人も新しく現れて、移動を始めていた。
たまにイケメン風もいるが東洋顔なのには変わらない。
違うタイプも混ざっている。彼らの多くは「青髪で、デザインされたイケメンの青年」の顔をしている。
全員同じ顔だった。
これを「デフォ男」と俺は呼んでいる。MMORPGあるあるだった。
旧世代から存在する「初期設定アバター」でプレイする、ゲーム初心者だ。
自キャラをカスタマイズするタイプのゲームをしたことがないヤツがやってしまう、失敗の一つだ。
中には単純に面倒くさいという人もいる。
そのための身体データスキャンだが時間が掛かりすぎるのが悪い。
もしくは目立たないためにわざとデフォルトアバターでプレイする歴戦の勇者、ツワモノである。
さらにもしくは、ネナベである。彼女たちは男性アバターを愛好する。腐っている可能性があるため要注意だ。
そして意外に多いのが、女性アバターちゃんたちだったりする。
女性アバターはどの子も可愛い顔をしていて、一定以上の水準をしている。
どことなく似ている顔ではあるが、少しずつ違う。
こいつらはネカマである。
自分の容姿にもこだわるので、デフォルト女性アバターをカスタマイズして、顔を自分好みにするのだ。
でも自分の顔を見るのは自分ではないと、ログインしてから気づくのだろう。
少し恥ずかしそうな、モテそうな表情はするのに、がに股で歩く残念な子が多い。
自分が女性キャラを使っているのに、まだ慣れきっていない。
そしてその中にはたまに本当の女性が混ざっている。
彼女たちはネカマだと思われてこのゲーム世界を旅しなければならない運命だった。
残りはレアなタイプ。
それは女性が自分の身体データを使った子たちだ。
顔が東洋顔であるので、だいたい判別可能だ。
あと、すぐに移動しないでしばらく様子を見る子が多い。
この子たちは、自分に自信があるか、または初心者で顔バレやストーカーの被害にあっていない無垢な子が多いイメージがある。
たまに女力士みたいな凄い子も混ざっている。
一発で覚えそうだ。
第一陣の情報によれば、首都は広く、広場もたくさんある。
どこに出現するかはランダムで「冒険者ギルド」なんて場所には行く必要がない。
自由だが、自由すぎて、何したらいいか誰も分からない。