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004.始まりの村vs王都


 シナリオライターは、辺境の村を『始まりの村』通称は「初期村」にしたがる生き物だ。

 でもゲーム開始で万単位でログインしてくる場合、それをするのは頭がおかしいやつだ。


 田舎から町、大きい町、そして王都へ。

 出世するみたいにストーリーを思い浮かべるのだろう。

 でもそれは間違っているのだ。

 そんなに田舎に人が集まったら、村社会が崩壊する。

 村から始めることで利点もある。

 それは生活する範囲が狭いので、武器屋、防具屋、道具屋、宿屋など探し回る必要がなく、初心者に優しいところだろう。

 もうひとつは、田舎のほうが武器などが弱いほうがそれらしい。

 進むと新しい町で武器が強くなる論法だ。

 これは完全にソロゲーのRPGの固定観念に囚われている。

 また、新規参入が減ると過疎の村に飛ばされてショボイと思われ、やめてしまう。

 レベル制などで強い武器の装備条件をつけるほうがMMOには適応しているといえる。

 人口キャパシティを気にするなら、『王都』一択だ。

 というわけで、このゲームは王都開始なのだが、広くて訳分からん。

 ゲームだって迷子は困る。

 参った参った。


「すみません。どうせなら、一緒に回りませんか。観光しません?」


 俺は女性キャラクターに話しかける。

 中身が女性であるかは未知数だが、それは承知の上だ。

 ぶっちゃけ別にどっちでもいい。

 ただ野郎と並んで歩くよりはマシである。

 でも男同士のほうが気が楽なのは事実なので、説得力は皆無の言い訳だったか。


「いいですよ」


 一発OKをもらった。

 間違っても一発KO、殴られたわけじゃない。

 この2つの言葉は関連語だったのか。知らなかった。


 加速技術もなく、最初から2時間ロスしたので、さくさく進めたい。

 この世界は6時間で昼と夜が入れ替わる。

 暗くなったら寝るとちょうどいい感じなのだろうか。

 午後6時から0時までが昼タイムで、今は午後6時ぐらい。

 朝日が出てきて、朝市が活気づく時間だった。

 時間で昼夜変わるのは避けられない。

 俺たちは神ではないので、たとえ加速できたとしても時間には縛られてしまう。

 夜営とか、一部のファンタジーマニアは大好きなようだけど、狩りがしたいだけの大多数は、そういう面倒くさいリアル要素はイラネとしか思ってないもんだ。


 うんちくを考えていたので俺はまだ、最初の広場なんだ。

 ゲームではミニマップがあるのが常識なのに、このゲームでは存在していない。

 首都の概要マップは頭に入れてきていた。

 開発の温情なのか、広場は時計のように13か所あった。

 ここは中央のモニュメントの出っ張りが8個あるので、第8広場だ。

 他にも小さい広場は無数に設置されている。


「今は第8広場だね」


「そうなんですか」


「うん」


「太陽があっちだから、中央市場は向こうだね」


「凄いです。お詳しいんですね」


「ちょっと調べてから来ただけだよ」


「私も予習してくればよかった」


「まあ、ネタバレ嫌いもいるし、気にしなくていいよ」


「はい」


 表通りの通路は馬車が通れるように広い。

 これがもし異世界なら、通路は馬糞で臭いだけが、リアルな設定になる。

 しかしここはゲーム世界なのでウンコしない訳だ。

 アイドルみたいだな。

 そういう話をして少し引かれる。


「変わった人ですね」


「よく言われる」


「お店も多いですけど、なんの店か分からないところも多いです」


「看板は日本語だけど、固有名詞ではな」


「そうですよね」


 キフケレ商会とか書かれてもどうしろというんだろう。

 空き家もそこそこあるようだ。

 衰退した世界観なのだろうか。

 おそらくゲーム都合なんだろう。

 プレイヤー商店として解放するつもりだと推測できる。


 そのうちに、朝市ゾーンに入ってきた。

 野菜や果物、お肉に魚。

 パンとかクッキーとか。

 食べ物が多い。


 この辺はNPCの露店だった。


「美味しそうなものばっかりですね」


「運営のアホ、バカ、クソっ、金がねえのに食いもん並べんなよなー」


「なるほど、これはお金を稼げという暗示、チュートリアルなしとかいいながら誘導なんですよ」


「まどろっこしい事してくれるな」


「しょうがありません。誘導に乗ってギルドへ行きましょう。どっちです?」


「中央広場の横だよ。今『たまたま』向かってる」


「うまくできてますね、このゲーム」


「作為的なものを感じるっていうんだぜ。作者様ってやつ」


「それでも、初めてのフルダイブ、わくわくしません?」


「おっおう、わくわくしてきたぜ。こうなりゃ、金稼いでいいもん食いまくってやる」


「そうそう、その意気です」


 偉ぶっているのは俺がコミュ障という病気だからだ。

 男ばっかりの職場で女の子と話すことなんてない生活してた。

 いままでのうんちくで分かってると思うけど、本当は真面目ちゃんの理詰めのつまんないやつなんだ。


 一方の彼女のなんと人当たりのいいことか。

 見た目が容姿テンプレートを改造したカワイ子ちゃんだ。

 話し方も丁寧で、ネガティブじゃない天使みたいだが、だまされちゃいけない。

 女の子らしいヤツは逆に怪しい。

 俺は今まで散々騙されてきたから知っている。

 これはネカマだ。

 でも実を言うと、わくわくしてる。

 今までのゲームの人口比的には2割ぐらいの確率で、ネカマを装った女の子である可能性がある。


 ただ俺は出会いちゅうではないので、神に誓ってヤリ目的ではない。

 そっちはもう半分諦めてるんだ。

 枯れてるとか言わないでくれよ。

 これがゲームを色々してきて辿たどり着いた結論だ。

 ゲームはあくまでゲーム。

 出会い系サイトでも結婚相談所でもないんだ。

 俺の運が悪いのかプレイスタイルが悪いのか、やり込むほどではないのが一番の理由かもしれない。

 禄なプレイヤーのゲーム内限定彼女だってできたことがなかった。


 だから談笑しながら、女性と町を歩いてる今の状況は異常事態なわけ。

 ネカマであれば、安心して会話も平気でできるし友人にもなれそうだ。

 リアル女性であれば、緊張するしわくわくするし、友人にもなりたいが、友人でいられる自信がない。

 恋人が欲しい気持ちそのものは存在している。人間だもの。

 だからどっちもうれしいが、どっちも辛い。

 たかがゲームのプレイヤー一人になに出会い厨みたいに悩んでるんだかバカみたいだって言われるのは承知だが、これが彼女いない歴=年齢の真実だよ。


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