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017.宿屋


 RPGでは宿屋も重要施設だ。

 寝て起きるとHP、MP全回復みたいな謎の施設としてよく使われる。

 MMOでは、ちょっとしたイベントシーンみたいなのが見れるだけで、すぐに朝になるのはRPGと同じだ。

 まぁフルダイブVR以外は、PCの前にいるのに画面内で寝られても困るから、それ以上どうすることもできない。


 でだ。


「わーいお部屋ですよ。木の部屋ってなんか落ち着きますね。家は鉄筋コンクリート製のマンションだから」


「そうだよな。うちもそうだわ」


 一人暮らしなんてそんなもんだ。


「あの、ベッドが一つしかないですよ」


「そういうもんなんじゃね。普通」


「そうなんですか?」


「ツインの部屋なんてないみたいだったよ。ツインにするくらいなら2部屋とるだろ、普通」


「そうなんですね」


「うん」


「お風呂は、ここはついてないみたいです。しょぼん」


「まあ、安かったしな」


「ダイブしたまま、寝るとどうなるんですか?」


「体は元から寝てるようなもんだ。で頭も寝るんだよダイブしたままね」


「じゃあ、普通に寝ればいいんですね」


「うん」


「装備を変えてっと」


 オム子は最初の青いシャツにズボンだけになり、靴も脱いだ。

 俺も初期装備の軽装に戻す。

 ワンタッチで楽々着替えだ。

 これが生着替えが必要になると、あーんなことやこーんなことが起こるけど、ちょっと言えないな。


 ベッドには白い枕が2つ並んでいる。


「じゃあ、寝心地を確かめましょうか」


「おっおう」


 童貞の俺様、心臓バクバク。

 対するオム子、普通に寝る態勢。


「おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 ベッドに並んで寝て、布団を被る。

 体の左隅にオム子の体温と柔らかい感触がある。


 すーぴーすーぴー。

 オム子は速攻、夢の中のようだ。

 俺も目をつぶって寝る。

 VRの睡眠と現実の睡眠を兼ねてるのは、変な感じだ。



 ぐっすり寝た。

 朝の6時前、約6時間睡眠で快眠だった。

 夢の中では、オム子がカレーを食いまくっていた。変な夢だった。


「えへへ、おはようございます」


「おはよう、オム子」


「うわー。新婚さんみたいだ。恥ずかしー」


「いまさら、それですか」


「だって、木の部屋が暖かくて、ぐっすりだったから」


「ああ。VR、一度ログアウトしようか。トイレとか行かないとな」


「そうですね。すぐ戻ってきますね。シャワー浴びて、ご飯食べなきゃ。ちょっと遅くなるかも」


「それなら先にチェックアウトしよう」


「はい」


 宿屋を出て、店の前に来る。


「ではアディオス」


「ああ、アディオス」


 なんでアディオスなんだろう、オム子。

 俺もトイレやご飯などを済ませて、再ダイブだ。


 というわけだが、戻ってきたけど下手に動かないほうがいいかもしれない。

 その辺で立ったままオムイさんを待つ。


 今後の予定でも立てておこう。

 強い敵をだんだん倒す。

 武器、攻撃スタイルの確立。

 仲間を集めて、ダンジョン、ボスに挑戦。

 クラブに参加。

 生産のお試し。


 やることは山ほどありそうだ。


「ただいま」


 天使オムイさんが復活した。

 頭の上に輪っかがあるかと思ったけど幻覚だった。


「おかえり、何か食べる?」


「今向こうで食べてきたとこだよ?」


「向こうとこっちは別ボディとなっております」


「そうだね。軽く食べよっか」


「うん」


 露店街を歩いてお店を探す。

 肉まん、小籠包みたいなのを売っている店を発見した。


 肉まん1つ400ラリル。2つ買った。

 オムイ天使は1つだった。


「お、西洋風肉まんだな。ちょっと違う」


 何が違うかは分からないが、違う。


「でも美味しいな」


「うん」


 お店のおばさんが宣伝してくる。


「トマトスープとミカンジュースあるよ。美味しいよ」


「じゃあ俺トマト」


「私はミカンジュース」


「それぞれ100ラリルな」


 トマトスープは結構濃いめで味も付いている。

 トマト自体に旨味があるので、かなり美味しい。


「ミカンはこれさ。まだ青い間引くミカンを搾って砂糖を入れて水で薄めたら完成さ」


「なるほど。でも薄めるんだ」


「そのままだと酸っぱいよ」


「そっか」


 ブタ串焼きの露店も見てみたけど、いなかった。

 残金24.6k。

 武器ゾーンを見て回りメイスを探す。

 オムイさんのサブ武器が見つかった。

 鉄のメイス、11kラリル。


「どうですか」


「どうって俺を殴り殺さないでくれよ」


「愛の力でぼっこぼこにしてあげます」


「それ愛なの?」


「はい」


「撲殺天使か」


「ふん?」


「優しくしてください」


「うん」


 俺たちは、西門から出て牧草、草原を通過して丘を越えた。


 そこにはイノシシとヘビが出るらしい。

 肉まん屋のおばちゃんに聞いた情報だった。


 イノシシ、こいつはアベルボアだ。

 ん?

 あの美味しいお肉ちゃんじゃないか。

 絶対仕留めるマン。


「クロスボウよろ。3からカウントするから同時に攻撃しようず」


「えいさ」


「3、2、1、ファイヤ」


 イノシシに矢が飛んでいく。

 そして俺の手からは「石」が飛んでいく。

 どちらも見事命中。ウサギならこれで終わりだったけど、イノシシはまだ平気な顔をしている。


 石は投擲とうてきというやつだ。

 知ってるか。聖書にも記載されている世界最古の武器のひとつだ。

 聖書にはこうある「あなたがたのうち、罪を犯したことがない者が、最初に彼女に石を投げなさい」。

 俺は軽い罪を犯したことぐらいならあるが、相手は罪人ではなく、コンピューターデータのイノシシでお肉ちゃんだ。

 若干のためらいはあるけど、ゲームだと割り切るしかない。

 投石で人は死ぬ。すぐには死なないので処刑のひとつ、娯楽として古来から使われた。戦争でも意外と使われてきた。

 お城にも石落としの仕掛けがよくついている。


 イノシシがそのまま接近してきた。


「おりゃあ、槍攻撃!」


 俺の槍が炸裂さくれつして、イノシシを襲う。

 ダメージは入ったようだけど、まだまだ元気なようだ。


 前衛が戦っている所を後ろから弓矢を使うのは、物理的に考えれば難しいのがすぐに分かる。

 フレンドリーファイヤというやつだ。

 このゲームで同士討ちが発生するかは知らないが、痛いのは嫌なので、遠慮したい。

 昔のゲームでは、味方は貫通してノーダメージでその向こう側にいる敵だけにダメージがあるなんてのもザラだった。

 あるあるというかシステムの都合だ。

 人間がコンピューターの敵だけを倒すゲームをPvE、Player vs Enemyという。

 対して人間同士の対戦、将棋とかサッカー、FPSの銃撃戦とかを、PvPという。

 これはMMORPGでは、対人あり、決闘のみ、対人なし、のように分類し、その決闘モードをPvPと呼んでいる。

 対人なし系統では、人間を殺すことができない。

 これは平和なようで、ウザイ問題行動をする悪質プレイヤーを対人戦という方法で排除できないことも意味している。

 MMOでのフィールドでの対人、殺人行為をPK、Player Killという。PvPが対戦、格闘技的なのに対して、PKはゲーム内のロールプレイとしての犯罪と定義されていることが多い。

 ゲームシステムに犯罪者と認識されてしまう。

 しかしPKが実装されているゲームでは犯罪をゲーム内でする「自由」が認められている、ということになっている。

 VRゲームでは、橋や崖、家の屋根や城壁から突き落とすことも可能で、実質的なPKが可能だ。

 縛り付けてモンスターの前に放り出すことだってできる。

 敵をプレイヤーに押しつけてそのプレイヤーを殺すのをMPK、Monster Player Killという。

 大量の敵を連れて歩く行為をトレインとよび、トレインの敵を他のプレイヤーに押しつけてするMPKが問題になることがある。

 このように武器によるPKがなくても、抜け道はどのゲームにもある。


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