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005.ネカマ


 そうそうプレイヤーの中身で、相手への態度を変えるのは、よくないとされている。

 会社とかでは当たり前だが、趣味の領域では態度が違うのはよくあることでもある。

 相手が女性だとあからさまに優しくして、『ネカマ』には冷たい男はよく非難される。

 これも、一種のあるあるだ。

 だけど出会い系も婚活パーティーも、焼肉食べ放題、さらにレディース膳、女性割引、女性デー。

 女を依怙贔屓えこひいきしているのは、社会の大多数だってそうだ。

 女性には価値があり、男にはないみたいに感じることすらある。


 相手がネカマでも男性に対する態度と同じなら文句は言われないはずだが、そんなことはなく非難される。

 差別されるネカマも差別してる野郎もどっちも非難される。

 ネカマは女性をかたり男性プレイヤーをだましている、犯罪者であるという認識が少なからずあるんだ。

 リアル性別を聞かずに勝手にだまされるやつも悪いが、リアル性別を聞いたら最後、空気が読めないと非難されることもある。第一相手が本当のことを言っている保証は一切ない。

 昔は声を聞けばすぐ分かり、直結厨に人気だったが、ボイスチェンジャーの技術が上がり意味をなさなくなった。

 顔出しすれば分かるが、そこまで許してもらえるなら、もう普通に付き合うくらいできるだろう。

 もちろん拾ってきた女性の画像を送りつけて男を釣る男の遊びもある。


 つまり、世の中は悪意にあふれているということが基本である。


 釣りをするヤツがいる以上、ネカマへのバッシングはなくならない。

 直結厨も同じぐらい、非難される。

 リアルで女性を誘うのは許されて、ネットではダメである正当な理由がよく分からない。

 もちろん未成年はまずい。

 ネットの友達に二人っきりであったら犯されたって、それは自己判断で会いにいって、あんまりにリテラシー、常識がないだけだろう。

 脅迫されたとかならダメなのは当たり前で、自分の身は自分である程度は守ってほしい。

 直結厨のあんまりにあんまりな態度がウザイというのには同意する。

 ただ男女どっちも仲良くしたいだけの人まで直結厨呼ばわりして一緒にされたら、たまらない。


 結局、何を言ったところで俺は童貞なので、あまり関係ないといえば、その通りだ。

 ただ、やり捨て目的、釣り目的のマナーの悪いやつの活動が一番目立つので、他のプレイヤーの迷惑なのでやめてほしいと、切に願う。


 なんでこんな話をしているかと言うと、冒険者ギルドが近くなってきた。

 証拠に周りに第一陣のプレイヤーがいて、プレイヤーギルド、このゲーム用語で正確に言えばクラブに勧誘してくるのだ。

 ギルドは冒険者ギルドの意味もあるから紛らわしい。

 クラブも棍棒こんぼうの意味があるから、少しややこしい。

 クランは専門用語すぎるし、意味は親族連盟、氏族とかなので、この国では家族ごっこみたいな気持ち悪さがあるので、よくない。

 今までのゲームではもっとドライな付き合いの集まりのほうが多数派だった。


 可愛い彼女、すまんが名前を知らないので三人称のほうの意味の彼女としか言いようがない。

 ガールフレンドとは口が裂けても言えない。

 名前が頭上に出るゲームが多い中、このゲームは出ないらしい。

 理由は開発いわく「現実だってマーカーなんて浮いてない」だそうだ。

 ストーカー対策にはなるが、逆に不審者の通報がしにくいというのがある。

 ただ、写真、スクリーンショット機能と動画はあるので、そういうのを使って通報は可能だ。


 それで女性プレイヤーの彼女を見つけると、勧誘が凄い。


「そこのお二人さん。うちのクラブ入らない? 一緒にどう?」


「まだいいよ」


「私も遠慮しておきます」


 しつこいのは男性のみで複数いるクラブだ。

 他のクラブでは女性アバターを連れている人もいる。


「うちは女性アバターもいるよ。半々ぐらいかな。中身までは保証しないけど」


 事実だけど、同じ女性がいると匂わせて安心させる「あるある」だから、いきなり誘いに乗るのはバカだ。

 まあこの子がネカマちゃんなら、軽い気持ちでギルドに入ってもそれほど問題はない。

 嫌になったらやめればいい。


 でも俺の経験では「最初の友達、最初のちゃんとしたクラブ」は長い付き合いになりやすい。

 躊躇ちゅうちょする必要はないけど、女目当てとはばからない態度のクラブにする必要はまったくない。

 どちらにせよ男に追い掛け回されて嫌な思いをさせるのは、気が引ける。


 俺は勧誘がいない場所で声をかける。


「こういうゲーム慣れてるほうなの?」


「いえ。ただ、常識くらいは知ってます。学生ではないので、無知での無茶もしません」


「なるほど。それは有難い」


「心配してくれて、ありがとう」


「面倒が嫌いなだけだよ。せっかくのVR体験を、誰だって黒歴史にしたくないさ」


「そうですよね。でも私だってネカマかもしれませんよ」


「そうかもしれんが、別にいいよ。俺を1年後に釣りあげるつもりでなきゃね」


「違いますよって釣る人、貢がせる人も100%そう言いますね、きっと」


「ああ、違いない。俺はどちらかと言うと、実は女性型AIなのではないかと、とんでもないことを思ってる。すまん」


「いいえ。男性が多いゲームに接待プレイ用のパートナーAIですか。夜のお供もできますよって?」


「そこまでは言わないが、可能性としてはあり得るだろ」


「私もあなたが私を守ってギルドまで案内してくれる、ガイドロボに思えてきました。頼りにしますよ、ガイドロボさん。あはは」


「なるほど、俺が案内してるガイドロボットか。あり得るな。人格と記憶が他人のものでコピーだったり」


「ありそうですね。怖い世界になってきました。自分が人間じゃないかもしれないなんてね」


「怖い怖い、ホラーだわ」


 ギリギリであり得そうなのが困る。

 自分がガイドロボットの可能性。

 記憶は全て別人か偽物ってことだ。

 そんなわけ、あるはずがないが、ここの露店のAIたちを見てると、ひょっとするかもしれない。


 自分が人間ではないかもしれないという、アイデンティティーの喪失。

 まじ怖い。


 彼女も同じようにAIまたはネカマまたは女性である。

 パンドラの箱じゃなかった、シュレディンガーの猫だ。

 すべての可能性は平等に重なって存在している。現実世界で観測するまでは確定情報は不明なのだ。


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